第75話 G と Dランク昇級試験 第一試験前編
3時に既に南門に到着している私に続き
3時半には続々と受験者が集まってきた。
そして3時45分、ついにDランク昇級試験の内容が発表された。
但しそれは受験者が全て揃っている状態ではなく
まだ来ていない人が居る状態での発表で
そこに僅かでも遅れてきた人達は
その説明の全てを聞く事が出来ていなかった。
昇級試験内容はまず前もって決められている
6人でPTを組み
5台のうちの1台を護衛し、馬車ごとに設定されている
目的地まで1泊2日、2日目の日暮れ前に辿り着く事。
その際、御者役として冒険者ギルドの職員が1人。
別途、受験者の行動を見る冒険者ギルド職員が1人随伴するけど
1人は徹底して依頼者として、御者としてのみの扱いで
もう1人もあくまで試験官としてであり
何かが発生しても手を出す事は無い、と言うものでした。
そしてこれがあくまで第一試験、であり
第一試験が合格しなければ、第二試験には進まない上
これがいくつの試験の集まりなのか、すら教えてくれなければ
全日程すら教えてくれない、と言うものでした。
つまり今の段階で解る事は第一試験の内容と日程だけ。
しかもこの試験は1つの冒険者PTが6人であるものの
午前4時までに人数が足りなかった場合
今いる人数だけで行わなければならない。
つまり最悪1人で行ったり、馬車1台に誰も居ないと言う
オチまで付くらしいのです。
「で、私だけなんで1人なのかね……。」
そのオチを被ったのは私だけではないけど
少なくとも6人全員が揃っている馬車は1台も無く
一番多い馬車で5人、最も少ない馬車が私の1人と
まぁ、今日の受験者が29名に対し馬車が5台なので
6人が4台、5人が1台という編成予定だったらしいけど
結果として午前4時の出発、そして試験の開始時点で
5人が1台、4人が1台、3人が2台、1人が1台と
16人………。
「半分しか居ないじゃない……。」
「時間も守れねぇのはこの時点で失格だ、いくぞ!」
結局私1人で1台の馬車を護る事になったのですが
まぁ、ここで聞かないといけないよね……。
「ところで、この箱は外して良いのですかね?」
「……………何故、これを外す必要がある。」
「木炭に木粉に硫黄にアルミニウムに天青石が入った箱とか
発煙だけでなく、発火の恐れすらありますよね?
護衛は御者の方だけでなく、荷馬車に荷物も含まれるのですから
不必要なものですよね?それとも必要なものですか?」
「そうか、外してくれ。」
「はーい。」
他の馬車は既に出発している中、私は馬車の下部に取り付けられた
木で出来た魔導具とやらを外しにかかった。
そしてその最中、次々と遅れてきた冒険者が
失格だと言う事に不満そうに文句を言っていた。
やれそこに馬車があるならまだだろう、とか
4時に集合だから来たのに、とか。
「いやいや……午前4時が開始時間なんだから
遅れたら駄目でしょ……。」
「なんだと!?」
「いや、間違って無くない?
依頼の開始時間が午前6時で6時5分にやってきて
まだ間に合う、って考えは依頼主の方次第の考えであって
冒険者が言う事じゃないっしょ。
それを呆れながらも妥協するのは依頼主の権利であって
それに冒険者が甘えるのはおかしいって話だよね?」
「てめぇに言われる筋合いなんてねぇ!」
「いや、合ってる。
そいつは午前3時からここで待っていたぞ?
1時間も早く来いとまで言うつもりは無いが
30分前には居るのが常識だ。
それでも4時までに来たなら参加させているがお前らはなんだ?
4時にすら間に合ってない奴が、しっかり間に合わせて来た受験者に
何か言う筋合いでもねぇだろ?
きっちり筋通したいなら、せめて間に合わせてからするんだな。」
「取り外し終わりましたけど、これどうしますか?」
「ああ、そこの道の隅にでも置いておいてくれ。
他の職員が回収するから。」
「はーい。」
「じゃあ出すぞ?」
「あ、少々お待ちを。」
「なんだ?これ以上遅れると旅程に響くぞ?」
「すぐに終わりますので。
ゴリラ能力ミニゴリラ!ミニミニゴリラ!」
私の掌からミニゴリラが次々と現れ
そのお腹からミニミニゴリラが現れる。
ミニゴリラ10頭、ミニミニゴリラ10頭。
そして親ゴリラ……じゃないよ!
