第88話 G と ウィンガードの白き翼。
「何これ……。」
あの二足歩行のモグラ、ビューグル族という
元凶が去った事で問題が無くなった訳でして……。
犯罪奴隷と兵士達が逃げた鉄格子の方へと
向かうと、最早惨状としか言いようが無かったのです。
「………まさか、全員に逃げられた??」
仕切られていた鉄格子はどれもこれも扉部分が開き
そこら中に兵士が倒れていた。
『触らない方が良いでしょう。
既に息をしていません。
どれもこれも確実に急所を突かれています。』
元々1つ目の鉄格子の手前にも
兵士が多く倒れていて、心臓などの臓器を
刺されたり、頭を鋭いもので貫かれていたり。
しかも幾重にも閉じられていた筈の鉄格子の全てが
鍵を使って開けられている事から
先程のビューグル族の闖入を発端とした
大脱走劇が行われたのだと察したのです。
「なんか手際が良いね……。
鉄格子の鍵だけじゃなくてこの首輪も
外していったようで、そこら中に落ちてるけど……。」
『首輪の数が思ったより少なく見えます。』
「そだねぇ……。
で、この状況どうするべきかね?」
『魔導無線機のようなものも見当たらなければ
ここで脱走してケチをつけられるのは
マスターにとっては不利益となるでしょうから
ここで待つのが得策でしょうか。』
「……………なのかな?
むしろ次、誰かが来るまでずっと待ってろと??」
『どちらにせよウィンガード王国が
こちらに来るまでに動けば
碌な結果にならないと思いますよ?』
「それもそうか………。」
そしてそれにベーコンエッグ帝国軍が気が付いたのは
なんと3日も過ぎてからの事だった。
しかも逃げた脱走兵が何かやらかしたらしく
それによって気が付いただけのようで
このトッペンテット監獄鉱山から私以外が全員逃げた事や
兵士達が軒並み殺された事などから
知ったものでは無い、とすぐに解ったのです。
何故?そりゃあ……。
「帝国軍人の殺害の罪、及び犯罪奴隷の脱獄の罪によって捕縛する!!」
「何故こういう事に……。」
「これを見ろ!これこそ動かぬ証拠だ!!」
何やら兵士の宿舎内で殺された兵士が
血を使って書いたダイイングメッセージ的なものが
残されていたとか。
「G66……。」
まぁなんとも典型的なダイイングメッセージ。
と言うか目立ちすぎて私が犯人だとしたら
間違いなく速攻で消す代物だ……。
「これはお前の囚人番号であろうが!」
『これは流石に無理があります。
この人物、何故か右に鞘をつけています。
ならば左利きでしょう。
何故、右の指で書いているのでしょうか?』
SO・RE・DA!
「この人、右に鞘がついてるから左利きですよね?
なのになんで右で文字書いてるですかね?」
「知らん、そういうのは裁判所で異議を唱えよ!
我々は疑いのある者を捕縛する事が役目である!!」
「ちょ、なんか思ってたのと違う!!」
『探偵どころか警察すら居ない世界では
こんな感じになるのですね……。』
そして私は再逮捕されたのです。
っていうか獄中で再逮捕、とか意味が解らない……。
そもそも帝国軍人の殺害の罪の証拠が
誰が書いたかも解らないダイイングメッセージで
犯罪奴隷の脱獄幇助の罪とか
そもそも私がビューグル族を何とかしている間に
逃げられたのはベーコンエッグ帝国の兵士の問題であって
何か軍人の責任が私に擦り付けられた気しかしないのです。
そしてお馴染み、下級裁判所だけど
今回はベルベッケン領ではなくトッペンテット領の領都
その名も「ポポポポポポポ」の下級裁判所。
ポが7つで「ポポポポポポポ」。
嘘でも冗談でも無く、本当にそういう名前の領都なのだとか。
〇〇〇ー〇・〇ー〇〇的なものかと思いつつも
そういう訳でも無いらしいけど
由来も特に解らず、なんとも気の抜ける領都名だった。
「有罪」
「だからベルベッケン領の下級裁判所もそうだけど
あんたらまともに裁判するつもりはあるんかね!!」
「ここにお主の囚人番号が兵士の手によって残されておるでは無いか。」
「そんなもの本人が書いたのか、他の人が書いたのか解らないでしょうが!」
「だが本人が書いてないと言う証拠もないではないか。」
「何その無罪の証明……。
有罪の証明なら解るけど、やってない証明とかおかしいでしょうが!!」
「ならば真実の秤を使うか?」
「真実の秤?」
なんでも王都にある上級裁判所には
真実の秤、と言うものが存在するとか。
聖遺物の1つで、神が質問に答え
はい、いいえと言う形で秤が傾くのだとか。
「但し使用料は白金貨で100枚、お主出せるか?」
「一般人がそんな金持ってる訳無いでしょうが!」
どこにおいそれと100億円をポンと出せる
一般人が居るんだと、小一時間問いただしたい気分だ。
「ならば有罪。」
「だからその短慮なのを何とかしなさいよ!
