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Number9  作者: 渡橋銀杏
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「失礼します。ハクライです」


 ちょうどドアの前につくと、ハクライはノックで内側にいる人間に名前を告げた。

すると、その瞬間にドアが内側に開く。やはり、室内も荒れ果てていた。

 もちろん、ドアが一人でに開いたのも魔道具の影響だ。


「ようこそ、ナナ=ルルフェンズさん。主人は留守です」


「あ、その子がレプリカ。その名前の通り、お人形さん」


 レプリカ。その意味は複製品。


 若干、人形とは違うが、まあ人の複製品だと考えれば適切な名前である。ある意味、ナナの擬人兵と似ている部分はあるだろう。しかし、違いはある。その最たるものが、レプリカは誰の指示も受けずに行動している事だ。


 厳密に言えば他者からの魔力干渉が起こっていない。自立した魔法としてこの場に存在し、自らへ魔法をかけて行動している。それはもはや、人間と変わらない。

 魔道具が魔道具を操り、魔道具を作る。


「こんにちは。私はレプリカです。苗字はありません」


「よ、よろしくおねがいします」


 ナナは、鋼で作られた手を握り返す。すると、レプリカは少し笑った。


「ナナちゃんは、何の魔法が使えたら嬉しい?」


 ハクライの唐突な問いに、ナナは普段から思っていた一つの魔法を言葉に出す。


「盾魔法と、回復魔法かな」


 結局、ナナが軍を率いる際には擬人兵を中心とした人海戦術が基本となる。

 その強さは他の軍隊を圧倒するほどで、目立った死角はない。仮に言うならば、ナナ以上の魔力を魔法使いが戦場に現れ、なおかつ反立魔法、いわゆる他の魔法を打ち消す力が無ければ、ナナが敗れるようなことはないだろう。


 どの戦闘でもそうだが、大将をとれば軍はただの烏合の衆へとなりさがる。


 特に、ナナの持つ擬人兵はナナがもしも命を落とすようなことがあれば、すぐさま蝶へと変わるだろう。なら、単体の防御力を向上させることが最もナナにとって求められたことだ。ナナという柱が崩れれば、戦線が崩壊してしまう。


「わかった。三日くらいかかる」


 レプリカは、ナナの言葉を聞いて頷く。


「ああ、そうそう。この子がその魔道具を作れる数少ないメンバーの一人。もうひとりの人は今、行方不明なのよ」


「行方不明?」


 どうやら、もう一人の魔道具の作者。職業名で言えば魔道具加工技師のタルキニコスという人物は、前回の戦闘以降は消息がわからないらしい。

 タルキニコスと言えば、共和制アンドロマキアの時代から魔道具の加工でその右に出るものはないと言われたほどの腕ききだった。


「前回の戦闘と言えば、トロンとアストラムですか」


「そうよ、あなたたちも協力してくれたみたいね」


 そう、ナナたちの村に近い位置にある大国、トロンとその同盟相手であるアストラムが侵攻してきた際に防衛にあたったのがレジスタンスで、その行動に協力したのがナナたちだった。その縁もあって、レジスタンスに誘われた経緯がある。


「そう、その件なんだけど……」


 どうやら良い話ではなさそうだ。既にガチャガチャと鉄くずや鉱石をいじっているレプリカをおいて、ハクライはナナに耳打ちする。


「たぶん、あと数日もすればあなたには出撃してもらうことになる」


「ええっ!」


 いきなりすぎる。


 ましてや、ナナにとっては初の実戦だ。いや、トロンやアストラムとの戦争に参加はしたけど、あくまで向こうも本気ではなかっただろう。実際にナナは、戦場にすらも立っていない。丘の上から擬人兵が戦うのを眺めていた。

 主要な戦線を担当していたのは、レジスタンスのパドリオ部隊だ。


「サンクチュアリさんはあなたの能力を高く買ってる。あなただけで出撃するわけじゃないからね。でも、覚悟はしておいたほうがいいと思う。あとは、準備も」


「準備……」


「具体的には兵糧かな。あなたたちは食べ物が少なくて済むけど、それでも長期戦になれば厳しいでしょ。向こうではきっと、まともな食べ物はないと思うから」


「向こうって言うのは?」


「おそらく、最大の争点はアストラムとミスリルの国境線付近」


 なるほど、私たちはその二国の領土問題に介入するつもりでいるということか。

 しかし、それはレジスタンスの理念と違うような気もするが。


「そういう詳しい説明はサンクチュアリさんに聞いて。とにかく、私が出来るのはミスリルの情報を回す事だけ。私はサンクチュアリさんに従う。あと、私はあなたたちの部隊に参加させてもらうことになるわ。よろしく」


「よろしくおねがいします。じゃあ、さっそく」


 ナナが言葉を続けようとしたのを、ハクライが遮る。


「そういうと思って。部屋を借りておいたよ」


 大陸の北部で争うミスリルとアストラムの間にある火花が、ぱちぱちと音を立てている。その炎が導火線に引火するときに、ナナはそれをできる限り被害を抑えるために動員された。人が死ぬことは望みじゃない。


 もちろん、必要な犠牲はある。きっと、アンドロマキアの再建には大きな悲しみが伴うだろう。多くの血が流れるだろう。だけども、ナナはそれを唯一の救済であると信じて、少なくとも人々が平時は明日の食事も、戦争のことなども考えないで平和に笑っていられるように、自分を犠牲にする覚悟がある。


 アンドロマキアが崩壊したことで、苦しんでいるのはアンドロマキア国民だけではない。周りにある大国はアンドロマキアが持っていた肥沃な資源地帯を獲得しようと動き出し、地方領主などと衝突している。


 他国を出し抜くために急速な軍拡を進めて、その税を負担しているのは他国の国民でもある。元々、他国の国民だって戦争なんてしたくないのだ。人は善として生まれるから、たとえ顔も知らない相手だとしても、人が亡くなれば悲しいはずなのだ。


 それが日常であるべきなのに、もうそれは過去のものである。人々は自分の欲望のために武器をとり、戦いに備える。それがナナにとっては何よりもの悲劇だ。非日常であるはずの戦争が、大陸のどこかで常に起こっている。


 剣を持つことに対して、違和感を持たなくなっている。


 ナナはそれが嫌だった。だから、戦う。

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