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Number9  作者: 渡橋銀杏
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擬人

「すごいオーラだったな」


 スガリがナナに耳打ちする。

 それにはナナも同意だった。いまも、動悸がおさまらない。


「まあ、あなたも時代が時代なら有名人なんだけどね」


 そう言ってハクライが笑う。確かに、孤児の少女が成人前に軍役について、それが

魔法使いだと言えば、興味をひきそうではある。


「魔法使いか……たぶん、さっきの魔道具を作ってくれた子もいると思うよ」


「へえ、魔道具なんてなかなか見ることが出来ないから楽しみ」


 田舎で見るようなものではないし、アンドロマキア時代はそもそも許可を得ていない人は製作、使用、および所持すらも厳しく制限されている。それくらい、扱い方によっては危ない使い方のできるものだ。

 そのため、闇市場の裏ルートでは高値で取引されている。


「ナナちゃんにはそんなもの必要ないと思うけどね。何の魔法が使えるの?」


 魔法には種類がある。大きく分けると、火や風を発生される攻撃系と治癒や防御などの守備系、さらに転移や使役などのその他と呼ばれる魔法。


 その種類は多岐にわたり、さらに使用する魔法使いによって特徴があるので、数えきることはできない。例えば、同じ使役魔法でもナナの様に味方を作るために新たな人を生成することもできるが、相手の脳に干渉してこちらを複数人に見せることや、こちらの姿が変わったように見せることもできる。

 仮に結果は同じでも、そこまでのルートは無数に広がっているのだ。


「私は使役魔法だけですよ」


「え?」


 別に一種類の魔法しか使えない魔法使いは珍しくもない。

 なのに、ハクライは大袈裟と言ってもいいほどに驚いていた。


「使役魔法に全部の魔力を費やしたって事?」


「そうそう、そのイメージで間違っていないです」


「そんな……」


 ハクライはまるでバケモノでも見るような目で、ナナを見ていた。


「なんでそんな目で見るんですか。別に不思議なことじゃないでしょ」


 魔法にはそれぞれ用途がある。


 例えば、海運業に従事する魔法使いが炎を扱う魔法を持っていても、そこまで恩恵は大きくないだろう。それなら、その分の魔力を、風を操る魔法に注いだほうが良いに決まっている。使える魔力量を百とすれば、ナナは全て集中させただけだ。

 しかし、どうやらそう簡単な話ではないらしい。


「ちなみに、使役魔法って言うのは普通だとどれくらいなの。ここでの普通って言うのは全種類に均等に魔力を割り振った場合って意味なんだけど」


「そうですね。だいたい、目を五秒以上そらさずに見つめ合えば、相手の思考が二択になった場合の判断を、本来その人がするべきだったものと逆の選択をさせるくらいですか」


 回りくどい言い方ではあるが、これは元素法典の記述通りだ。すべての魔法に関する説明がのっており、わかりやすく言い換えると、相手に間違った選択をさせることができる。これだけでは、ビジネスや一対一の戦闘で役に立つくらいだ。


「じゃあ、ナナちゃんは?」


「う~ん、とりあえずこの建物内の全員なら同時に操れますよ」


 詳しくは知らない。最大のパワーで使ったこともないけれども、それくらいならできそうではある。事実、新たな人間を生成するのに魔力を使って、なおもその人間を操るくらいのことができるのだから、別に驚くほどの事でもない。


「うん、確かによく考えるとヤバいな」


 スガリが横でツッコんでいる。

 そうだろうか、ナナからすれば当たり前のことだからわからないが、どちらかといえば不便を感じる。だって、喉が渇いた時に水を飲めることのほうが、日常生活においては便利な気がする。もちろん、あくどい考えを持つ人ならば人を好きなように操って大儲けしようと考えるのだろうけど、ナナにそんな考えはない。


 しかし、戦闘において、指揮官としてナナの才能を生かす方法としては使役魔法にすべてを注ぎ込むのが最も正しい。いくら単体が強かろうと、戦況を動かすことはできない。そんなものは、創作の話だ。


