苦
三題噺もどき―はっぴゃくじゅうに。
授業中の静かさが嘘のように、喧騒が校内を支配している。
誰も時計を気にすることもなく、ただ今は好きなように過ごしている。
会話を楽しむ人も居れば、さぁさぁと外へ連れ立つ人達もいる。
もうほとんどが昼食を終え、掃除が始まるまでの有意義な時間を過ごしていた。
「……、」
当然のように、自分のクラスではない教室に居座っている。
回りは、もう見知った顔ばかり。自分のクラスの人間より、先に顔と名前を覚えた。
隣には、今日もあの子がいる。
「……、」
教室の端の方では、リップやファンデーションを持った女子数名が会話をしながらメイクをしている。うっすらとしている程度なのだろうが、バレたら面倒だと言う事が分からないんだろうか。ああいう女子……というかああいう多少手がかかりそうな人程教師が好むのだろう。それはいつの時代でも変わらないんじゃないだろうか。
「……、」
まぁ、それはそれで。
私には関係ないのでどうでもいいのだけど。生憎化粧というモノに興味が1ミリも湧かなくて、社会人になったときにどうしたものかと頭を抱えることになりそうだ。多分一生しないと思うけれど。
「ん?どうしたの」
「なんでもない」
この子は、メイクなんてしなくても綺麗だからなぁ。
小さな顔に、整った目鼻立ち。長い髪は真っ黒で、太陽の光に当たるとキラキラと光って見える。身長はそこまで高くはないが、全体的にほっそりとしていて、見える指先は白魚のよう。肌も綺麗で、興味がなくても少々羨ましいと思ってしまう。
「……、」
あそこでメイクをしている女子達がかわいそうに思えてくる。
いや別に、彼女らがどうこうというわけではない。興味もないからな。
目の前で楽しそうにしている、この子が一番きれいでかわいい。それだけで十分。
「つぎ、これ食べてみて」
そう言って差し出されたのは、机の上に広げられたクッキーのうちのひとつ。
並んでいるのは、熊の顔をしたやつと、ハートと、口紅の形をしたもの。
味を言ってしまえばすべてココアなのだけど、その量、というか苦さというか、そのあたりが少しずつ違うらしい。
「ん、」
手がふさがっていたので、差し出されたハートをパクリと食べる。
程よい苦みと程よい甘さで、私的には一番好みの苦さだった。
最初に食べたのは少々砂糖が多めだったのか、かなり甘かったし―甘ったるいキャンディでも舐めているのかと思うくらいに甘かった。どれだけ砂糖を入れたのだろう。―次に食べたのは、カカオの味が強すぎて苦みが勝っていた。
「これおいしい」
「やっぱり?これくらいがいいよね」
「ん、その2種類も美味しいけど、これくらいが丁度いいかも」
「だよねぇ――ちゃんも食べてみて」
すぐ近くにいた別の友達にもクッキーを差し出す。
まぁ、何をしているのかというと、気たる来月のバレンタインに向けて、試作をしてみたから試食してほしいと言うわけだった。そこはチョコレートではないのかという感じだが、教室内は暖房が入っているものだから、溶けても困るし、クッキーだと大量生産がしやすいのだろう。チョコレートも高くなっていると聞くし。
「これ食べていい?」
「えーそれ一番にがいよ」
「知ってるよww」
しかし、今日のは、試作の量ではない気がする。絶対作りすぎたから持ってきただけでは……たまにこういう抜けている所があるんだよなぁ。
どうやら、本人的には正解が出ているようだが、好みというものはそれぞれ違うから気にはしているんだろうけれど。
「えーほんとぉ」
「……」
美味しい美味しいとほめられてまんざらでもなさそうに照れている。
ほんの少しだけ耳の先が赤くなっている。
「……」
口の中には、カカオの苦みが広がる。
ほのかにある甘さはあっさりとかき消され、舌に残るのは苦みだけ。
「――?」
「ん?」
「苦いなら無理して食べなくていいよ」
「いや、おいしいよ。」
そういいながら、もう一口。
口の中に運んだ。
お題:キャンディ・クッキー・口紅




