第95話 G と ミラブア名物。
「へいらっしゃい!」
「イツモノ。」
「あいよ!イツモノイッチョー!」
「「「「「「「イツモノイッチョー!!」」」」」」」
私はお腹がすいて、市場の隣にある飲食店と
飲食系露店の入り混じっている飲食店街へと向かったのです。
しかし私のここまで歩いてきたほんのつい先程の記憶が確かならば
どれもこれも「イツモノ」とか言う食べ物ばかりが注文されている上に
中には「元祖!」とか「勇者公認!」とか「ミラブア名物!」とか
書かれたノボリがそこら中にあるのです。
それとさっきから超ニンニク臭いのと
道路が油っこい、石畳がまるで滑る凶器のようになっていたのです。
そして皆が食べている「イツモノ」??
それはいわゆる「ニンニク」を増しに増した
ラーメンっぽいもの……。
「まさかこれ………。」
『まさかのほぼ全てが〇郎系ラーメン店ですね……。』
なんでもかの邪神を倒した勇者がこよなく愛した、だのと
どの店も宣っておりまして……。
それでも見た目はとてもでは無いけど
私が食べ切れるとは到底思えなさそうな
ドンブリが次々と客に出されては
それが消えていく、と言う状況が見える……。
「イツモノがソノママなのかな……?」
『呪文のようなものが飛び交っているようですが
それが商品名なのですかね?』
「へいらっしゃい!」
「アブラナシサカナカラメマシニンニクスクナメで。」
「あいよ!イツモノイッチョー!」
「「「「「「「イツモノイッチョー!!」」」」」」」
「なんか違った!?」
なんで注文が呪文みたいなのに
通すオーダーが『イツモノ』なの……??
あとヤサイであるべき場所が何故かサカナ。
港町だからなのかな……?
一瞬もやしの変わりに小女子とか公魚が
山盛り乗っている絵面を思い浮かべてしまい
何か〇郎系から遠ざかってしまったけど忘れる事とした。
「へいらっしゃい!」
「サカナマシマシカラメマシアブラスクナメニンニクで。」
「あいよ!シャッチョサンアンタモスキネーイッチョー!」
「「「「「「「シャッチョサンアンタモスキネーイッチョー!」」」」」」」
なんか適当言ってない……?
それラーメン屋で出るワードじゃ無いよね??
「へいらっしゃい!」
「ゼンマシマシチョモランマだ。」
「あいよ!ハライッパイクッテケヨコノブタヤロウイッチョー!」
「「「「「「「ハライッパイクッテケヨコノブタヤロウイッチョー!」」」」」」」
「最早ただの悪口だよね!?!?
店員の呪文の法則性の方が気になるんだけど!?!?」
『それより私は店名の方が気になります。』
「店名?」
端からラメーン長男、ラメーン次男、ラメーン三男??
『ラメーンかつ一郎次郎ではなく、数え方が長男次男になってます。
あと奥の方に何故か長女次女等の店名すらあります。』
「これが勇者の爪痕なのかね……?」
『でも名物らしいですし、食べてみたらいかがです?』
「エー、でも呪文知らないよ?」
『イツモノ、と言う注文が多いですし
それに倣うのはいかがでしょうか?』
「それ日本でありがちなやつだよね。
他の人真似して食べ切れない、とかさ。」
『どちらにせよ、お腹が空いたから
来たんですよね?
ほぼほぼ〇郎系ラーメンばかりですし
これ以外食べられそうなお店がありませんけど?』
「なんでこれだけ町が大きいのに
どこもかしこもラーメンなんだか……。」
まぁラーメンが嫌いな訳でも
家系ラーメンも嫌いでもないし、いけるだろう。
そう思って、1つのお店に入った。
「シャッセ―!」
「最早掛け声が飲食店ってよりガソリンスタンドに近い気がする……。」
それとメニューが無い……。
席に無い、ではなく壁にも書かれてないのです。
ならこういう時は店員さんに聞くに限る!
「すみませーん」
私は手を挙げて店員さんを呼んだ。
「シャシャッセー?」
何故返事までシャなの?
神〇月さんの真似??
「イツモノ!」
「オキャクサン、ハジメテナノニ『イツモノ』??」
何この羞恥プレイみたいなの……。
イツモノ、ってそのまんま常連さん用!?
「………メニューとか無いんですか?」
「シャセ?シャッシャッセ―?」
「いえ、だからメニュー無いんですか?」
「シャッセ―??」
「メニューがあるなら寄こせつってんだよ!!
つかさっきカタコトで喋ってただろうが!!」
「メニューイッチョー!」
「自分で持ってくる気、無いんかい!!」
そしてメニューがやってきたけど
良く解らないけど何故メニューをわざわざ
お盆に乗せて持ってきただけでなく
メニューそのものがラーメンどんぶりに入っているのか……。
まさかこれも注文のうちでお金取られるとか無いよね!?
まぁスープでビッタビタになっている訳でも無いので
気にせずメニューを開いてみると
「ラメーン」と書かれた1品しか無い事が判明……。
「ラーメンしか無いなら無いと
そういえば良いものを……ラーメン1つ。」
「シャッセ―!ワサビマシマシサカナショウユイッチョー!」
「「「ワサビマシマシサカナショウユイッチョー!」」」
「絶対適当言ってるでしょ!?
