第72話 G、伝説の草wwwを引き抜きに行く。
私が受けた依頼、それは「伝説の草の採取」と言うものだった。
まぁこれがまた伝説の理由が酷いのですよ。
領都ホーマックから見える巨大な山。
その頂上付近には雪さえ見えるホーマック山と呼ばれる山の
頂上に10年に1度生える草の採取。
それが依頼内容で、実際の所は今から10年前に出されたものの
未だこの依頼は未達成のままになっている事から
伝説、と言う事なのだとか。
まぁ実際の情報を受付のお姉さんに聞けば
その理由が解った。
このホーマック山、標高が8900メートル程あるのだとか。
エベレストより50メートル程高い山。
これまで挑んだ冒険者PTは
軒並み途中で諦めたのだとか。
その理由はホーマック山の険しさもあるのだけど
どうやら大半が高山病で戻る羽目になったらしい。
「つまりゴリラアーマーを着ている私にとっては
問題の無い依頼、と言う事だね!」
『まぁ、間違っていませんね。』
ただの草の採取、なのでランクを問わない依頼であるものの
その険しさと高山病を恐れて
ずっと塩漬けされてきたものだとか。
依頼主は薬師ギルド。
20年前にはSランク冒険者PTが挑んだ事で
無事採取されたそうなのだけど
10年前は誰も成功しなかったとか。
そして、失敗した理由が麓につくにつれて
判明してきたのです。
「何この垂直に近い山……。」
確かにホーマック山は山ではあったけど
角度がほぼ垂直に近かった。
「これ登るの……?」
『依頼票では反対側は非常に緩やかだそうですよ?』
「………つまりホーマック側からは傾斜がきつくて
反対側は緩い?変な山……。」
依頼に特に期日は無い。
ゆっくりと回り込んで緩い方から登るか
このまま急斜面、と言うか垂直の壁に近い場所をよじ登るか。
それは依頼を受けた冒険者次第、というものでもあった。
「ならばゴリラの登坂力を今ここにっ!!」
と、山に飛びつく様に登り始めて数秒。
「ぐおっ!?」
すぐに私は落下した。
なんて言っている場合じゃなかった。
「おおおおおおおおおおおお!?」
落下し、背中から地面に落ちた私は
とにかく懸命に横に転がったのです。
「おおぅ………なんて脆い山なんだか……。」
登り始めると共に、まず垂直に近い壁が
あっさりと崩れて落下。
そして私が掴んだ場所が崩れた事で
一気に壁のような山の一部が落下してきたのです……。
「これは反対から登るしか無いんだね……。」
しかし反対側もまた酷いものだったのです。
土、と言うよりは大き目の砂利道のような山で
土が剝き出しの部分は非常に少なく
殆ど瓦礫の山でも登っているようなもので
ニンジャフォームになり、ナックルウォーキングで進むも
砂利が滑って、上手く地面に力が伝わらず
速度があまり出せない、と
この依頼の厳しさをヒシヒシと感じていた。
「ま、息苦しくないってのが幸いか……。」
『バイザーを開けたらそこで依頼終了、ですね。』
「先生、早くAランクになってまったりしたいです……。」
『いつになる事でしょうかね……。』
そして紆余曲折ありつつも
ホーマック山を登り切り、山頂に到着。
「えーっと………これが聖剣草?」
『ですね、見た目が地面に刺さった伝説の剣に見えるという
聖属性の草、聖剣草ですね。』
「なんだろうね、地面に刺さった聖剣に確かに見えるけど
バーゲンセールとかワゴンセールにも見えなくも無いんだけど……。」
10年に1度生える、と言う話だったけど
そもそもそれが1本だ、と言う話でも無かった。
「依頼では1本、ってなってるよね?」
『ですね、しかしここには100本以上
あるように見えますが………。』
念の為、鑑定してみるとその詳細に答えがあった。
「抜くと根の一部が地面に残り、それが成長するのに
10年掛かるが、生えたままだと非常に繁殖が早い?」
『10年前に採取出来なかった事で
大量発生に繋がったのではないでしょうか。』
「この聖剣草、特に高山植物でも無いみたいだけど……?」
『抜いてどこかに植えたら増えるんでしょうかね?
と言うかマスター。鑑定情報にもっと気になる点が。』
それは聖剣草、と言う名前通り
抜くのには力が必要で、選ばれた者しか抜けないとまで
書かれていたのです。
「………これもしかして?」
『10年前に来たのがSランク冒険者PTだったから
抜けた、とか言うオチがありそうですね。』
「むしろ私に抜け………た?」
軽く引っこ抜いてみたら、簡単に抜けてしまった。
『もしかしたらゴリラアーマーが神器だからかもしれません。』
「なら抜いて持ち帰って植えたとしても
もしかしたら引っこ抜く事が出来る人が必要?
だとしたらただの迷惑な草だよね……。」
『そうですね、除草しようにも
聖剣が抜けるような人物でなければ抜けない上に
繁殖が早いとなれば、ドクダミやミント以上に
厄介な雑草になりかねません。』
「しかもこれ何の薬の素材なのかな?」
『アカシックレコードでググったところ
いわゆる男性の息子さんが元気になられるお薬の
材料のようです。』
「…………………何の材料か以前に
なんでアカシックレコードにアクセス出来てるのさ……。」
『何故でしょうか、さっぱり解りませんが
主に王侯貴族が利用するようです。』
「答える気が無いなら良いけどさ……。
そんなにこの世界の出生率は少ないのかね?」
『そんな事はありません。
一人っ子政策をしても良い位王侯貴族は
子供だらけで、むしろ一般の方ほど
必要なものだと思います。』
「ま、いっか。
どう使うかは人それぞれだし?」
とりあえず全部引っこ抜いていくのは
10年後の事もあるので3本ほど残し
残りを全て引き抜いて、ゴリラコンテナに収納したのです。
「さ、帰るかね。」
『どちらからですか?』
「え?」
『この目の前の急坂を駆け降りるのか。
それともまた緩やかな坂を迂回して
時間をかけて降りるのか、と言う意味です。』
「どこに8900メートルの高さを飛び降りる馬鹿が居るのさ……。
ゴリラアーマーでもこんな高さから落ちたら
私が死ぬ気がするんだけど?
むしろ斜度が90超えたら坂では無くて壁じゃね?」
『試してみたらいかがでしょう。』
「お試しで飛び降りる高さじゃないからね!?
死ぬ気がするって言ってるのに
怪我程度で済むか死ぬかを
お試しするとかありえないから!!」
結局は迂回して帰り、領都であるホーマックの町に到着。
依頼に掛かった期間は全工程で10日間で済み
私は依頼分としての聖剣草の納品と
余剰分の納品で、暫くの生活費を稼ぐ事が出来たのでした。
また塩漬け期間が長かった分、評価が高く
私のDランク昇級試験の推薦までの一歩となったのです。
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