第99話 ラバイハサン の 危機。
ベーコンエッグ帝国東方、ラバイハサン。
リラが東オーディン大陸のミラブアの港町へと渡った
西オーディン大陸側の港町。
今、そこに危機が訪れていた。
ラバイハサンの港町は綺麗な三日月状の湾内を持ち
小さめの湾内と湾外を繋ぐ場所を利用し
魔導客船や魔導輸送船、魔導漁船などが出入りをしていた。
しかしこの日、その場所に異常が発生していた。
丁度三日月型は2つの円の1点が重なる様になっていて
その部分が湾内と湾外を繋ぐ唯一の航路となっている。
それ以外は防波堤の役割を果たしていて
海が荒れさえしていなければ、人の足で行く事も可能な上
魔導船の邪魔さえしなければ、釣りすら楽しめる重要な場所となっていた。
その2つの防波堤の突端部分に
ラバイハサンの港町の人々が集まり
唯一の航路を見つめていた。
「畜生………、誰がこんな事を………。」
元々この狭い航路は浅瀬だった。
それをラバイハサンの人達は長い年月を費やし
深く掘るという作業を行い、大きな魔導船が
湾内に入れるようにした、という歴史があった。
しかし今はそれが昔に戻ったかのようになっていた。
いや、それ以上に酷かった。
何しろ浅瀬ですら無く
完全に岩礁が浮き上がってきたかのように
ガチガチに硬い岩で塞がれていたのだ。
それも前日までそのような前触れ1つなかったのに
夜が明け、気が付いた時には塞がっていた。
それによって湾内から出る予定だった魔導輸送船や
魔導客船、魔導漁船などが軒並み出航を中止する事となっただけでなく
湾外から入ってくる予定だった船も
軒並み他の港町へといかねばならなかったり
寄港を断念せざるを得ない状態となっていた。
そして防波堤の突端部分に集まっていた人々が
ツルハシなどを持ち寄って新たに塞いだ岩礁に乗り
力を籠めて砕こう、とするも殆ど砕ける事も無く
むしろ鉄製のツルハシ等の方が壊れるといった事態に頭を抱えていた。
「普通の岩礁などに比べて硬い事を考えれば
かなり強い力で壊すしかないんじゃねぇか?」
「だがこの防波堤の事もある。
下手な魔法で吹き飛ばせばその分、湾内に波が強い勢いで入ってくる。
この防波堤はラバイハサンにとっては安全に湾内で漁や釣りを
する為には必要不可欠なものだ。」
「だからといって魔導船の航行が出来なきゃ
港町にとっちゃ大ダメージだ。」
特に漁師たちが所属する商業ギルドは
船の航行に、切符などの発券業務なども担っている事から
この事件は非常にダメージが大きかった。
そして商業ギルドは事の重大さを鑑み
冒険者ギルドへかなり注文の多い依頼として
高額の依頼料を提示すると同時に
失敗時、また防波堤を破壊した場合などによる
弁済特約、と呼ばれるものを付した依頼を出した。
弁済特約、とはこの場合は防波堤を冒険者のミスや
もし魔物の仕業であった場合、魔物の誘導ミスなど
人為的で避けようと思えば避けられるようなケースで
壊した場合に冒険者ギルド側が弁償、もしくは
その補修に掛かった費用を依頼料から引く、という
冒険者ギルドとしてはこれがあるとやり難い依頼。
しかし冒険者ギルドもこの防波堤は多少の事では壊れない上に
下手に魔法を放たない限りは壊す事は無いと
それなりの自信があった事、また魔導船の航行が無ければ
冒険者の行き来もなくなり、冒険者ギルド自体も
売り上げが落ちる事を懸念し、引き受けた。
そしてそれをどの冒険者に依頼として回すかに
ベーコンエッグ帝国の帝都にある本部も
ラバイハサン支部も頭を悩ませた。
それでもラバイハサン支部は先行して、その岩礁調査に乗り出した事で
その正体が判明し、さらに冒険者ギルドは頭を抱えた。
「ターボカンクだと……!?
