一歩
立体モデルが完成した後、俺はすぐさまソックのグループチャットにその旨を伝えた。ただ深夜で、みんな寝ていたらしい。俺も一度寝て、朝起きてから大量のメッセージが届いた。
俺は大学に着くと、研究室に直行した。個人パソコンの立体モデルを研究室のパソコンに読み込ませ、精密シミュをした。
やっぱり中途半端なシミュとは格が違う。熱運動やカシミール効果を踏まえたシミュだと、所々の調整が必要になった。ベアリングの球のサイズ調整や、結晶構造の材料の変更など、細かい調整を済ませるとナノマシンは正常に作動してくれた。
次に俺は、ナノマシンを群体でシミュさせた。ナノマシンを真空空間に散布し、想定した通りの自在な力場を作れるのかどうか。ついでに空気中や、ついでのついでに水中でも。その結果は、俺の今までの人生の中で最も幸せを感じさせてくれるものだった。
外部からの信号で力場を発生、操作させられたのだ。
俺が研究室内で狂喜乱舞しているところに入ってきたジョージの顔を見た時に、その狂喜はスッと胸の奥に引いていったが……
「お前、何してんの」
ジョージの問いに、俺は平静を装って答える。
「すまん、ちょっと嬉しくてな。ナノマシンの群体制御と、電磁場の遠隔発生ができた。ナノマシン放出時の電力次第では、その磁力は相当なものになるぞ」
ジョージはパソコンの前に突っ立つ俺に駆け寄って、肩を掴んできた。
「マジで!?擬似的な気体電磁石じゃん!しかも形状も制御できんだろ!?」
「まぁ、形状っていうか、配置っていうか」
顔が近い……俺は目線をジョージからパソコンにずらした。
ジョージは続ける。
「スゲーじゃん!俺マジでできるとは思ってなかったよ!正直SF感覚だった!ごめん!」
「えぇ?あー、いや別に」
パソコンの中で蠢く電磁場は、常に姿を変え続けている。
俺はジョージの手を振り払い、パソコンの前の椅子に座った。そしてAIに、ナノマシン群体で立方体を形成させるよう命令した。
ナノマシン群体はまるで一つの集合意思を持っているように動き、変形し、立方体を形成した。次にピラミッド型、三角錐型、そして球体を形成した。
球状のまま環境条件に風を追加すると、ナノマシンたちは一瞬乱れたが、すぐに球体を形成し直した。風下に向かい、ナノマシンが霧のように少しずつ散っている。霧のように放出されたナノマシンの反作用だろうか、ナノマシン群体球はその場で静止している。
ジョージが食い入るようにその画面を見た。
「すげー……これ、エネルギー革命起こせるだろ」
俺はジョージのその言葉の意味が理解できなかった。
「ん?どういうこと?」
「ナノマシンだから、ナノ単位で精密に電磁場の制御ができるんだろ?核融合炉にぶち込めば電磁流体発電できるぞこれ」
「んな馬鹿な……そんな高温に入れたらプラズマ化するし、それ以前に壊れ……いや」
俺とジョージは顔を見合わせた。
群体シミュを中止し、ナノマシン単体に戻す。そしてナノマシンに流す電気の数値を上げ、磁場を広くし、磁力を強めた。その状態で環境を空気中に設定して、温度を一旦摂氏0度に設定。シミュを始めた。
すると、空気分子がナノマシンを避けるような動きを見せ始めた。俺はジョージと共にそれをを食い入るように見る。
徐々に温度を上げる。20度、50度、100度、150……空気分子はそれでもやはりナノマシンを避ける。1000度、2000度、3000度……電離した荷電粒子も同じだった。5000度、6000度、7000度……10000度。
ナノマシンは崩壊しない。
ジョージは感嘆した。
「小さな地球みたいだ……すげぇ。核融合とまではいかなくとも、何かしらは……」
俺は同意した。
「これは……もしかして、大したもん作っちまったんじゃ」
まるで魔法じゃないか。
俺たちがそのシミュを眺めていると、サイモン、ラナ、エリーの三人が研究室に入ってきた。
サイモンが手を振って俺たちに声をかけた。
「やぁ、お二人さん。ジャック、とうとうできたって……」
彼が言い終わる前に、俺とジョージは振り向き、声を重ねた。
「すげーぞ!これ!」




