第63話 G、前を向く。
ウィンガード王国の王城にある謁見の間。
本来であればここには多くの貴族が詰めかける筈だった。
しかしリラの非公式であるならば、との声に
ウィンガード王がここに呼んだのは
たった2人だけだった。
空竜近衛騎士団 団長 ソニック
陸竜近衛騎士団 団長 パーシヴァル
「さて、リラ。此度は大変助かった。」
「あー、そういうのは冒険者ギルドホーキテ支部の
マルッスギルドマスターまでどうぞ。
私はマルッスギルドマスターから依頼を受けて
その依頼達成の為に来ただけなんで。」
「それでも、だ……。」
「ですか、ならそういう事で。」
リラは終わったとばかりにさっさと帰ろうとした。
「それはねぇだろ、いくらなんでも
帰るのが早すぎねぇか?」
「そうですか?
あ、そういえば忘れてた、核心出してくれる?
この国に8つあるよね??」
まぁあるわあるわ。
封印していたらしいけど、何か見た感じ
1つ1つの形も色も様々。
これまでそのまま握りつぶしてたから
思ってたほどしっかり見た事が無かったので
ほぼ初見、と言っても良い位だった。
「キモッ………マジで人体模型の心臓みたいな
形してるよ………。」
その全てを破壊すると、そこにいた全員が
安堵の表情を浮かべていた。
「すまねぇな、神器持ちに頼めりゃこんな事
お前さんに頼まなくて良かったんだが……。
つまり、お前さんはこの世界で13個目の神器を持っている。
そういう事になるな?」
「まぁね。」
「そうか………。
お前さんには礼をしなきゃならんな。」
「そう、なら丁度良いのが1つあるから
それで勘弁してあげる。」
「丁度良い?」
私はドレス姿のまま、パーシヴァルという男の前に移動した。
「あの時は済まなかった。」
前に立つ私に、今になっての突然の謝罪。
「あんた、何か勘違いしてない?」
「何?」
「解らないみたいだから、今教えてあげるよ。
歯ぁ食いしばれ!!」
私はそのままバナナ売りのハリセンを取り出し
パーシヴァルの顔を引っ叩いた。
固定ダメージ1、そして効果時間1秒の
100パーセント発動する気絶が掛かる事で
パーシヴァルは倒れ込みそうになり
1秒の時間を経たと共に、その倒れ込みそうな身体を
慌てて立て直した。
私はバナナ売りのハリセンをパーシヴァルへと突き付けた。
「私に謝る前に、被害にあった人達1人1人に
謝るのがまず先じゃ無いの!?」
「くくく、ちげぇねぇ。」
「そういえばそのような事はやっていませんね?パーシヴァル。」
一応、裏はとってある。
このパーシヴァルとやらは、誰にも謝罪していないと
この国の暗部?とやらの人から聞いていた。
つまりこいつはあれを悪いとすら思っていない。
か、どうかはさておいて。
「悪い事をしたら、謝るものだと父親や母親に言われなかった?
それともランスでも構えて『すまん!』とでも言って
謝ったつもりにでもなってる?
ま、そんなタマでもないよね?
今すぐ謝罪に行ってこい!!それがあんたが真っ先にすべき事!
思い立ったら吉日、さぁいけ!やれいけ!さっさといけ!!」
所々バナナ売りのハリセンで引っ叩きつつ
気絶し、倒れ込むところを気が付いて
立て直すというコントのような姿を見つつ
追い立てて、謝罪に行かせた。
「面白れぇな……ソニック、例の物を出してやれ。」
「御意」
そして何か巨大な箱が運び込まれた。
何かさっき見た気もするんだけど……。
先程持ってきた核心が8個入った箱に
非常に似ていたのです。
「…………なんですかね、これ?」
「今回の褒章だが?」
「褒章………?」
持ってきた騎士達が箱を開けるとあら不思議………。
と思ってたらファンファーレ?
まぁ、能力などは後回しでこの箱の中の方が先だね……。
「お金……?」
にしては妙だ。
この世界の通貨は5種類のみで世界共通の硬貨。
鉄が主原料の鉄貨、銅が主原料の銅貨、銀が主原料の銀貨
金が主原料の金貨、そしてプラチナが主原料の白金貨。
その全てが丸いのが特徴。
それぞれが日本円で1円、100円、1万円、100万円、1億円と
換算するのが良いとニクジュバンニには聞いている。
しかしこの貨幣、いわゆるルーローの三角形型と呼ばれる形状だ。
ギターのピックにも似た、少々変わった形の硬貨。
「それはウィンガード王貨だ。
「ウィンガード……王貨?」
国貨とも呼び、このウィンガード王国の場合は王貨と呼ぶのだそうだ。
国貨はこの世界の6つ目の硬貨なのだそうで
一般的には流通する事が無いお金だとか。
「一般的に流通しない………?
それって使えない、って事では??」
「そういう事ではない。」
ニクジュバンニが細かく説明してくれた。
これはそれぞれの国が発行している特殊な硬貨で
国との取引と商業ギルドでしか使えない硬貨なのだとか。
国の信用だけで成り立つ貨幣であって
国が消滅すれば、その時点で金属としての価値しか残らない。
そして国としての信用だけでこの硬貨には
価値が決まる、と言うなんとも特殊なもので
王貨1枚がいくら、と最初から決まっている訳ではなく
その信用度と発行枚数次第で1枚の価値が変動していくのだとか。
しかも国との取引であれば、相手の国がこのウィンガード王貨を
いくらと算定するか、など本当に信用だけで成り立つ硬貨で
いわば国債に近いものだとか。
「商業ギルドに持っていけば、一般的な金に出来るだろ。
まぁウィンガード王貨など国が大きすぎる分、発行枚数もかなり多い。
1枚1枚は然程高い金額にはならないだろうが
その箱で1万枚入っているから、持っていけ。
お前さんの路銀程度にはなるだろう。」
「路銀ねぇ……。」
「異空間収納の1つや2つ、持ってるだろ?」
「それとあれだ、ソニック。」
「御意。」
ソニックさんが指を鳴らすと
扉から見た事が無い人が2人入ってきた。
それは2人とも女性で
1人はまぁなんというかアマゾネスチックと言うか……。
その筋肉美は何ですかね?と突っ込みたくなる女性で
1人は秘書風のいかにも出来そうな風体の女性。
「あんたがリラか。」
「あのー……どちら様で?」
「この王都デンドルドアの冒険者ギルド、デンドルドア本部の
ギルドマスター、ハンナだ。」
「私は副ギルドマスターのメロディです。
以後、お見知りおきを。」
「まぁ、ウィンガード王から呼び出しがあるたぁ
独自機関としちゃ、そう受けるもんじゃねぇんだが
冒険者ギルド(うち)が1枚噛んでるとあっちゃ
来ない訳にゃいかねぇからな……。」
「なんのこっちゃ………。」
こんな所にわざわざ冒険者ギルドの。
しかもこのウィンガード王国の本部付きのギルドマスターが
足を運んでくるとか何事かと思ったのですが
まぁ、これこそ一番の面倒事だったのです。
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