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種明かし

 「「は?」」


 間抜けたような声がマジックルーム全体に響く。この際、昨日も同じような声を聞いたことはおいておく。


 「グ、グレア君、い、今のは何の魔法ですか? 威力が29900だなんて・・・・ 詠唱もなかったですし。そ、それに、全属性の魔法があるなんて聞いたこともありません」


 先生は、まるで亡霊でも見たかのような顔でそう言った。


 魔法の名前を聞かれてるのなら答えることはできる。だが、魔法に関する説明を求められるのならば、それは不可能だ。なぜなら、俺自身の想像をもはるかに超えていたからだ。『レインボーアロー』と言う名前だから属性は七つあると思っていた。だけど、この世界には属性が七つしかないと知らなかったから特段気にしていなかった。威力に関しては論外だ。まさかの一万オーバーするとは想定もしていなかった。それどころか、あと百もすれば三万という・・・・。詠唱に関しては、最初の二人もしていなかったからいらないと思っただけだ。


 [だから言ったじゃん]


 [今の所お前には関係ないだろ?]


 俺は、少々の悪意を込めてそう言ったが返事は返ってこない。どうやら、俺の考えは当たっていたらしい。


 そんなことは今に関してはどうでも良かった。問題は、この場をどう収めるかだ。


 頭を捻っていると、妙案が浮かぶ。


 [そ、それは辞めてくれないか?]


 俺の思考を読んだのだろう。元の体の持ち主は必死に何かを訴える。だが、さっき俺の言葉に返事しなかった元の体の持ち主に返事なんてものはしなくて良い。これでおあいこさまだ。それから俺は、実行に移す。


 「せ、先生。魔力を・・・・使いすぎてしまった・・・・ので保健室に行ってきます。・・・・なので、今日の魔法の件についてはまた明日、もしくは明後日にします」


 俺は、やりすぎではないのかと思うほどの苦悶の表情を浮かべて言った。


 「だだだだだだだだ、大丈夫ですか? 誰か、グレア君に付き添ってあげて」


 「先生、グレアは一人で行きましたよ」


 そう、俺は何か言われる前に保健室に逃げ出していた。幸い、保健室の場所はマジックルームに行く途中に見つけていたからすぐに行くことができた。


 


 「演技というものは疲れるな」


 俺は自室のベッドでそう漏らした。


 ここまでの経緯を説明すると、俺が保健室の先生に事情説明してから三分もしない内にセバスが保健室に乗り込んできた。そして、そのまま空飛ぶ車に乗せられて帰った。その際にセバスに事情を聞かれ、またまた事情説明をした。そして、屋敷についてからは、いろいろと考えるのも面倒臭くなって寝た。そして、今に至る。時刻は、すでに夕方四時くらいだろうか。


 俺には、やらなければいけないことがある。てっきり、向こうから話を持ってくると思ったのに何も話してくる気配がない。


 [おい、元の体の持ち主]


 [なんだい? まだ僕に聞きたいことがあるの?]


 [俺の思考を全部読むことはできたか?]


 [できたよ。いや〜、さすがだね]


 [さすが? まぁいい、読めたってことで良いんだな?]


 [うん。だけど、言葉での説明も欲しいところだね]


 [そうか、なら仕方がない。まず、お前の最大の目的は自分を学校に行きやすくしたかった。もちろん、王子としてのお前で]


 [何でこのタイミングなんだろう?]


 分かっているはずなのに質問される。


 [それは、お前の妹か弟か知らないが入学したからだ。それで、その学校にお兄様がいないとなれば大問題だろ?]


 [正解だよ。すごいね、君は・・・・。ところで、どの辺りでそのことに気づいたのかな?]


 [そうだな・・・・、色々あるが、お前が顔を変えていた魔法の使い方を俺に教えなかった時だな。お前が、自分の正体をバラされたくないのだったら、あの時に必死に抵抗したはずだ。だがあの時に、顔を変える魔法の使い方を教えてしまっていたら元も子もないもんな]


 [それで、他にはどんなところから読み取ったの?]


 元の体の持ち主は、まるで俺を試しているかのような口振りだ。


 [他には、俺がえて『レインボーアロー』を使ったところとかだな。あの時確かお前は、『待って』と、言ったはずだ。元の体に戻ることのない人がそんなことを言う必要はないからな]


 [なるほどね〜 やっぱり君はすごいね。そうだよ、その通りだよ。僕は元の体に戻るつもりだよ。だけど安心して、君の居場所はきっちり用意できるようになっているから]


 さっきから、どこかに違和感を覚えるが決定的にまでいかないから気づくことはできない。そう思ったところで、扉が開く音がした。


 おそらく、セバスだろう。だから、俺は寝ているふりをする。しかし、セバスとは少し違う雰囲気な気がする。だから少し目を開ける。そこには、少し長めの髪をハーフアップにしている美少女がいた。


