第90話 G、疑いが晴れる。
「裁判所に働く人達は公平公正である為に
軍部とは切り離された形で働く国家公務員です。
ならば何故、そうしたか。
まぁ大抵の想像は付きます。慣例でしょう。
古くからそうしてきた、だから今回も。
そうして皆さんはこれまで、慣例だからと
無実である人々の人生を狂わせてきたかもしれない。
そうでないかもしれない、しかし……。
今回はそうはいかないのです。
王族はその身分をもし偽っていたとしても
扱いは王族なのです!
その同等の第一種後見を持つリラさんに対し
ここまで行ってきた事に、落ち度がなければ
情状酌量されるかもしれません。
しかし慣例、は情状酌量の余地など無いのです。
貴方達はどういう理由があったとして!
キチンとした正しい知識を得る機会があったにも係わらず
我が国の重要人物を苦しめ、殺そうと至った訳です!
これを全面戦争の引き金にすらならないなどと
思い、ひよっているような人は……まさか居ませんよね?」
ソニックさんは手元にある書簡とでも言うのだろうか。
何か巻かれた革紙のようなものを
裁判官の前で見せていた。
「どうですか?ベーコンエッグ皇帝である
アリアポロス元帥の書簡内容は。」
「むむむ………。」
「どうしろ、と書かれていますか?
今、ここは戦時中なのです。
そしてそれは元帥としての決定が書かれている。
つまり戦時裁判についての内容が書かれている筈ですが?」
「……………とする…。」
「何ですかね?もう少し大きな声で言っていただかないと
解りませんが??」
うわぁ、楽しそうな顔してるよ
ソニックさん………。
「この者、無罪とする。」
「それだけですか?」
「またウィンガード王貨の不正使用、窃盗の疑いについては
ウィンガード王より構いなしであるとされている事から
ベルベッケン領の領都ホーマック下級裁判所の裁判において
再調査の上、再審を命ずる………。
トッペンテット監獄鉱山に関しては戦時裁判において
ベーコンエッグ帝国兵の工作であると証拠が出た為
構いなし、とする。
ベーコンエッグ皇帝、ベーコンエッグ28世アリアポロス。
ベーコンエッグ帝国軍元帥、ベーコンエッグ28世アリアポロス……。」
「ちなみに戦時中ですが下級裁判所へと踏み込んだ
我々の罪状はどうなりますか?」
「戦時中であるのであれば、民間人を傷つけず
それが武装排除、撤去、鹵獲目的であれば問題ない………。」
「では我々は武器などが存在しないか
ただ拝見しに来ただけ、それでよろしいかな?」
「……………構わん……。
ゴネた所で、既に各所に手は回してあるのだろう?
『ウィンガードの白き翼』と言えば策略と実力を兼ねる将官だ。
ここで我々がどう言ったとしても、どうにもならぬのだろう?」
「懸命な判断に御礼申し上げます。
リラさんの身柄については?」
「連れて行け。」
「そうですか、では首輪の鍵を。」
ソニックさんが首輪を外してくれた事によって
私は久しぶりに解放されたのです。
「ああ、そうそう。
1つ忘れていましたが……。」
「何だね?」
「もし、貴方達が頑なに拒み、そしてリラさんが
これ以上の目に合っていた場合。
この町はギルドと裁判所などの主要施設を除き
全てが焦土と化していた可能性。
決して忘れないでくださいね?