だがあれは上が平らではないか!!」
ターボカンク、竜天巻貝とも呼び
小さな螺旋を描いている巻貝の事でもあり
有名なものとしてはサザエやヤコウガイなどがあるが
このターボカンクは巻貝種の魔物である。
超強大なサザエで非常に美味。
とされ、漁師が獲る事も稀にある。
しかし本来は巻貝でも平たい事は無い上に
防波堤から見えているのはどう見ても
ただの岩礁にしか見えない。
しかし水中を得手とする冒険者が居た事で海底側から見た際
これは巻貝の頂上部で、下にはキチンとターボカンクが居たのだった。
しかもターボカンクは巻貝でありながら
その貝の入口に盾のようなものを持っていて
防御が非常に硬く、追い払う事が難しいとされている。
熱にも弱く、一旦は海上に出ている部分に火をつけてみたが
微動だにしなかった為、熱が思った程
ターボカンク本体に届かない、という結論が出た。
またターボカンクの殻を破り
そこから火を入れてはどうだろうか、という事になったが
殻が通常のものより堅く、生半な攻撃では穴どころか
表面を削る事すら難しいと解り
結果、冒険者ギルドは少し離れたところからでも
ランクの高い冒険者を誘致して討伐してもらう事にしたのだった。
そしてその10日後、やってきた冒険者がこれだ。
「俺っ、参上だ!!」
「あんただけじゃねぇだろ、エドワード。」
「そうです、我々は冒険者PTとして呼ばれたのですよ?」
覚えていない人の方が多いだろう。
かのリラの冒険者登録の試験官を務めた
エドワード率いるSランク冒険者PT「不屈」だった。
「偶然だろう?たまたま俺達がこのラバイハサンの近くに居た。
そして声が掛かった。それだけだろう!?」
「……………あのゴリラ女とやらの尻を
エドワードが追いかけてただけの話だろ?」
「なんでこんなのがPTリーダーなんかね。」
「そもそもこれだけのハーレム作っていて
まだ女成分足りないとかおかしくない?」
「何を言っているんだ!ここにはどうしても1つ!
足りないものがあるだろうが!!」
「足りないものなんてあった?」
「男1人に女4人って時点で十分足りてないか?」
「何か私達に不満でもあるって事?」
「もしかして月曜から金曜までが1人づつで
土日は全員!?」
「足りないのはロリータ成分だ!!」
「「「「………はい?」」」」
「チッパイとちびっ子成分が欠けている!
皆、俺が誇れる程の乳を持ち、そして皆美しい!!
だがそれは大人の女性としてだ!
ここには大人でありながら、子供らしさを持ち
対比的に小さく可愛らしい乳の持ち主がいないのだ!!」
「……………エドワード、あんた何か拗らせた?」
「いくら一夫多妻が可能だからって5人目を娶るの?」
「それがあのゴリラ娘?リラとか言ったっけ……。」
「え?あの力任せの?
なんかバランス崩れちゃわない!?!?」
「だが!僕の気持ちも察して欲しい!!
あの子は僕に危機感を持たせるほどに強かった!!
それでいて、今の僕は少し疲れ気味なんだ!!」
「「「「疲れ気味?」」」」
「4人の妻に囲まれ、その全てが皆美しい!
そんな中に1人、そこからかけ離れた一輪の
小さき花!それが安寧をもたらすに違いにと
俺は考え!そして今探しているのだ!!
5人目の妻として!!」
そんな事を大声で語っているエドワードに対し……。
「なんか話が良く解らねぇ、けどあれ殺せねぇかな?」
「ああいうのをリア充って言うらしいな。
昔勇者が言い残した言葉らしいぞ?」
「つか一夫多妻制でその嫁が全員あの美人で
まだ欲しがるとかただの強欲だろ……。」
「しかもロリータとか言ってるし
あいつ(エドワード)捕まらねぇかな!?」
かつてニクジュバンニが気を付けた方が良い、と
リラに助言した男、エドワード。
ロマン武器を扱うこの男がラバイハサンの危機に
駆けつけたが、思いのほかエドワードを歓迎する声が無いのは
他が妻だらけの身内PTであり
ハーレムPTという事も手伝い
むしろ「死ね」「消えろ」と陰では散々な言われようだった。
「ふぇっくち!」
『マスターが風邪をひく訳が無いというのにくしゃみだなんて……。
誰かが噂話でもしてるのでしょうか?』
「一瞬、馬鹿は風邪ひかないとでも言うのかと思ったら
そういや健康持ちだったわ……。」
『つねに毒を吐くと思っているのでしょうか?』
「それを毒だと認識している時点で吐いていると思うよ?」
だがリラは既に隣の東オーディン大陸だ!
どうするエドワード!
こいつぁストライクゾーンが広いぞ!?
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