第69話 G と ホンダワラの町。
あれから立ち寄ったのはホンダワラ、という名前の町。
「なんでホンダワラなんだか……。
ここ海までかなり遠いよね?」
と、オークの串焼きの露店のおっちゃんに聞いた所。
「なんでも昔は海の邪魔者って呼ばれてたらしいぜ?
それでも食えるし、いくらでも海にゃ生えてるし
流れてるから貧民の食い物だったらしいんだが
ある日、この町がまだ村だった頃に
肥料として使ったところ、作物の出来が良くなったらしい。
で、それによって成長して町へと変わった時に
つけた名前で、その名残で今でも肥料が作られてるし
市場にいきゃ、肥料が売られてるって話だ。」
「おー、キチンとした理由だったんだ……。」
なんでも海側では大量発生する上
千切れて海では船の航行に支障が出る位の
邪魔者扱いなのだとか。
しかし海では魚や貝など食べるものはある訳で
わざわざホンダワラを食べる必要は無いし
燃やすにも乾燥させて燃やさなければならない。
かといって放置すると腐って異臭を放つ上に
魔物すらよってくる。
そこで当時内陸は作物の出来があまり良くなく
主に農村部では食べるものにも困っていた事もあり
乾燥させ、内陸へと輸送し食料にせよと
当時のベーコンエッグ皇帝のお触れが始まりだったのだとか。
そしてここの村民が肥料にし、作物が良く育つようになり
今度は内陸のよく出来た作物が海側へと
出荷されていくようになり、帝国内の食糧事情の
改善に貢献した、と言うのが
他の露店の人にも聞いた話だった。
「ま、当代は知らないけど当時の皇帝とやらは
出来る人だったのかね?」
『解りませんが、植民地などを持っているからこそ
皇帝であり、帝国な訳ですから
その辺りの事情も解らなければ何とも。』
「そりゃ言える。」
街の名前の由来を知った所で
久しぶりに冒険者らしい事や商人らしい事でも。
そう思っていたのだけど、冒険者ギルドに行ったら
受付のお姉さんに超怒られたのです。
「リラさん?本当にお解りになられてますか!?」
どうも私の登録証には既にDランクへの昇級試験の推薦情報が
付されているらしいのですが、実はこの推薦とやら。
試験を受けるまでの期間が定められているのだとか。
「あー、もう……。
次の昇級試験はこの3日後で推薦期間ギリギリなんですよ!?
会場はベルベッケン領の領都ホーマック。
ここから500キロは離れているんですよ?
駅馬車じゃ間に合わないじゃないですか!!
ああ、もうしかもウィンガードの本部が付した推薦じゃないですか……。
これ受けられなかった、じゃ済みませんよ!?
なんて事してくれたんですか……。」
「いや、あの………推薦に期間が決まってるとか
初めて聞いたんですけど……。」
「あ゛?」
そしてお姉さんの顔が鬼のような般若のような顔に見えた。
「冒険者ギルドの推薦はランクアップの重要なものであり
推薦が無ければ受けられないのですよ!?
それが伝えられてない!?ウィンガードの冒険者ギルドは
何やってんですかね!!」
そんな事言われても聞いてないものは聞いてない。
あと500キロなら1日あれば着くんですけど?
間に合わないとか勝手に決めこまれても困るんですが??
なんて口が裂けても言えなかった。
っていうか顔、超怖いんですけど……。
「フロアマスター!ちょっと来てください!!」
さらに受付のお姉さんは応援まで呼び始めた。
フロアマスター?
『副ギルドマスターの下の役職です。
階ごとに序列があり、1階のフロアマスターは
冒険者ギルドの序列第三位にあたります。』
ほぅ、そりゃ初めて聞いた気が?
『マスターが聞き逃していただけかと。』
さいですか……。
「どうしたの?ララア」
「フロアマスター!ちょっと聞いてくださいよ!!
このリラって子、Dランク昇級試験推薦があと10日で切れるんですけど
一番早い会場で3日後の領都ホーマックなんですよ!
ここから500キロですよ!?
もう間に合わないし、この推薦ウィンガードのデンドルドア本部付で
受けさせない訳にもいかないし……どうすれば良いですかね!?」
「いえ、あの500キロ程度でしたら「お黙りなさい!!」……はい…。」
「で、どうしましょうか……。」
「そうね………Eランクの登録証だから
私の権限でFランク登録証にEランクへの特別事案による
ランクアップで処理して新しいEランク登録証へ
差し替えれば問題ないんじゃないかしら?」
「え?それだと討伐記録とか全部消えますよ??」
「Eランクの討伐記録とかたいした記録は無いでしょ?
あら、でもこれ商業ギルドの登録も含まれてるわね。
貴方、商業ギルドにお金預けているかしら?」
「え?………多分預けてなかったかと……。」
「なら抹消で良いわね、もう1度試験から受け直しなさい。」
「え?」
もう一度試験を受け直せ??
この人達は何を言っているんだか……。
「それって登録費ももう一度払うんですよね?」
「あたりまでしょう?
そもそもDランク昇級試験の期限に間に合うように
試験を受けなかった貴方が悪いのよ?
しかも本部付の推薦って受けないとかなり問題なのよ?
どうにかするにはこの登録証情報を抹消して
新しい登録証を作って、また昇級試験の推薦を
取り直す方が、まだマシなのよ?」
「そうなんですか?」
「それ以上にこっちの問題なの!!
Dランク登録試験に誘導出来なかったって
総本部に睨まれるんだから!!」
「?だから500キロ程度「お黙りなさい!」……はい…。」
『マスター、普段と違って妙に
押しに弱い日ですね……。』
お姉さんの顔を見なさい、顔を……。
まるで般若みたいな顔してるから……激おこ中だよ?
「ララア、新しい登録証を」
「はい、フロアマスター。」
そして私の登録証は現在のものから
新しいものへと交換された。
そこには冒険者ギルドのEランク冒険者としての記録だけで
商業ギルドの登録を1からやり直す、と言う事になった。
私の古い登録証はその場で穴が開けられ
廃棄される事となったのです。
そしてこれが更なる問題を生み出すとは
私も、そしてこの目の前の般若のように怒った顔のお姉さんと
フロアマスターとやらも。
この場に居る誰もが思ってもみなかったのです……。
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