 「お兄様! 大丈夫ですか? お兄様が魔力切れを起こしたと聞いてすぐに飛んで参りました」


 その美女は部屋に入って扉を閉めるなり、すぐさまベッドの横にまで駆け寄ってくる。


 (まずい、この美少女は多分グリントだ。それに、この様子を見る限りかなりのブラコンの気が・・・・。このまま順調に行くと『お兄様』じゃないことがバレて、追放される気がする)


 とりあえずここは、その場しのぎで対処することにする。


 「もう大丈夫だよ。ほら、ここにいたら魔力切れが移るかもしれないから、早く部屋から出たほうがいいよ」


 俺は、グリントの退出を促す。


 「何を仰っているのですか、お兄様。魔力切れは伝染病ではないのですよ」


 もちろんそんなことは、分かっていた。俺は、『お兄様』じゃないことがバレる前に退出していただこうと思っただけだ。そんなことを思っていると、グリントは再び口を開く。


 「それよりお兄様、次の休みに、この間訪れたテールガルにもう一度行きませんか?」


 グリントは小首を傾げてそう聞いてくる。そこで俺も小首を傾げて『「テールガル」って、どこだっけ?』なんて聞く訳にはいかないから、良い返事をしておくことが妥当だろう。


 「もちろん、時間があったらいつでも行くよ」


 俺がそう言ったのと同時に、グリントが今までと少し違った笑みを浮かべた気がしたが見間違いのようだ。今はさっきと同じだ。


 「そうですか、それは嬉しいです。ところで偽お兄様、『テールガル』には私たち行ったことがないですよ」


 グリントの顔から笑みが消える。


 どうやら、正解だったのは『「テールガル」って、どこだっけ?』のようだ。


 俺は、悪あがきをするために口を開こうとするが、その時間さえ与えられることなくグレアが口を開く。


 「セバス!」


 扉が開いてセバスが入って来る。


 「どうかしましたでしょうか、グリント様」


 「えぇ、この男をちょっとの間、見張っててもらえないかしら?」


 「『この男』と言うのは、グレア様のことでしょうか?」


 「一緒にしないでもらいたいわね。お兄様とこのゲス男を」


 グリントはそう言い残すと部屋を出ていった。すると、元の体の持ち主が俺に声をかける。


 [あはは、絶体絶命みたいな顔をしてるよ]


 元の体の持ち主は、愉快に笑ってそう言った。『KY』なのか疑いたくなる。


 [誰のせいでこうなったか、だな。それにお前、俺の顔が見えんのか?]


 [見えないよ。だけど、予想で大体は分かるよね]


 元の体の持ち主がそう言い終わると同時に、扉が開く。


 「グリントちゃん、本当にそんな不届きものがここにいるの?」


 「その情報は間違ってないのか」


 「はい、私がこの目で確認したので」


 グリントは強力な助っ人と共に戻ってきた。強力な助っ人というのは、言うまでもなく父親と母親だ。言い換えると、この国の王と女王だ。その三人は俺の前までやって来る。さすがに俺だけベッドで寝ているのは失礼にあたるかと思い、ベッドから立ち上がる。


 「あら、意外にもちょっとした礼儀はあるようね。だけど、まだなっていないわ、ひざまずきなさい」


 「グリントちゃん、まずはこの人の話を聞きましょ」


 「そこの者、ここまでの経緯を話してもらおうか」


 三人はこちらに視線を向ける。それも、すごく強いものを。


 俺はこの絶体絶命のピンチに対抗するすべを持っている。それが信じられるかは別だが、このカードを切ることは悪い手段ではないと思う。そんなことを思っていると、元の体の持ち主が何か言っているのが聞こえてくる。


 [『マジックオープン、抽出』]


 俺には元の体の持ち主が何を言ったのかを理解する時間すら与えられずに、視界が真っ白になる。


 そして、少し時間が経ってから目を開くと、隣にはさっきまでの俺の姿があった。要するに、隣には本物の『グレア=レッドハーンプル』がいる。俺は今の自分の姿を見るために姿見で確認する。そこには、薄々気づいてはいたがパジャマを着ている元の俺がいた。


