第89話 G と 第一種後見。
「全面戦争、じゃと?
お主ら、ここが下級裁判所と知っての事か?」
「勿論。」
「ならば下級裁判所へ他国の軍が踏み込むと言う事の
愚かさも知っているな?」
「愚か?ウィンガード王国が第一種後見をしている
リラさんに対し、ウィンガード王国に碌に確認もせず
犯罪奴隷に仕立て上げた挙句、今度は殺人犯扱いの上に
ベーコンエッグ帝国軍の落ち度を擦り付けた事以上の
愚かさを、私は知りませんが?」
「第一種だと……?」
なんか裁判官の顔が一気に真っ青になってるし
みんな脂汗みたいなのかいてるんだけど……。
「ソニックさん、第一種後見って何?」
「後見の種類ですよ。
第一種、第二種、第三種と3つの後見方法があるのです。」
「その詳細は?」
「さて、なんでしたかね……。」
「……………さてはあのムキムキウィンガード王にでも
言うなと言われているとか……?」
何か溜息と共に、覚悟したのか
ソニックさんはこの第一種、第二種、第三種後見について
細かく教えてくれた。
普通の後見は第三種後見、というそうで
Sランクに上がるのに必要な後見、と言えば
この第三種後見の事を言うのだそうだ。
「第三種後見を受けた者は、その時点で騎士爵同等の扱いとなります。
つまりウィンガード王国の準貴族としても扱われますし
もしリラさんの後見が第三種後見であった場合は
サンディング王国の騎士爵と同等の扱いもされます。」
「で?」
「第二種後見を受けた者は、その時点で子爵同等の扱いとなり
事実上は貴族としても扱われます。
当然、サンディング王国でも子爵待遇となります。」
「で?」
「第一種後見を受けた者は、その時点で王族同等の扱いとなります。」
「……………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「つまり、いかなる事情があったとしても。
ベーコンエッグ帝国は、我がウィンガード王国の王族に対し
金銭の支払いを強要し、ウィンガード王貨の不正使用と言う
烙印を押した上で犯罪奴隷とし、さらに殺人と脱獄幇助なる
証拠不十分の責を押し付けた事となります。
非常に国家間としての大問題であり、間違いなく
ベーコンエッグ帝国とウィンガード王国間では
開戦したとしてもおかしくない理由となり得るのです。
それがリラさんに付されている第一種後見というものなのです。」
「だが!その者には第一種後見が付されている証拠は無かった筈だ!!」
「ああ、まだ勘違いされているようですね。
第三種後見に限れば、あくまで準貴族であって貴族ではない。
その為、それが通用する可能性が残されます。
しかし第二種後見と第一種後見はそれぞれが
貴族扱い、王族扱いですので、証拠があるかどうかは関係ないのです。
それが許されるのは無礼、程度であって
犯罪者としてだけですら許されないのに自国の奴隷制度によって
物品扱いするなど、証拠の有無に関係なく問題のある行為です。
簡単に言えば、ウィンガード王の孫娘だと知らずに
犯罪者とし、奴隷にした挙句、危険な目に合わせ
人としても扱わなかった、とウィンガード王が知ったとしましょう。」
ソニックさんは少し溜めを作る感じに間を開けて
再度口を開いた。
「証拠があるかどうかに係わらず、自らの孫娘がそのような目に合った。
それは耐えがたい事であり、屈辱なのです。
証拠がない?貴方達はいつでもウィンガード王国に
問い合わせする事が可能だった。
しかし我々に第一報を寄せたのは、誰でも無い。
ここにいるリラさん本人なのです。
我ら近衛たる空竜近衛騎士団が直接ここに全軍で来ているのも
その為なのですよ?」
「全軍だと……?」
「はい、現時点でウィンガード王国は
ベーコンエッグ皇帝との話し合いの結果、限定的ながら
ベルベッケン領とトッペンテット領の2領に限り
戦争中、と言う扱いになっているのです。
そしてもし、リラさんが五体不満足な状態で
見つかりでもした場合、ウィンガード王国は
ベーコンエッグ王国に対し、全面戦争を仕掛けるつもりでもあるのです。」
「一部戦争中………。
そうか……世界法の世界軍事裁判法か……。」
「流石、下級裁判所の裁判官でも知っていたようですね。
戦時中はいかなる裁判も軍事裁判を経てから
下級裁判所において必ず再審する形で行う、と言った戦時特例法です。」
「だがそれは戦時中、と言う状況において
人道的な勘案をしたもので、捕虜や非戦闘員に対する
虐待を禁止する人道的法、という建前の法律では無いか。」
「はい、ですからこの裁判はそれを鑑みて
まずは軍事裁判を経なければ、行ってはいけない裁判なのです。
どう考えても人道的ですよね?
