case2:荒井牧子(無意識)
やっと終わった。
今日も残業終電帰り。
そして5時間後には出社の準備。
何してんだか・・・
これがここ最近の私の仕事のリズムである。
朝6時起きの終電帰りからの2時寝。
土日祝日関係なし。
プロジェクトが終わったらたまの休み。
こんな生活を早10年。
仕事に追われる毎日を送っている。
はぁ。
せめてこれで給料が高ければいいんだけどなー、
そう給料も薄給なのである。
使う暇がないのに生活するので消えていく。
はは、
考えれば考えるだけで泣けてくる・・・
馬鹿らしいからもう寝よう。
瞳を閉じて夢の世界へ・・・
そして、その日私は珍しく夢を見た。
初めていく喫茶店でコーヒーを呑んでいる。
なんてことのない夢だ。
だが、それが妙に居心地が良い。
静寂の中で飲む一杯のコーヒー。
ミルクも砂糖もなしのブラック。
気付いたら、コーヒーを飲み終えていた。
もういっぱいだけ・・・
こんなにゆっくりできるのは夢だから。
そう夢に違いない。
私は普段の目まぐるしい日々ではあり得ない程、優雅におかわりのコーヒーを飲もうとした次の瞬間。
ジリリリリリリ
ジリリリリリリ
スマホのアラームで現実世界へ引き戻された。
また、今の夢を見たいな。
悲しかったが、心が少しホッコリしていたのでいつもと違う気分で仕事へ向かう準備を始めた。
ねぇ。
お姉さん。
あんなので良いの?
サポートの山方が聞いてくる。
うん。
いいの。今回はね。
そうコーヒーに映し出された彼女の行動を見ながら会話をする。
荒井牧子
彼女こそが今回の対象者だ。
歳は25歳
IT系の企業に勤める3年目の若手社員。
人当たりがよく会社での評価も上昇。
ただ、頼まれごとが断れない点はたまに傷。
そして、死にたがりでも何でもない。
この情報を聞くと山方は不思議そうな顔をして聞いてきた。
なんで、彼女が対象者なの?
俺も人のこと言えた達ではないけど、何にもないように見えるよ?
そう彼は聞いてきた。
今はね・・・
何かを含みながら彼女はそう答え、続けて話した。
輪廻転生の話はしたよね?
その中で、死ぬはずじゃない命と死ぬはずの命があるの。
今回は死ぬはずじゃない命。このパターンなの。
彼は眉間に皺を寄せて考えながら黙って話を聞いている。
でもね。それはあくまで今の話。
これが明日になったら彼女は死ぬ命。自害死になるかも知れないの。
それは私達からしても困ること。
そしてそこにいくと引きもどすのが大変の。
だからつまらないかも知れないけど今回はその前で引き止めましょう。という形なの。
ふーん。
彼は自分の時のように壮大な異世界をまた見ることができると期待していてのか若干期待外れな感じで心無い返答をした。
全く、楽しい、楽しくないで切り分けられる仕事じゃないんだからさ。
呆れ口調でクロが言う。
ごめんよ。そんなつもりで言ったんじゃないよ。
山方も慌てて謝る。
どうやらここには上下関係があるみたいだ。
さてと、では私も移動しますか。
それでは、留守番よろしくね。
そういうと、2人のリアクションも待たずに彼女は2人を置いてお店を出ていった。