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魔法幻想の崩壊

 邪魔者は消えた。迷宮を進むだけだ。あの美しい空を降ろすだけだ。いつのまにかあの空は、だいぶ近付いた。あの空は微かに虹に揺らいでいる。なんて美しいんだろう。

 走るんだ。進めば進むほど、あの空は降りてくる。

 鍵穴に素早く鍵を差し、扉をこじ開け、走る。行き止まりに当たったら、走って引き返す。

 ひたすらに走る。この迷宮の果てに着けば、俺の夢が叶うんだ。

 曲がりくねった道を走る。全力で走る。不思議と、息は上がらない。疲れも感じない。

 ふと立ち止まり、空を見上げれば、見上げた空はもうすぐそこまで降りてきている。

 その空は、虹に揺らぐ。なんて美しいんだ。その揺らぎの奥に、何かぼんやりと映像が浮かんでいる。なんだろう、人か?

 兎に角、走らなくては。数式を解かなくては。そう思って走り出すと、すぐに巨大な扉にぶつかった。今までに見たことがないほど巨大で、鍵穴も多い。ギリギリ手の届くところにずらりと並んだ鍵穴は、ざっと数えても二ダースはある。

 どうするの?とりあえず一旦、クーロンの鍵を全部に差してみよう。

 俺はポケットから、クーロン力公式と書かれた鍵を取り出した。鍵を持ち、手を伸ばし、爪先立ちになりながら全部の鍵穴に差してゆく。

 手応えがあったのは、十五個だった。まだ手応えのない、解錠できていない鍵穴がいくつかある。次に俺は、ローレンツ力公式と書かれた鍵を取り出した。先程手応えがなかった鍵穴に、順番に差してゆく。次に手応えがあったのは三つだけだった。

 あといくつかの鍵穴には、手当たり次第に色んな熱運動関連の公式の鍵だったり、電磁気力関連の公式の鍵を差し込んだ。それによりいくつかの手応えが得られたが、鍵穴は一つだけ残ってしまった。

 なんだろう。どの鍵が合うのだろう。分からない。どれだ?どれだ……電磁流体?いや、これは一つ一つが磁石のナノマシン群だ、流体じゃない。もう大体の電磁気系は入れたし、あとは……そうか、複雑に考えすぎた。基礎の基礎を使えば。

 俺はポケットから四つのマクスウェルの鍵を取り出した。

 四つを差し込むと、ファラデー・マクスウェルの鍵が俺に手応えを与えた。

 扉が大きな音を立てた。鍵が開いたらしい。

 大きな扉を体で押し開ける。そしてそこから一歩前に出ると、空が一気にぐんと降りてきた。

 その空は、ただひたすらに虹に揺らいでいる。その奥から、ブレーキ音のような音が聞こえた。悲鳴のようにも聞こえるんだ、耳をつんざくような、甲高い音。耳鳴りのように、頭の中で響く。神秘だ。美しい。

 俺は走る。もう終着点までもうすぐそこだ。一歩走る毎に、空は、虹の揺らぎは目に見えて近付いて、降りてくる。

 見上げるまでもなく、その空は視界全体を、ゆっくりと侵してゆく。目玉の内側に、虹の揺らぎの――魔力の奥に浮かぶ淡い映像が浮かぶ。

 その映像は、何故か美しいと思えなかった。なんだ、この映像は。

 雪が降る森。そこにいるのは、大量の人型ロボットのような……彼らの手に持った流線型の小銃らしきものの銃口から、魔力が勢い良く解き放たれる。魔力は一つの線となり、森を突き進んだ。周りの雪が溶ける。進路上の木に穴が空く。そして、進路上の人型ロボットにも、穴が空いた。そこから血が吹き出す。勢い良く、とめどなく吹き出す。その血は白雪に黒を帯びた赤をもたらした。

 人型ロボットから、悲鳴が聞こえる。その悲鳴は耳鳴りのように、頭の中で響く。

 それだけじゃなかった。他にも、数多の映像が同時に視界を侵している。

 水槽の中に閉じ込められた人間がずらりと並ぶ映像。脳に大量の配線を繋がれ、瞳孔が収束している人間の映像。頭が不自然に巨大な人間の映像。片腕だけ太く、片足が半分無い人間の映像。骨と筋肉と皮のない、標本のような何かが水槽の中で浮かんでいる映像。単独で水槽にずらりと並べられる、生殖器たち……

 なんだこれは。こんなの魔法じゃない。見間違い――いや、幻覚だ。疲れたんだ。これだけ走ったらそりゃ疲れる。目眩もする。

 兎に角、終着点を目指さなければ。魔法を目指さなければ。走れ、走れ、走れ。

 見えた!あの門だ!開け放たれ、俺を迎えている。俺を待っていたんだ!あのもんをくぐれば、空は……魔法は完全に降りてくる。魔法が現実になるんだ。魔法が、現実に!俺の夢が叶う!俺のこれまでが報われる!

 魔法が、魔法使いが、その存在が証明されるんだ!走れ、早く早く早く。

 走れ、走れ。

 走れ。

 俺は門をくぐった。魔法の空は深く深く降り、完全に迷宮を満たし、一つの巨大な水槽のようになった。一つ、新しい世界ができたような気がした。その世界のデータを全てパソコンのAIに落とし込み、完成した論文を公開した。

 作業が済んだ後、俺は魔法の空を泳いだ。虹に揺らぐ空は、なんと美しい……

 耳鳴りが聴覚を裂く。幻覚が見える。血にまみれた雪景色、大量のキノコ雲、空に浮かぶ流線型の戦艦、その船から聞こえる悲鳴、人と人工物の境界が曖昧な世界、そして、ラナの声。

「人殺しの道具」

「これから起こる大量殺人と、人間の兵器化」

 ラナの声が、耳鳴りとともに脳内で反響する。

 嘘だ、そんなの嘘だ。魔法は魔法で、美しいものだ!兵器じゃない!ただ、ひたすらに美しくて、綺麗で、とても――便利で、汎用性が高くて、破壊力がある。人殺しに適している。

 あぁ……

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