貴方達が中立であり公正公平でなければ
その割を食うのはこの帝国の臣民であり
無関係な人達だった事を、努々忘れないように……。」
追撃の脅し、しかも超笑顔で言い放つ
ソニックさんがさらに怖くなった。
それからこの事件の真相が全て浮き彫りとなった。
主犯はアレクサンドル・F・ベルベッケン伯爵で
その理由は四男であるノーザンの捕縛による恨みからだった。
またあのトッペンテット監獄鉱山の脱獄騒ぎについても
実はノーザンが中に居た事から行われた茶番で
それに利用されたのが偶然発見されたビューグル族だとか。
ビューグル族がこのまま進めば
トッペンテット監獄鉱山にぶち当たる可能性があり
本来の対応であれば、事前にぶち当たるであろう場所から
犯罪奴隷達を遠ざけておき、いなくなるのを待つと言うのが
正規の対応法だったそうだ。
しかしノーザンの脱獄をさせる為に
あの茶番のような脱獄が行われたのだそうだ。
実際に死んでいた兵士。
あれは実は犯罪奴隷なのだそうだ。
肩の焼印が兵士の服装では見えない事もあり
あたりに落ちていた首輪もその犯罪奴隷のものだった。
つまり兵士は誰1人として死んでいなかった
と言う事になる。
また腰の帯剣が右についていたのは
急いで取り付けた事で前後を間違えただけのもので
別に左利きなのか、右利きなのかは関係なかったらしい。
そしてこの脱獄の茶番の主犯はヘルドン・F・トッペンテット子爵。
派閥として子爵ではあまり上の立場になれない事から
アレクサンドル・F・ベルベッケン伯爵の計画に乗った。
実際にはノーザンとそれを助ける為だけのもので
大半の犯罪奴隷は首輪を外させずに外に出した事で
すぐに見つけられる算段でもあったのだとか。
それらが全てウィンガード王国暗部の調べで
ウィンガード王からベーコンエッグ皇帝に伝えられたのだそうだ。
実際ベーコンエッグ皇帝たるベーコンエッグ28世アリアポロスは
非常に真面目な人物だそうで、不正などについても厳しい人だとか。
そこでウィンガード王とベーコンエッグ皇帝の間で
魔導通信による話し合いの結果。
半ば私を囮にしたような茶番劇が別に繰り広げられ
最終的に、解放される。
そういうシナリオが組まれていたらしい。
さらにこれだけで話は終わらなかった。
冒険者ギルドと商業ギルドについて。
冒険者ギルドにおいては対応を間違えているとして
帝国西方にある冒険者ギルドホンダワラ支部の
1階フロアマスターのザーネさん、と言う方と
私を受付で対応したララアさんが処分を受けたそうだ。
商業ギルドについても記録の復元を行い
私の手元には元通りなDランク冒険者としての
ギルド登録証が戻ってくる事となった。
これらの決定にはどちらのギルドも
ディメンタール王国にある総本部が絡んでいるそうで
冒険者ギルドとしては厄災の単独討伐が出来る
私を逃がすのはありえない、という事と
商業ギルドとしては、これまで流通していない
ウィンガード王貨の総数の半分を持つ
私を逃すのはありえない、という非常に現金な話で
2つ返事で私は元の鞘へと戻る事になったのです。
さらに忘れているかもしれないのですが
すぐに私はCランクへの昇級が決定。
さらにBランク昇級試験への推薦が付された。
これはウィンガード王国の王都デンドルドア本部の
ギルドマスターのハンナさんによるもので
期限切れを起こした分、再度推薦する形で付された。
余談ながら、冒険者ギルドの対応の間違いが
今回の事件の最も元凶とされる落ち度だと
このチャンスを逃さずウィンガード王は
冒険者ギルドに対し、かなり文句を言ったそうだ。
そして王都デンドルドア本部の副ギルドマスターだった
メロディさんが結果として、ウィンガード王国に
国家公務員として、文官として引き抜かれたらしい。
ハンナさんがかなり泣き喚いたらしいが
総本部からそれに変わる人材が入った事で
メロディさんが居なくなった後でも
王都デンドルドア本部はその運営に支障が出ていないらしい。
ベーコンエッグ帝国では、そこそこの貴族。
主にヘルドン・F・トッペンテット子爵に
アレクサンドル・F・ベルベッケン伯爵といった人々。
主に第三王子派閥、と呼ばれる人々の汚職も多く見つかり
帝国も少しは綺麗になった、と言う書簡と共に
私のギルド登録証に3つ目の
「ベーコンエッグ皇帝、ベーコンエッグ28世アリアポロス」による
第一種後見がついてしまった事が多分、私にとっては
最大の悪夢だと思いたい……。
トー
フー
トー
フー
『ゴリラッパは憂さ晴らしの道具ではありませんよ?』
「っていうかこれマジでトーとフーしか鳴らないの!?」
『そこまではマニュアルに記載されていません。』
「むぅ……。」
『しかし今度こそ、キチンと昇級試験を受けましょうね?
Bランクに昇級して、Aランクになれば
無期限になるのですから。』
「解ってるよ……。」
こうして、ベーコンエッグ帝国に入ってからの
事件は多分解決した、と思いたい。
そしてリラは最も重要な部分を完全に忘れていた。
ウィンガード王貨を使う原因でもあったソニック達に
聞くべきとしていた内容。
「聖道十二宮神」
そして「双魚宮のビスケッティ。」
この2つのワードについて……。
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