第82話 G vs 双魚宮のビスケッティ 前編
「ほぉらほらほらほらぁ!
何が私に負ける気がしないですって!?
全く叶わないの間違いじゃないですか!
だからこのまま首を切られなさいよぉ!!」
ビスケッティは日傘の柄を引き抜くと
そこから刃物が現れた。
その刃がリラの首へと入り、そのまま振り抜かれると
リラはまたも吹き飛ばされ、次々と木をなぎ倒し
崩れる様に地面に座り込んだ。
「あら、しっかりと振り抜いたのに切れないだなんて……。
研ぎが甘かったかしら?
それとも………猿がこざかしい真似でもしたのかしら?
忌々しいわね……。
ほら!さっさと死になさいよ!
今!すぐにでも!ほら!早く!!」
『マスター!!』
ビスケッティの刃は次々とリラの身体に素早く
差し込まれては引き抜かれていった。
「……………なによこれ……。
全く刺さらないじゃない………。」
ビスケッティの日傘の柄でもある刃物は
特に神器でも無い故に、ゴリラアーマーそのものを
傷つける事は出来なかった。
但しその下、リラにとってはそうではない。
いくらゴリラアーマーが神器であり、壊れないからといって
刺されれば痛いし、それが痣を作り骨を砕く。
「何よ!この!美しくないわね!!」
ビスケッティがリラをいくら切ろうと、突こうと
血一滴垂らす事が無く、それが表立ってこない。
「雑魚は!血の華が咲いてこそでしょうが!
この!私の!ドレスを!赤く染めてこそ!!
あんたのような!ゴミのような存在が!
初めて!役に立つの!!!」
そして切る、突く、穿つ、叩くが効かないと思えば
今度は腕を捩じり、足を捩じり、腹を叩き
とにかく崩れる様に座り込んだリラを起こし、投げては
何度となく攻撃を叩き込んでいった。
『マスター!起きてください!
このままではいくらゴリラアーマーがあっても
マスターの身体が持たないのですよ!?』
ニクジュバンニがリラに大きな声を張り上げても
リラは微動だにしなかった。
「っ死ねぇ!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!
この私に!損失を与えた癖に!そして私に!恥を!かかせた癖に!
それでいて血飛沫1つあげないだなんて!
なんて使えないガキなのかしら!!
ほら、血を吐け!骨を砕け!目玉を出せ!舌を出せ!
そして私にかかせた恥以上の恥をかけ!」
そして1つ1つ、ゆっくりとギアを上げるが如く
ビスケッティの攻撃はさらに速度を上げていく。
『マスター!しっかりしてください!
意識を取り………。
え?マスター……意識あるんですか?
っていうかなら何故黙っているのですか!?
何故、動かないのですか!?
このままでは本当に死んでしまいますよ!?』
微動だにしないリラはしっかりと意識があった。
リラはただただ動かないだけであって
いつでも動こうと思えば動ける状態にあった。
それがゴリラアーマーを通して、見る事が出来て
ニクジュバンニは初めて気が付いた。
そしてその異常さにも気が付いた。
『………痣もなければ骨も折れていない?
マスターの身体に損傷がない……?
どういう事でしょう……。
マスターはこれだけの猛攻を受けているのに
一切のダメージが無い……?』
相変わらず、ゴリラアーマーの本来ニクジュバンニが
コントロール出来る大半が今ではリラ本人が
その権限を有し、そしてコントロールしている事になる。
ニクジュバンニは、本当に最低限のモニタリング等
出来る事に制約がある中で、リラの状態を出来るだけ
調べていった事で、リラがしている高度な行動に気が付いた。
『なんですかこれ……。
呼吸を深くする事で、より大気中の魔素を多く取り込んで
魔力回復速度の上昇?
精神の安定による、身体と精神の強靭化??
さらに………血液上の魔力循環強化???
マスターは一体何をされているのでしょう……。』
「この畜生!あん畜生!やれ畜生!
さっさとくたばれ!あんたが死なないと
私の安寧はやってこないんだよ!
まさか私に恥の上塗りをさせようってんじゃないわよね!?
ほら!どうしたの!何とか言いなさいよ!!」
『…………ダメージは受けているんだ……。
だけど身体の内部だけにゴリラ癒しの魔法を掛けて
すぐに修復している………。
マスターにこんな高度な魔力操作を教えた事は……。
教えたからといって出来る事ではないのに……。
何が起きているのですか!?マスター!……。』
しかしニクジュバンニの声に
リラの声が返ってくる事は無かった。
「はぁっ……はぁっ……………はぁっ……。
どうなってるのよ!この糞ガキが!!
なんで傷もつかなければ、血を吐きもせず!
身動き1つしないというのよ!!
これじゃ首が獲れないじゃ無いの!!」
ビスケッティもリラの異常さにやっと気が付いた。
間違いなく攻撃は効いている筈。
その手ごたえもある、骨が折れる感触も
砕ける感触もあったし、内臓が破裂する感触も
ビスケッティの手には確かにあった……。
だと言うのに目の前のリラは何一言も叫びも喚きもしない。
それでいて、恐らく無傷……。
無傷と言うより何度となく同じ場所の骨すら
折った感触がある事から、瞬時にそれが治っている事を
認めたくは無いものの、認めざるを得なかった。
「い……一体どういう事なのよ……。」
リラの行動にも訳が分からなければ
もう1つの悔しくも認めざるを得ない事実に
ビスケッティは至った。
「首を獲るどころか、殺す事も出来ないってどういう事よ!!
あんた!なんとか言いなさいよ!
ねぇ、ねぇってば!!」
そしてリラはそれに答える事も無ければ
身体に力1つ入っておらず、立たせるように
引き摺り上げても、そのままダラっとしていた。
放せば引力に引かれて地面に落ちる位に……。
そしてビスケッティが手を放し、リラから意識を
他に向けた時だった。
「っきゃあぁ!?」
今度はビスケッティが吹き飛んだ。
先程までのリラよりさらに多くの木々を巻き込み
次々と折り倒しては、そのまま地面に埋まるのではないか。
そう思うほどに地面を抉る様に
ビスケッティの身体が地面に半分埋まるような形で
倒れ込んだのだった。
但し、それは今までリラが受けてきた
攻撃の1つ1つの重さの比ではなかった。
リラの左手にはビスケッティの右腕があった。
リラはあの瞬間、ビスケッティの右腕を左手で掴み
そしてビスケッティの顔を右の拳で殴りつけていた。
それによって、ビスケッティの顔が歪んでいた。
表情ではない物理的に、だ……。
「あら、口の中が苦み走ったような良い顔になったじゃない……。
まるであんたの心を見ているようで私はその顔、嫌いじゃないよ?」
そして今度はリラが立ち、ビスケッティが倒れている。
これまでと逆の立場に入れ替わっていたのだった。
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