第77話 G と インクイジター
領都ホーマックで行われている
Dランク昇級試験。
受験者29名に対し、遅刻なく参加出来た人数はたった16人。
そして第一試験を通過したのは9人。
3人で護衛を行った2台の馬車はは時間までに
ゴール出来なかった事で6人が失格。
さらに5人で護衛を行った1台の馬車から
1人、失格者を出した。
「なんで俺だけが失格なんだよ!!」
「何故?それを言わないと解らない時点で
Dランクへ昇級する資格も無ければ
今後、何回挑もうと合格する事はありませんよ?」
「ならその失格した理由を言うべきじゃねぇのか!?」
「そう思うのなら冒険者を辞めるべきだ。
何でも問えば答えが返ってくると言う事自体が
甘えであり、自ら考える力を損なっている。
君は冒険者に向いていない。」
「なんだと、てめぇ!」
失格となり、唯一ここにいる1人の男が
抜剣すると同時に、男の首には刃物が突きつけられていた。
「冒険者ギルドの職員はただの事務職ではありません。
元冒険者も多く、貴方より強い人はいくらでも居るのです。
この程度の事で頭に血が上り、刃を向けるような者が
冒険者であろうなど、許される事ではないとすら
気が付かない程愚かである以上、私の権限をもって
貴方の冒険者資格を剥奪します。
また再登録は一切認めません。」
「権限だ!?てめぇ何様のつもりだ!!」
「私ですか?そういえば自己紹介がまだでしたね。
ディメンタール王国総本部付、インクイジターのスニングです。」
「インクイジター?」
「審問官とも呼びます。冒険者ギルドにおいて
冒険者と冒険者ギルドの審問を担当しており
主に不正行為や冒険者としての資格が無いと判断される人物から
資格を剥奪する権利を持っているのです。
私の決定を覆せる人物は総本部のグランドマスターだけです。
異議があるのであれば、ディメンタール総本部の
グランドマスターに異議を申し立てるのですね。
それ以外で貴方が冒険者に戻れる確率は0パーセントです。
ああ、異議を申し立てて戻れた方は冒険者ギルド設立以来
ほんの僅かしかおらず、99.9パーセント
異議は却下されていますので。
貴方は1000人に1人になれますかね?」
1000人に1人、と言われた冒険者は
その問いに黙っていた。
「で、貴方は一体何様のつもりですか?
今、何をなさったのか本当に解らないのですか?」
「何!?」
「剣を抜いたと言う事は、私に対して傷害を加えようとしている。
もしくは恫喝等の類を試みようとしていると推察されます。
それはつまり貴方は法の下で犯罪を犯した事になります。
暴行や障害の未遂、恫喝なども立派な犯罪なのです。
相手がインクイジター(わたし)かどうかに関係なく、ですよ?
まぁ正確な犯罪者、となるには下級裁判所の裁判を受けてからですが
そもそも犯罪を犯そう、と思ってしまう時点で冒険者足りえないのです。
貴方の場合は異議を申し出ようと、100パーセント却下される上
これから貴方は私に捕縛されるのです。」
襲い掛かろうとした受験者の男性にそう告げると
受験者があっという間に動けなくなった。
腕は身体に沿うように、足も間が無い位ピッチリとくっつき
そのまま倒れ込んだところで他の職員さんに馬車へと連れて行かれた。
私の目には見えなかった。
だけどニクジュバンニにはトリックが見えたらしい。
『非常に「か細い」糸です。』
本来か細い糸、と言うのは見え難くなると
強度が低いものが多く、逆に強度を上げると
身体が切れてしまう事が多いのだとか。
しかしスニングと言う男のどこからともなく出した糸は
私には見えない程か細いのに、受験者を縛り付けた。
その際、身体や防具が傷ついてもおかしくないと言うのに
切れたりせずに、そのまま縄で締め付けたように
腕は身体に沿い、足は隙間なく閉じられていた。
その上でニクジュバンニにはその糸がどういうものなのか。
それすら理解出来ない、との事だったのです。
このインクイジターのスニングと言う男。
……………化け物みたいな人って事かね?
っていうかどこから出てきたかも解らない上に
殆ど見えない糸であっという間に縛られるとか
怖すぎなんだけど!?
これが犯罪者だったらそれこそお持ち帰りし放題!とか
思っていたらニクジュバンニに説教された……。
「さて!これで第一試験通過者、9名が残った訳でして。
これから第二試験についての説明を始めます!!
一応自己紹介を、第二試験の試験官を務めます。
冒険者ギルド総本部付のインクイジター、スニングです。
これから皆さんにやっていただく第二試験の内容は……………。」
何かタメ、みたいなものを作って
内容発表を引っ張るやり方、嫌いだな……。
まぁ番組の最後の最後にタメ的に
CMを入れ、さらにタメ的な放送をしてCMを入れと
何度と繰り返されるよりはマシだけどさ……。
「追いかけっこです!!」
はい?……………追いかけっこ??
「Dランクともなれば、護衛任務が出来るようになります。
しかし皆さん、護衛任務を勘違いされている方がいらっしゃいます。
護衛するのは当然、依頼者に荷物に馬に馬車にと護るのは当然です!」
まぁ護衛任務ってそういう事じゃないの?
「そうではないのです!
護衛任務とは夜、交代で火の番を行いつつ魔物に備え!
そして日中は馬車に並走し続ける!
そして道中、必ずしも町に寄れる訳でも無ければ
保存食を食べ続ける毎日!
それが冒険者ギルドの最長記録として、実に189日もの
大工程だった事があるのです!!」
189日……6か月と9日!?
え?そんな長い護衛任務とかあるの??
「しかもこれは旅程、としてです!
護衛任務とは旅程を含まないものすらあります!
その最長記録はなんと5年と2ヶ月と8日です!」
………………閏年が2回あったとして
1895日!?1回としても1894日……。
いやいや、そんなもん受けたくもないよ……。
「まぁ、受けるか受けないかは皆さん次第なのですが
記録としてはこれだけ長かったものがあるのです!
当然、つい先程まで馬車の護衛をなさってきた皆さんは
疲れがあるかもしれません!
しかし、夜も眠れない様な日々が続く程
過酷な旅程があるかもしれない!
良いですか!常にこうなるかもしれない!ああなるかもしれない!は
冒険者にとって重要な事です!
予定通りに行く事の方が、護衛任務では稀なのです!!」
それは別に冒険者では無くても。
護衛任務では無くてもありえる話だよね……。
「当然、冒険者でなくとも!護衛任務で無くとも!と
思うかもしれませんが!」
何か心の中を読まれているみたいでキモいんだけど……。
「そしてもしかして私の、俺の心の中が読まれている!?
なんて思った方々!気持ち悪いと思った方々!!
そんな事は決して無いのです!!」
いや、キモイのは間違いないわ。
っていうか読まれている気しかしないわ……。
「護衛任務が最もそういう事が起こりやすいのです!
と、言う事でこれから皆さんには一睡もせず!
皆さん達で追いかけっこをしてもらいます!!!」
一睡もせずに、ね……………。
「「「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」」」」」
「お、全員の声が揃いましたね!
私、感動しました!
今、皆さんの心が1つになったと言う事に!!」
「「「「「「なってねぇよ!!」」」」」」
「「「なってない!!」」」
「おや、分かれてしまいましたね。
私、とても寂しいです……。」
いや、それは男女の違いだ!と突っ込みたかったけど
多分読まれているだろうから、声を発する事は控えた。
星5点満点で「面白い」や「面白くない」と
つけていただけると、作者が一喜一憂します!