第73話 G、肉体労働に励む。
「またこれといった依頼が……。」
『ただ依頼票の取り合いで
単にマスターが力加減を間違えて
革紙を破いたのが原因ではないかと。』
「いやいやいや、おかしいよね!?
同時に取って3分の2以上あれば1枚の扱いだよね!?」
『どこの日本銀行券の話ですか?
依頼票が半分だったら依頼も半分、という事には
決してなりませんからね?』
「まぁ、そう言われればそうか……。」
今日も依頼票の争奪戦の結果
良い依頼が獲れず、異常なまでに余っていた
肉体労働系の依頼に行く事になったのです。
依頼は領からのもので、納税で納められた
ドンゴロスと呼ばれる麻袋に詰められた土の運搬。
なんでも領都のすぐ近くの森を現在切り開いているそうで
木を切り、切株を引っこ抜いた場所を埋める為の
土が入っていて、1袋が50キログラム。
これを町から領都近くで土を掘った場所で作っていて
穴の場所まで運び、そして埋める作業が冒険者への依頼。
まぁ肉体労働系の依頼は初級冒険者には
非常に多いのですが、まぁ身入りはあまり良くないものの
その分、依頼としての評価は高めで
昇級試験への道、と考えれば悪くないそうで。
但し私だけ、仕事の内容を変えられたのです。
他の冒険者は麻袋に詰められた土を運び
穴に入れれば良いと言うのに
何故か私だけ自分で土を麻袋に詰め、運び、埋めると
詰める工程が多いんですよ……。
「お前さんの運ぶ速度が早すぎて他の連中の仕事に
ならねぇんだよ……。」
「さいですか……。」
しかし、暫くするともう1工程増えたのです。
今度は私が木を引き抜いて、町まで運ぶと言う
工程が増えたのです。
「お前さんの運ぶ速度が早すぎて穴の数が足りなくて
他の連中の仕事にならねぇんだよ……。」
「さいですか……。」
結局1人で木を引っこ抜き、土で埋めるまでを
行わされる事に……。
しかし所詮、お役所仕事。
工程が増えた、進捗が良くなった事と
依頼料の関連性に全く影響が無かったので
翌日は受けない事に。
翌日は領都の外壁工事の依頼。
こちらも外壁に使われている石の中で
割れたものを取り除き、入れ替えると言う
中々の肉体労働だったのですが……。
「あのな?工程はまず上から石を順番に下ろしてだな。
割れた部分の石を取り換えて
また組み直すものなんだよ。」
「ええ、重々承知していますが?」
「なんで10分でそれが終わるんだよ……。」
「そう言われましても……。」
1日仕事で石を1つ入れ替える予定が
ものの10分で終了。
そもそも本来であれば数人がかりで
徐々に石を吊り上げて入れ替えるところを
私が1つ1つひょいひょいと持ち上げていった上に
入れ替える石もひょいひょいと入れ替えてしまった事で
あっという間に終わってしまった。
そしてやっぱりお役所仕事。
その日は既定の額が支払われたものの
翌日から早く終わったのなら安くて良いだろうと
依頼料が引き下げられてしまい
今度は誰も引き受けなくなってしまったのです。
私も依頼料が下がるなら、と受けない訳でして……。
さらに翌日は近くにある鉱山で掘られた鉱石の移送。
「お前さんの運ぶ速度が早すぎて他の連中の仕事に
ならねぇんだよ……。」
「さいですか……。」
「と、言う事で他の仕事無いですかね?お姉さん。」
「……………ありません。」
受付のお姉さん方はなんとも渋い顔をしているのは
土の移動は思った以上の速度で終わってしまったので
依頼が無くなり、外壁は依頼料が激減して誰も受けない。
そして鉱山の仕事も思った以上に早く終わった為
依頼が無くなった。
つまり依頼を次々と潰しているようなもので
今度は仕方なく、常時依頼が出ている
薬草採取の依頼を受ける事に。
そして3日後……。
「いい加減にしてください!」
「そう仰られましても……。」
なんと領都近隣の薬草が、再度増えていくまで
採取出来ない位に採取し尽くしてしまい
薬師ギルドは「もう要らない」と言い出すし
逆に薬師ギルド以外の依頼で集めようにも
最早領都の近くで薬草を見かける事は出来ても
それを抜くとそこから薬草が消えてしまう事態になる為
わざわざ遠くまで採取にいかなければならないのだとか。
速いペースで終わって怒られるとか
私としても聞いた事が無い。
特に薬草採取については、量に対して
依頼料が支払われる訳でして
冒険者ギルドとして損は無い筈なんだけどなぁ……。
しかもEランクまでの依頼が次々と消えていき
受ける依頼が殆ど無くなった事も
何故か怒られる要因になり……。
「と、言う事でこれ以上Eランク以下の依頼を
片っ端から片付けられては他の冒険者への依頼が無くなりますので
やむを得ませんが、Dランク昇級試験への推薦を出す運びとなりました。」
あれ、結果オーライ?