そもそも私はウィンガード王国の人間であり
ウィンガード王貨の不正使用はなかった、と主張します。
これでリラさんは犯罪奴隷では無いのです。
そんな方に対し、死罪ですか?
適用したければ戦時特例法である世界軍事裁判法に則って
まずは軍事裁判を行った上でなければならないのですよ?」
「ならば我がベーコンエッグ帝国軍の
佐官以上がそれを認めれば、問題はなかろう。」
「ダメですね、リラさんはウィンガード王国とサンディング王国で
第一種後見を持っているので扱いは王族になります。
この場合、軍事裁判に必要なのは?」
「……………貴族の場合は将官以上。
王族の場合は………元帥か大元帥。
つまりベーコンエッグ皇帝が参加せねばならないと……。」
「ご名答。
既にベーコンエッグ皇帝とは魔導通信で連絡を取り
今回の件について、ウィンガード王自らが了承を得ています。
さて、今回この茶番を考えたのは誰ですか?」
茶番……?
「茶番とは人聞きの悪い事を仰る。」
「ウィンガード王国の諜報力を舐めていると
痛い目に合いますよ?」
あ、出た。
ソニックさんの内心の見えない怖い笑顔……。
「まずベルベッケン領の領都ホーマックにおいて
ウィンガード王貨、と言う歴史上流通形跡が一切ない
貨幣をリラさんが所持していた事。
そしてその情報がギルドの登録証に無かった事。
これが始まりです。」
全部をもう調べてある。
そんな自信満々のソニックさんが怖いんだけど……?
「そしてこれより前に1つの事件がありました。
それはウィンガード王国とベーコンエッグ王国の間にある
国境関で起きた、賄賂の強要事件です。
この際、リラさんが揉めた相手はノーザンという人物です。
現在は一般人と言う扱いですが元貴族の子で
ノーザン・F・ベルベッケンというべきでしょうか?
ベルベッケン伯爵の四男です。」
ん?………まさかそこ繋がってるの!?
「我々がベーコンエッグ帝国の了承を得て
ウィンガード王国から国境関を超え
それを咎めた際、ノーザンと言う人物は
査問にかけられる事となりました。
しかしどうやら不問で済まされたようです。
その理由は、その査問の席で最も高い地位に居た人物。
それがヘルドン・F・トッペンテット子爵。
ベルベッケン伯爵と同じ、ベーコンエッグ皇帝の
三男の派閥に居る人物です。」
っていうかウィンガード王国の暗部すげぇんですけど!?
そこまで調べたの!?
「そしてリラさんは王貨の不正使用でまずは
ベルベッケン領の下級裁判所に送られました。
しかしその実、ウィンガード王国には連絡は無く
状況証拠のみでも判断が下せるとして、投獄。
しかし一番近い監獄鉱山は他に3つもあるというのに
わざわざ遠くにあるトッペンテット領に送られています。
その資料もこちらには届いていておかしくない筈ですが?
まさか、黙っていた訳では無いですよね??」
「確かにおかしいとは思った……。
だが、内容が滅多にない王帝貨の不正使用だ。
殺人などの重罪を犯した者達が入るトッペンテット監獄鉱山に
収容されてもおかしくないであろう……。」
「そうですね、しかしですがこのトッペンテット領の
下級裁判所は1つ行っていない事があります。
何故、前の罪状についてもう一度洗い直さなかったのでしょう?
不正使用について状況証拠だけで送致された事は
裁判所の仕組みからいって、皆さんが知っていた筈です。
しかし、あえてそこに触れなかったのではないですか?」
「……………。」
饒舌な上に、絶好調っぽいソニックさんの勢いは
まだまだ止まりそうもありませんでした……。
星5点満点で「面白い」や「面白くない」と
つけていただけると、作者が一喜一憂します!