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第14話 心機一転

 ヴァスと再会した翌朝、ユスティーナは朝の支度のために部屋に入ってきたサラとリラを見るなり宣言した。


「サラ、リラ。この猫さんは、ここで飼うことにします。それと、私は今日から断食します」

「ユスティーナ様!?」

「にゃああ!?」


 双子たちどころか猫状態のヴァスまで驚きの声を上げた。


「ど、どうしてですか!?」

「猫さんは、その……ふかふかだから……」


 サラに詰め寄られたユスティーナは予想より激しい剣幕に押され、眠る前に考えていた説明をうまく取り出せなかった。


「猫はいいですよ、別に飼っても! そうではなくて、なぜ急に断食など!!」

「えっ、そっち!? そ、それは、その……」


 ユスティーナとしてはヴァスの正体を知られるわけにはいかず、そこだけはごまかさねばと気負っていたのだが、サラも主の健康状態を心配する素振りは見せていたのだ。絶対に今より健康になれるはずの断食にこんなに食いつかれるとは予想外で、ますますしどろもどろになってしまう。


「飼い猫が、ふかふかなら……私は別にふかふかぷくぷくしていなくても、いいかなと……」

『ユスティーナ、いったん黙れ。ちょっとこっちに来い』


 険しい口調の念波を飛ばしてきたのは、もちろんヴァスである。ユスティーナは「少し待ってね」と侍女たちに言い置くと、部屋の隅でこそこそヴァスと話し合った。


「だって、死ぬ気で猛特訓をするのでしょう?」「そ……うですね、あなたの手にかかる前に本当に死んではだめですね」傍目には物騒な独り言を言っている状態になって数分、呼吸を整えて戻ってきた彼女は、不安そうな双子に説明を再開する。


「その、ね。さすがにちょっとばかり、食べすぎたかと思って。だから、断食を」

『断食もやりすぎだと言っただろう馬鹿! 聖職者にでもなる気か!?』


 授けたばかりの助言を台無しにするなと、ヴァスがすかさず念話で突っ込んできた。ユスティーナは急ぎ軌道修正する。


「だ、断食もやりすぎね。そうではなくて、こう、徐々にね。食べる量を、減らしていこうと……」

「やっと分かってくれたんですね、ユスティーナ様!」


 最後まで聞く前に歓声を上げたのはリラだった。


「そうですね、その猫は毛の量が多いだけでやせていますけど、ユスティーナ様は……ユスティーナ様は、違うので!」

「……リラ。失礼よ」


 言葉を選ぶ間は置いたものの、間を置いただけで終わってしまった妹をサラがたしなめたが、その表情を見る限り思いは同じらしい。……やっぱりサラもそう思っていたのね、と多少傷付くユスティーナであったが、それも主を心配してくれているからなのだ。


 ヴァスに殺される資格を得るため、という目的であっても、やせれば周囲は喜ぶだろう。もう銀月の君と呼ばれる資格は失ってしまったが、ユスティーナはみんなを幸福にするために生まれてきたのだ。ならばやせる方法も、誰もが納得できるものにしなければ。


「断食はしないわ。でも、山には籠もります」

「ふぎゃ!?」


 助言を待たず、勝手なことを言い始めたユスティーナにヴァスはまたしても驚きの声を上げた。サラとリラも口々に主を諫める。


「ユスティーナ様、それはちょっと早いですよ」

「そうですよ、山を舐めてはいけません。もう少し段階を踏んでからでないと」

「そ、そうね……宮殿内の散策で息が上がるようでは、早いわね……ならばとりあえず、ある程度肉を落としてからにしましょう」

「にゃ……?」


 あくまでまだその時ではない、という止め方にヴァスは顔を引きつらせているが、少女たちの中では話はまとまった。サラが早速動き始める。


「リラ、ユスティーナ様のお召し替えを手伝って差し上げて。私はマリエルに、食事内容の変更を伝えてくるから」


 分かった、とリラがうなずくと、サラは続けてユスティーナに尋ねた。


「ところでユスティーナ様。食事の量を減らされるなら、そちらに隠されている手押し車も、もうよろしいですね?」

「えっ? あ、あら、サラ、知っていたの?」


 例の手押し車については、ヴァスの件をさらりと受け入れてほしい気持ちが強すぎて忘れていた。思わず口を滑らせたユスティーナを、リラまで憐れむように見ている。


「掃除をしていれば、自然と……ユスティーナ様が触らなくていい、とおっしゃるところには、必ず何かありますし……」

「そ、そうだったのね……ごめんなさい……」

「気にしないでください、ユスティーナ様。もう二度と夜中にお菓子なんて食べないでくださるんですものね! ね!!」


 満面の笑みを浮かべて言ったリラがユスティーナの夜着を脱がせようとし始めたので、ヴァスは急いで寝台の下に避難した。

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