第70話 G、領都ホーマックへ。
「はい、これで今日から商人です!」
「あ、はい。」
まぁ前にやった事ではあるものの
問題が変わっただけで四則演算に鶴亀算と
口頭でする事となっただけであり
特に問題は起きなかったのです。
「で、またDランク昇級試験の推薦とやらを
取り直さないといけないと……。」
『ウィンガード王国で受けておけば
こんな事にはならなかったのでは?』
「今回は素直にそう思うよ……。」
流石にまた期限だなんだのと言われたくないと思った私は
ホンダワラの町から同じベルベッケン領内にある
領都ホーマックの町を目指す事としたのです。
理由?なんでも昇級試験が行われるのは
どこも領都か王都帝都の類だけで
普通の町では行われないのだとか。
ならこれから領都ホーマックを目指し
そこで冒険者活動をするのが、良いかと思ったのです。
今の私なら、ニンジャフォームで6時間で
領都へと着くので、そう遠い場所でもないと
翌日には領都ホーマックの門を潜ったのです。
そしてここで本格的に冒険者として。
そして商人として、活動を始めたのです。
まぁお金はまだそれなりに余裕があるので
商人としての活動よりかは
冒険者としていち早く昇級して
登録抹消されないようになりたい訳でして……。
「眠い………。」
初級冒険者に限らず、Cランクまでの
初級、中級冒険者の朝は早いのです。
冒険者ギルドに来るのはなんと朝4時。
これから30分までの間、次々と
掲示板に依頼が続々と貼られていくのです。
そして4時半になったと同時に
その貼られた依頼の冒険者同士による
奪い合いが始まるのです。
依頼は必ず依頼票が1枚とは限りません。
受けられるPTの枚数分、重ねて貼られるものもあり
その場合は真っ先に終わらせた冒険者が
依頼達成となるそうです。
駄目だった人?
失敗にはならないけど、達成にもならないそうです。
そしてこれはようは仕事の奪い合い。
割が良いものほど早くなくなれば
たった1枚しか依頼票が無いものもあって
それを剥がし、受付に持っていった順で受付され
そして朝6時の開門までに準備をし
開門と同時に依頼に出ると言うのがCランクまで。
Bランク以上?
Bランク以上の依頼票は掲示板には貼られず
窓口で直接斡旋を受けられるのだそうです。
これは難易度の高い依頼を中級以下の冒険者が知り
無理に挑戦するなどをさせない為なのと同時に
Bランク以上はこんなに朝早くから来なくとも
朝の9時くらいにまったり来て
依頼を受けられる、つまり特権みたいなものを
兼ねているのだそうです。
で、私はEランクなので
EランクかFランクしか受けられない。
本来は1ランク上まで受けられるそうですが
初級、中級、上級、超級といった
級を飛び越して受ける事は出来ないのだそうです。
ようはDランクの人は
F、E、D、Cランクの依頼まで受けられるけど
Cランクの人も
F、E、D、Cランクの依頼までしか受けられないそうです。
これは主にDランク以上は護衛の依頼が受けられ
Bランク以上は王侯貴族の依頼が受けられる。
その級の敷居は超えられないけど、そうでなければ
1ランク上まで、と言うものだからだとか。
この辺りも無駄に冒険者に死なれないように、とか
護衛や王侯貴族の依頼には
ある程度、個人の素養や礼節と言った部分が
求められる事もあり、昇級試験を経て
そこが十分である、と見られなければ
冒険者ギルドとしても斡旋できない、と言う事で
こんな複雑な仕組になっているのだとか。
『で、朝から本気モードで行くのですか?』
まさか。
流石にニンジャフォームで素早く取ろうとかまでは
考えていないので、今日はライトフォームですが何か?
『ベーシックフォームで蹴散らせば良いのに……。』
残念ながら、武器や魔法の使用に制限ありだそうです。
この依頼票の奪い合いが過熱し、武器を抜くような連中が
過去出た事から、武器の使用や
肉体強化などの魔法の使用も禁止されています。
『つまり己の肉体1つで奪い合うのですね。
尚の事、ベーシックフォームで……。』
あんたはゴリラなのが良いだけだよね??
ベーシックフォームもライトフォームも見た目だけで
特に性能的な差は無いんだけどさ……。
『やはりこう、周りに威圧するくらいでないと
こういう競争事は、始まる前から
勝負が始まっているものだと思うのです!!』
なんで依頼の取り合いに威圧が必要なのさ……。
そしていよいよ4時半になる少々前。
冒険者ギルドの職員さんが掲示板の前にある線から
冒険者がはみ出ない様に。
開始前から既にヒートアップしている連中には
注意をし、最悪開始前に退場させると脅しては
なんとか冒険者を抑え込みつつ
開始時間を見守っていた。
私はまぁ小さい事もあって
前の方をサッサと確保出来、掲示板は目の前。
狙いをつけている依頼票をチラ見しつつ
開始の合図を待ったのです。
そして開始の笛が鳴ったと同時の事です。
私の左右に居た男が私の頭に肘を入れてきたのです。
そして私が取った行動。
それはその場から一切動かない、という選択肢。
それによって後ろから私を圧す形になった冒険者は押しきれず
さらに後ろから圧され、最後には私を圧しきれず
逆に後ろに倒れ、左右の肘を入れてきた男の冒険者も
前に進むより私そのものを潰しに来たのかな?
真横に押すように入れてきた肘が弾かれ
逆に私から遠ざかるように倒れ
私が何かをしなくとも、私を中心に左右と後ろの冒険者が
続々と倒れる、といった状態になった。
私は先頭列の左右の端側の冒険者に少し遅れ
その倒れ始めと共に飛び出す形になったのです。
『と言うか、あからさまでしたよね。
左右とかもう肘を最初から出っ張らせていましたし。』
それは知ってるけど、後ろまで倒れるとは思ってなかった。
そして私の狙っていた依頼票は……右少し前にある1枚!
しかしそれは先頭の右端側から出てきた冒険者に
取られてしまったのです。
「チッ、なら2番目、を飛ばして3番目!!」
2番目に狙っていたのはここから左の方にあり
多分間に合わないと思い、さらに右にある3番目の希望だった
1枚の依頼票をそのままもぎ取ったのです。
しかもここで終わりではありません。
これを「受付に提出」して
初めてこの依頼は正式に受理されるのです。
つまり、受付に提出する前に
この依頼票を奪い取りに来る可能性がある!
ルール上、武器と魔法の使用禁止。
そして露骨な暴行の禁止、それ以外のルールは無いのです。
それが露骨かどうかを判断するのは
元冒険者でもある冒険者ギルド職員。
正直、肩が当たっただの肘が当たっただの
その程度ではルール違反にならない。
当然、スタートと同時に動かなかった私も
ルール違反でも無い。
それによって倒れたのであれば
それは自業自得、これが僅かでも良い依頼。
つまり出来る限りローリスク、ハイリターンな
お仕事を得る為の冒険者同士の戦いなのです!
『絶対楽しんでますよね?』
当然!こういうのが冒険者じゃ無いのかな?
『創作物の読み過ぎです。』
それを否定するつもりはないよ?
星5点満点で「面白い」や「面白くない」と
つけていただけると、作者が一喜一憂します!