ダイイングメッセージだか何だか知らないけど
ただの状況証拠じゃない!
私が間違いなく兵士を殺して、皆の脱走を幇助したと言う
その証拠は無いの!?」
「そんなもの要らぬ。
お主はそもそも犯罪奴隷であろう。
お主の身柄はベーコンエッグ帝国法においては国の持ち物である。
お主の意志などというものは物に存在はしていないのだ。
もしその意思が必要であるならば、その意思を決めるのは
我々ベーコンエッグ帝国である。」
「へぇ、なら所有物が犯した罪とやらはその所有者に
帰するってのが本筋じゃ無いの!?
ならあんた達ベーコンエッグ帝国とやらの責任はどうなのさ!!」
「何故たかが所有物の責任をとらねばならない。
それにそもそもこれはベーコンエッグ帝国の所有物を
破棄するかどうか、の定めであって
お主の意志などなんら関係ないわ。」
「あぁ!?我々ベーコンエッグ帝国だなんて言ってるけどさ!
国の所有物、ってんならあんたの所有物じゃなくて
この国の責任者たる皇帝の責任じゃ無いの!?
国としてもここは異常だね!
国境関を超える際に、関では賄賂を寄越せと言うし!
監獄鉱山の中だって、大差ないじゃない!!
兵士に賄賂だのと股だの尻だのを出して
ご機嫌伺い!?だからこの国はダメダメなんじゃないの!?」
「お主、愚弄するか!」
「あんたこの国の責任者でも無いでしょ?
文句があるなら皇帝でもなんでも引っ張ってきなさいよ!
そもそも王貨の不正使用の時点で有罪!?
不正使用かどうか1つ確かめてもいないんでしょ!!
こっちはウィンガード王国に確認とってんだからね!!
間違いなく不正使用ではない、って言ってるんだよ!!」
「そのような話は聞いておらん。」
「あんたの耳が悪いか、都合よく聞こえて無いだけじゃ無いの?
裁判官だか何だか知らないけどそんな高い所に登って
人を見下してさ!これが公平公正!?
裁判所と言う名前が聞いて呆れるね!!
死罪だろうとなんだろうとやってみるがいいさ!
こちとら腐った国の有罪なんかに屈したり
無罪の人間を殺そうとする死罪なんかに負ける気なんて一切しないね!
悔しかったら私を殺してみる事だね!!」
「………ならばその骨身でじっくりと死を堪能するが良い!
この者、死罪とする!これにて閉廷!!」
その閉廷、と言う言葉が大きく法廷内に響き渡った時。
どこからか、ガラスが割れるような音がした。
それも1つ2つではなく、複数の音と共に
上からガラスが降り注いできたのです。
「それは困りましたね。」
そしていつか、聞いた事のある声が聞こえた。
法廷内の兵士、そして裁判官だかの周囲には
見慣れた真っ白い鎧の騎士達が剣を首に向けていたのです。
「彼女を殺すならば、ベーコンエッグ帝国は
ウィンガード王国と全面戦争をする。
そういう事になりますが宜しいのですかね?」
「その白い鎧……『ウィンガードの白き翼』か!!」
「その二つ名、嫌いなんですけどね……。
お待たせしました、リラさん。」
そう、何時ものあの笑顔で
私に話しかけてきたのはウィンガード王国空竜近衛騎士団。
団長のソニックさんだった。
また、この笑顔か……。
だけど私はこの顔を見たら、こういうつもりで待っていたのです。
「遅い!超遅い!!」
私はソニックさんを指さして、襲いを連呼したのです。
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