ただラーメン頼んだだけでなんでマシマシしようとしてるのさ!!」
「シャセ?シャセシャシャッセー?」
「あんた普通に喋れないの!?
普通に喋って説明すれば良いでしょうが!!」
何か残念そうな感じに店員さんが普通に話し始めた。
ここミラブアの港町は勇者が残したレシピ、と言う名の
ただこんな食べ物的なメモを実現させた町で
別名ラメーンの町としても有名なのだとか。
「ラメーンじゃなくてラーメンでしょうが……。」
ラメーンで良いらしい。
勇者の残したメモにラメーンと書かれていた事から
この食べ物はラメーンと呼ばれているとか。
しかも大半が〇郎系な理由も
勇者がいくつか残した種類の中で最も好きだったものらしく
多くがこってりしたものなのだそうだ。
そしてこの店は数少ない醤油味ベースで
魚の骨から出汁を取ったチューカメンとかいうタイプだとか。
そしてチューカメン、というかラメーンが出てきた。
見た目が普通に醤油ラーメン……。
そしてチャーシューが魚だった。
ちゃんと渦巻く様にして、醤油ベースのスープで煮た
煮豚ならぬ煮魚をチャーシューに見立てたような
普通に美味しそうなラーメン、というかラメーンだった。
「うちはかん水使ってちゃんと作ってるからね!
味自慢シャッセ―!」
「ほぅ」
キチンとかん水、重層なのかもしれないけど
使っているとなると期待が持てる。
そしてまずはスープを1口。
「おお、ちゃんとラーメンスープだ!
鳥と魚の出汁が美味しい!」
「シャッセ!」
何故シャッとかシャッセー!とかを多用するのか聞いてみると
勇者の口癖だったらしい。
何してんだよ勇者……………。
「まぁまぁ、うちは麺も旨いんで!
伸びないうちにどうぞシャッセ―!」
「では遠慮なく……。」
しっかりとスープと共に口に入る様に
私は麺を啜った………………………。
「っ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
そして私は駆けた……お手洗いへ……。
※現在リラはお口から出しに出かけています。
湖に浮かんだボートを思い浮かべながら
暫くお待ちください。
私は戻るや否や店員に文句を言ったのです。
「何、このくっそまずい麺!っていうか辛い!痛い!
スープの旨さが麺で全て台無しなんだけど!?!?」
「そうですか?ワサビマシマシの麺でピリっとして
美味しいと思うんですけど?
特注の生のワサビをふんだんに閉じ込めた1品です。」
「ラーメンの麺に山葵は入れないよ!?
あとなんでわざわざ閉じ込めてるのさ!!
普通練り込むよね!?なんで手間かけて封じ込めてるのさ!!」
「勇者のメモにはあったって言うんですけどね……。
何しろ俺らには読めない文字で
これを翻訳してくれた人がそうだって言ってたらしく
昔からこれなんですよ??」
そういって店員さんがその写しを持ってきてくれた。
「これ山葵じゃなくて山椒って読むんだよ!!
みかん系の香辛料だよ!!あとこういうスープに合わせるんじゃなくて
ピリッとした肉味噌だの坦々麺的なピリ辛のスープに合わせる麺で
香りと辛さを味わうような麺であってこういうのに使うもんじゃないんだよ!?」
「ワサビマシマシ」ってこういう事だったとは……。
だからと言って、麺の内側にまさか擦りおろした山葵が
たっぷり入っているなど、誰が思うだろうか……。
「そうなんですね……初代の頃から中々売れないとは
思っていたのですが……。」
「あんたらの舌に問題があったんじゃないの?
これマジで美味しくない、っていうか超マズいよ??」
店員だけでなく店主まで超落ち込んでいたので
ワサビを入れない麺を作らせたら、普通に美味しかった。
あと香辛料と砂糖はこの世界はとんでもなく高級品なので
香辛料と砂糖を抑えた肉味噌を教えてあげ
それと麺を合える、肉味噌まぜ麺とか
少量のスープで食べるつけ麺や
ごく少量の汁で混ぜるまぜ麺、油そば等の類を教えてあげたのです。
特に混ぜる系などはスープが少なくて済む事から
原価率が下げられると有名だった事もあり
教えていくと店主はめきめきと腕を上げ
ワサビマシマシなラメーン店は
ミラブアの港町で唯一まぜ麺、つけ麺、油そばを
扱う店へと屋号を変え、新たなお店に生まれ変わる事を
店主さんはお決めになられたのです。
「シャッセ―!」
「「「シャッセー!」」」
「やっぱシャッセ―!はそのままなんだ……。」
『長年の癖ではないかと。』
「ところでこの屋号、どうにかならないかね?」
『まぁ勇者と同じようなものですから。
仕方ないと思うしかないのでは?』
元祖ゴリラメーン。
私の変わった格好は何かを問われたので
ゴリラ、と答えた事でこうなったらしい。
「せめてラメーンはラーメンと呼んで欲しかったな……。」
『その方が親しまれている名前のようですから
仕方ないと思うしかないのでは?』
「あんたはゴリラがそのままついたから
気にならないだけでしょ?」
『はい。』
こうして新しい名物がミラブアの港町に生まれた。
あくまで生まれただけであり、この流通が盛んで
物が多く集まるミラブアだからこそ成しえたものであり
この店が果たして繁盛するか否か。
それは店長や店員の頑張り。
そして「シャッセ―!」が受け入れられるかに
懸かっている、かもしれない。
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