そしてその場で次回のDランク昇級試験への申し込みとなり
事前段階での資料だけを渡されたのです。
「次回の開催は、この領都ホーマック。
それまでに資料を熟読し、準備をなさってください。」
「……………それだけ?」
「それだけです、必要な事は資料に書かれていますので。」
必要な事は資料に書かれている。
そういうのでその場で開けようとすると
他の人に見られない様にする事と
この資料の内容について誰にも話さない事と言われた。
とりあえず屋台でオーク串を購入し
食べつつ、誰にも見られない様に読み始めた。
「資料、ねぇ……。」
『また非常にざっくりしていますね。』
書かれている内容。
それはまず試験の開始日時と集合場所。
11日後、午前4時に町の南門前にて、となっている。
持ち物は「試験に必要と思われるもの」とだけ。
ゴリラ鑑定してみるも、特にこの資料とやらには
何か隠されている訳でも無ければ
加工されても居ない、ただの紙だった。
「こういう頭使わされる系、嫌いなんだよね……。」
『頭、ですか?』
「試験内容は事前に発表しない、って事なんだろうけどさ。
問題は2つ、1つはこの試験に必要とおもわれるものって
文言の部分だよね。」
『非常にざっくりとしています。』
「だってさ、これ試験が1日で終わるとか
終了する日時が無いって事は、何日掛かるかすら解らないし
それに必要と思われるもの、って考え出すとキリないよね?」
『確かに、マスターはゴリラコンテナがありますから
いくら持っても構わないでしょうが
異空間収納系の能力や魔法が無い冒険者となると
どこからどこまで用意してよいのか悩みますね。』
「内容は他言出来ない、見せられないから
事実上相談も出来ない、恐らく既にDランク以上の
冒険者が答えになるから、って事なのか
それとも他意があるのか。
こういう禅問答みたいなのが嫌いでねぇ……。」
『しかしマスターにとっては
頭を使わされても、問題とはならないのでは?』
「そうなら良いんだけどね。
私の懸念はどちらかと言うと開始日時の方かな……。」
『どのあたりがでしょう。』
「それが2つ目だよ。開始日時と集合場所だから
4時半の時点で多分だけど、試験が始まっている。
そういう事じゃ無いのかな。
依頼票の貼り出しが4時、そしてその争奪戦が4時半からなんだけど
思った程4時きっかりに居る人って半分と居ないんだよね。」
『ああ、欠伸をしながらゆっくりと
やってくる冒険者も多いですね。』
「日本の社会人概念を持ち込むつもりは無いけどさ。
いわゆる5分前行動、10分前行動ってやつ?
そもそも4時半に争奪戦をして1時間半で準備して
6時の開門と同時に依頼が始まる人も居れば
そこから町の外に出てって人も居るし。
見ている感じでは30分前行動、ってのは
依頼の場合は多い感じがするかな?
特に南門で護衛任務で出る人とかそんな感じだよね。」
『ではこれは実際には午前3時半に
門に居るべき、と言う事なのでしょうか。』
「それすらも考えて行動しなさい、って言ってる気が
するし、そういう頭の使い方させられるのが嫌。」
『まぁ……マスター、朝弱いですからね……。』
「そこを問題視はしてないからね?
朝3時半に起きる必要があるなら、2時半には起きるからね?」
『目覚ましも無いのにですか?』
「うぐぅ………ゴリラアーマーに目覚まし無いかな……。」
そしてファンファーレが鳴った。
「まさかのアラーム(目覚まし)実装!?」
【ゴリラアーマーがゴリラ能力「Gアラート」をひらめきました】
「何か思ってたのと違う!!」
※アラーム:予定調和的な「警報」、目覚ましはこちら。
※アラート:予定調和ではない「警報」
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