 「っ! お兄様?」


 「おかえり、グリント」


 「おいグレア、これはどういうことだ?」


 「そうよ、この子は一体誰なの?」


 二人はグレアに詰め寄る。


 「申し訳ございません。僕に、固有魔法『抽出』と言うものが使えるようになったので、使ってみるとうまく制御することができずに彼を巻き込んでしまいました」


 「そうなのか! で、一体彼はどこから来たのだい?」


 「確か、日本と言っていました。おそらくは他の星だと・・・・」


 「ほ、他の星?」


 「はい。なので、我が家で生涯客人対応をしていただきたいと思っております」


 「そうか」


 父親はそう言ったのと同時に母親と顔を合わせる。そして、いきなり俺の前で跪いたかと思うと、次の瞬間には頭を地に付けていた。


 「申し遅れました、私はこの国の王をさせてもらっている、グルジア=レッドハーンプルと申します。そして横にいるのが我妻でこの国の女王、セーシェル=レッドハーンプルです。この度は申し訳ございません、うちの息子が。貴方様の御家族様や親しい御友人様と、何の前触れもなく別れることになったことに対するお気持ちを察しろと言われても察することは私どもにはできません。ですが、せめてもの罪滅ぼしとして、我が家において生涯客人対応とさせてもらえないでしょうか? いえ、客人対応とさせてください」


 上げていた顔を再び下げたグルジア。それにならって、レッドハーンプル家全員とその場にいたセバスが頭を下げる。


 「頭を上げてください。別に俺は、そこまで気にしていない。ただ・・・・」


 「『ただ』、何でしょうか?」


 グルジアは顔を上げて聞く。


 俺は、『ただ、どんな人生でも俺さえハッピーエンドになっていれば良い』と言おうとしたが、ここで言う必要もないと考えやめておいた。


 「いや、何でもない」


 「そうですか。ところで、貴方様の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 俺の名前は『森山 光』だったが、この世界の名前に合わせておくことにする。だから少し名前を考えてから口を開く。


 「俺の名前は・・・・『ライト=フィル』だ」


 「ライト様ですね、ありがとうございます」


 「いや、様づけはいらないし、敬語も不要だ」


 「承知しました。ところでセバス、もう夕飯の準備はできているのか?」


 「はい、できております。ライト様の分もしっかりと」


 そこは、俺の分はないから外で適当に食って来いと言われたほうが嬉しかった。


 「そうか、ならば、これから夕食としたいと思う。ライト君もご一緒してくれるかな?」


 グルジアはそう言ったが、それは選択肢を出しているようで一つしか選択肢がない提案だ。例えると、監督に『今から試合に出れるか』と、言われているようなものだ。こんなの、よっぽどのことがない限り断ることはできない。それと一緒だ。


 「あぁ、こっちこそいいのか?」


 「「もちろんです」」


 グルジアとセーシェルはそう答えたが、一人明らかに嫌がっている奴がいる。それは、グリントだ。わざわざ目を見る必要もないほどに視線を感じる。


 「それでは行きましょう」


 セバスがそう促したことによって、俺たちは食堂へと移動することにした。セバスが先頭でそれに続いて、夫妻そしてグリント、グレアと。最後に俺だが、グレアが俺の前を通る際に『やっぱり、僕の真意には気付けないか』と、言ってきた。


 その言葉を聞いて、俺の頭の中で何かが弾ける。さっき気づいた違和感の正体の一部分が見えてきた気がする。


 物事が順調に進みすぎている。まるで、最初から全て事が決まっている様に進んでいる気がしなくもない。だから、今のグレアの言葉は覚えておこう。


 『やっぱり、僕の真意には気付けないか』




 「女神ミスラ様の恩恵に感謝を」


 始まってしまった。楽しい、楽しい夕食が。


 今日の夕食のメニューは、そこら辺にある雑草に墨汁を垂れ流したもの、バッファローのつの、布が散りばめられたスープ、パン以上だ。訂正すると、ヤングコーンにに何か黒いものを乗っけたものと、バッファローの角に似ているものに肉を詰め込んだもの、ヒラヒラが浮いているスープ。最後に救いのパンだ。


 俺はその救いのパンに手を伸ばそうとすると、ニヤニヤした視線を感じる。その視線の先にはグレアがいる。こいつは俺の思考を読む事ができていたから、今の俺の目の前にある夕食についての感想も分かるのだろう。


 俺はその視線を無視して、さっさと食事を終わらせることにする。その間、グルジアが何か言っているが適当に答えておく。どうせ、大したことではないだろうから。




 「ライト様、着きました。今日からこのお部屋で過ごしていただくことになります」


 エルフ族のメイドはそう言うと、丁寧にお辞儀をして去って行く。


 部屋は、グレアの部屋と同じ作りになっていた。家具の配置こそ違うが、置いてある家具の種類は見る限り同じだ。俺は、とりあえずソファーでくつろぐことにした。今日のことを振り返りながら。


 少しの間振り返っていると、グレアに聞いておきたかった二つのことを思い出す。一つ目は、俺に記憶の様なものを見せていたのはグレアなのかということと、もう一つは、『女神ミスラ』は何なのかと言うことだ。


 その時だった。俺の体の中から再び声が聞こえてくる。


 [お呼びでしょうか? ご主人様]

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