私!私を含めた……21頭?での護衛に早変わり!
そして本来は6時にならなければ開かない門も
この日ばかりは特別だそうで、一時的に開門され
私達、最後の馬車が通ると同時に閉門されたのです。
「さて、行きましょうか。」
と、私は荷馬車に乗ろうとしたら
いきなり職員さんに蹴っ飛ばされた。
「誰が乗っていいと言った。
お前らはずっと走るんだよ。」
「はい?」
「お前が乗ると馬が疲れるだろうが!
冒険者の護衛は基本走る!解ったか!」
「さっ、サーイエッサー!」
そして私は馬車の速度に合わせて走り出す事となった。
ただミニゴリラとミニミニゴリラ達は
全員、荷馬車の幌の上に乗っているのに
1頭たりとも蹴られたりしなければ
引き摺り下ろされたりもしない辺り、差別を感じた。
「あ?この程度大した重さじゃねぇだろ?」
いやまぁ、確かに軽いんだけどさ……。
それを言ったら私も43キロしかないんだけど?
と、思ったけどよく考えたらゴリラアーマーが80キロもあるので
私の体重は合計123キロ……。
意外と問題のある重量だと今更ながら気が付いたのです。
しかひ馬車、と言うのは思った程の速度で進む事も無いもので……。
どんなに速くても1時間あたり12キロくらい進めば
進み過ぎなくらいで、秒速で言えば3メートルちょっと。
マラソンランナーが時速20キロ位で
市民ランナーが大体時速9キロから12キロ、と言う位なので
ある程度身体を鍛えれば、馬車に並走する事自体は
決して無理があるものではない、と言うのが
ニクジュバンニが前に言っていたのですか……。
正直、私はナックルウォーキングで走れば
疲れ知らずだし、どのくらいでも走れる上に
速度は早駆けの馬並みの速度で走れる訳でして………。
まぁ馬の邪魔にならないように近くをウロウロしつつ
ミニゴリラやミニミニゴリラに意志を伝えて
魔物等が現れれば排除させ、たった1人とは言っても
試験と言うよりは護衛を実際の依頼と見立てて
周囲に気を配り、走り続ける事7時間。
「次の野営場で昼にしよう。」
「サーイエッサー!」
野営場とは町の門の内側のすぐ近くにあるものと
馬車などが通る街道沿いなどにある空き地で
煮炊きが出来る場所の事。
そして野営場で荷馬車が停車すると
ここで試験の一環だと言う「調理」と呼ばれるものが
あると言う説明が始まった。
本来は護衛の場合は大抵は各自が料理し、食べるか
場合によっては依頼主が用意してくれる。
しかしこれは昇級試験。
それに実はもう1つこの試験には意味があるのだとか。
「本来は6人が最大数だが、護衛する冒険者は
必ず食べるものを2つに分ける必要がある。
理由は解るか?」
あー、何か創作物で見た覚えがある……。
「お腹を壊すようなものを食べた場合、被害を抑える為?」
「ま、大体正解だ。
こう日が出ている中、旅をする訳だから食材が腐る事もあれば
毒を盛られる事もある。
その為に護衛である冒険者はそれぞれ2種類の食事を
分かれて食べ、その被害を最小限にする必要がある。
また一番大きいのは水だ。」
「水?」
なんでも旅で一番お腹を壊しやすいものは水なのだそうだ。
その為、煮炊きは冒険者の必須技能で
最低限、飲む水は一旦沸かして飲むなどの為に
Dランクとなれば必須となるこの技能を
見ておき、それを採点するのだとか。
「でも私、1人ですけど?」
「だから今回は1種類で良い、作るのはお前さんと俺。
それと試験官の彼の分で3人分だ。
材料はここにあるものから作ってもらう。
ここに無いものを足しても良い。
今時は煮炊き出来ない依頼主ってのも居てな。
冒険者に頼る事もある。
味、手際、調理の3点を採点する。」
そういって出された木箱には
旅の定番、とされる干し肉に硬パンにチーズ。
塩や干し野菜にまだ出発したばかりだからかもしれないけど
生の野菜もあった。
ただわざとかもしれないけど
問題のある食材も混ぜられているように見えた。
1つ1つ鑑定し、献立を素早く決めていったのです。
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