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case2:荒井牧子(変化)

そろそろ晩御飯だよ。

起きな。


彼女の声で私は目を覚ました。


下に行くにつれ、美味しそうなご飯の匂いがしてきた。

気付いたらお腹もグゥ〜っとなっていた。


美味しそう。

目の前の料理を前に自然と言葉が溢れる。


さぁ、思いっきり食べな。


その言葉に後押しをされ、私はご飯に手を伸ばす。


そのご飯は本当に美味しく、私の眼からは自然と涙が溢れ出していた。


いつもはコンビニ弁当が食べない私、こんなに温かい料理を食べたのはいつぶりだろう。

そう思っているうちに田舎に暮らす家族の顔が頭に浮かんだ。


会いたいな。


私はボソッと呟く。


次の瞬間、今までの景色が最初に訪れた喫茶店に戻った。


お帰り。


彼女は相変わらず淡々とした表情で私に問いかける。


ただいまです。


少し照れ笑いをしながらそう彼女に挨拶をした。

そして目の前には冷えた飲みかけのコーヒーが一杯。


どう?

答えは出たの?


彼女がまた問いかける。


はい。

ちょっと残念な所もあるけど、答えは出ました。


私が以前より晴々とした顔で言うと彼女がそんな私の表情を見て話しかけてきた。


残念なところとは?


そんな彼女の問いに私は少し照れ笑いをして。


いや、その、なんて言うか。

あのご飯、ちゃんとたべたかったなー。って、


彼女はすこし呆れながら、なら食べる。


彼女はそう言うとすこし席を立ったかと思うと、奥からあの時の料理を持って来たのだ。


うわぁー、

あの時の料理だ。


どうぞ。


彼女はそう言って、私の前に料理を並べた。


あの時は大人数だから大皿だったけど、今回は貴方だけだから小皿になるけど、そこはいいよね。


彼女の小さな心の気配りに感動しつつも、料理に完全にロックオンしている今はそこまで意識がいかない。


はい。


話半分に目の前の料理を食べ出す。


おいしぃ。

あっ、これも美味しい。

あっ、これも。


品という言葉が何処へやらというぐらいにがっついてる私を彼女は穏やかな表情で見つめる。


どう?

これで全部満足?


彼女は悪戯っぽく言う。


はい。

これで何も思い残すことなく実家に帰れます。


そう。

これが彼女の出した答えだった。


正直、今回は賭けの部分もかなりあった。


もし彼女がこの世界に残りたいと言ったら。

現実とのギャップにふさぎ込んだら。

自分の気持ちと向き合わず誤魔化したら。


でも、彼女はそのどれもを選ばないでいてくれた。


もうちょっとここに通わせてからでも良かったんじゃないの?


クロが少し怪訝そうに言う。


いいの。

伸ばしたら伸ばしたらでまた変わってくるし。

彼女の判断は、この世界で生きること。なんだから。


私がそういうと、山方がひょこっと。


結構行き当たりばったりなんだな。


と、そしてゲンコツをごつん。


いてぃ。

何も叩くことはないだろ。


彼は不貞腐れて厨房へ戻って行った。


ねぇ。彼女はもう大丈夫よね?


そうクロに私は問いかけると、クロは少し意地悪な顔をして、それはわからないさ。でも、また対象者になった際にはキミが担当してあげればいいんじゃない?


そんな言葉、その先にいる幸せそうな彼女をみて、私の口元がそっと緩んだ。

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