「お前は美味しい物を食べて暖かい布団で眠ることができれば十分だもんな」


「まあね」


「でもあなたみたいな人が魔法使いで良かった。敵国にそんな能力を持つ人が居れば脅威でしかないもんね。私の率いる一隊なんて軽く操ることができるんでしょ」


「確かにそうですけど、どうなんでしょう」


「どうなんでしょう?」


 ナナの疑問口調に、ハクライも不思議そうに首をかしげる。

 なぜ、ナナがどうなんでしょうなどと言ったのか、それには理由がある。


「私、今までに人を操ったことが無くて」


「えええっ!」


 ハクライさんも感情が忙しい。


「なんだか、人を操るっていうことがなんだか性に合わないというか、いい気分がしないんですよね。もちろん、記憶の書き換えくらいはしてますけど」


「ちょ、ちょっと待って。記憶の書きかえって何?」


 ナナはまず、人を操る原理の説明から始めた。それはあまりにも突拍子もない話だったので、ハクライさんは混乱しながらもなんとか彼女なりに理解したようだった。まあ、ゆっくり理解してくれればいい。


「なるほど、でもそれならどうやってその魔法を使って戦うの?」


「それは簡単ですよ。おいで」


 ナナが先ほどまで歩いてきた廊下の方に向かって手招きをする。その瞬間だった。


 魔力痕が床、壁、空中の様々な場所に現れて輝きを放つ。そして、それらから蝶が一羽、また一羽と羽ばたきだした。まるで、桃源郷のような光景に圧倒されそうになる。スガリも何度見ても、慣れはしない。本当なら見られるはずがない景色を、使役魔法をナナほど極めれば現実の物理法則に干渉できる。


「だいたい、魔力を集中させれば、ほら」


 ナナが意識を一点に集中させると、蝶が重なり、だんだんと形が作られてゆく。

それは、だんだんと大きくなり、ついにはナナ達の視線と平行になった。


「使役魔法究極奥義。魔力を使って新たなる物体を生成する」


 その言葉が終わると同時に、蝶はしまっていた窓を抜けて空に飛び立っていった。

そして、そこにはまごうことなく女性がいた。


「うん、今回も上手くできたわ。カワイイ」


 ナナがそこに生まれた人形を撫でる。

 しかし、その人型は表情かえることはない。ナナが念じると、その人型はにこりと微笑んだ。ナナは基本的に、女性の形を好む。まあ、気が置けるのだろう。


「別に、人だけしか操れないわけじゃないですよ。脳のシナプスまで操ることができるんですから、大気中に漂っている魔力痕を集めて人にするなんてわけもないです」


「一応、過去の書物では禁忌とされているんですけどね」


 それこそ、人を自らの意思のみで創造して増やすなんて神の領域だといわれていた時代の事だ。今でも、公的には使用を認められていないが、警察制度の崩壊した国で認められていようがいまいが関係もないだろう。


「それなら、無限に兵士を生み出せるって事?」


「いや、限界があります。私が使役できる人数以上は無理ですし、そもそも指示がなければこの子たちは動けませんから」


「この子?」


 ハクライは、不思議そうに尋ねる。


「ええ、私はこの子たちを家族のように思ってますから。物みたいに扱われるのは嫌いです。この子たちにもしっかりと血は通っています」


 実際に、この子たちの腕をかけば血が出る。それは、ナナがそうなるように作っているからだと言えばそうなのだが、そもそも魔法で新しい人類を生成するなど、理屈などを飛び越えた話だ。それならば、感情を優先する方がいい。


「そう、素晴らしい事ね」


「褒めてもらえたわ。良かったね」


 ナナが再び人形を撫でる。人形はくすぐったそうに笑った。


「それで、私はどうやってその子を呼べばいいのかしら」


「それぞれの具体名はないんです。でも、私の持つ軍隊は大きく括って、擬人兵と呼ばれます。人ならざるものだと言われてしまいます」


「そっか」


 人として扱ってもらえない彼女たちを思うと、ナナは悲しい気持ちになる。

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