第62話 G、少し振り返る。
ウィンガード王国軍は世界に
ホーレルヒ王国との終戦を告げた。
そしてウィンガード王国は戦後処理に追われた。
未だ宗教国「オラクル聖王国」とは戦時中ではあるが
お互いが別大陸の国同士である事もあり
事実上は一切の戦いが行われてはいなかった。
あったのはウィンガード王国内の
全ての神殿が取り壊され
地下で行われていた賭博や禁制品の取り扱いなどに
係わっていた人物の幽閉と
無関係だった者達を他国を経由し
オラクル聖王国へと戻した事だけだった。
そしてホーレルヒ王国との戦後処理は難航した。
まずホーレルヒ王国の国土をどうするべきか、という点に置いて
隣接国である東のサンディング王国と西のヘルレイド王国が
どちらも国土にすべく動き出していたからだった。
しかしながら、戦後処理中のホーレルヒ王国王都に関しては
現状どちらの国にも渡せず、全ての処理が終わってからの
引き渡しになる事から、サンディング王国とヘルレイド王国が
お互いぶつかり合う事もなかった。
最終的にはサンディング王国へ取り込まれる事となった。
またハリーバードの港町は、サンディング王国に加わる判断をした。
そして世界各地では、この終戦後の
ウィンガード王国軍の出した報告によって
各地で神殿への強制捜査が始まった。
結果としてはどの国の神殿でも行われていて
国によってはウィンガード王国と同じ対応を取り
国によっては全く違う対応を取った国と様々だった。
そして今回の件に関しての主犯は
ホーレルヒ王と、ドクトル・ロガンの両名。
そしてホーレルヒ王国の多くの貴族が
神殿への出入りを含め、様々な世界法違反によって
ウィンガード王国において、死罪とされた。
但しそこに核心の存在に
触れるような内容は一切無かった。
そして世界は多少なりとも変わった。
新しい生活、新しい仕組、そしてそれは
時間が経過する事で、いつもへと変わっていく。
『で、何があったのかを400字詰め原稿用紙1枚以内でお答えください。』
「覚えていません!」
『……………ですよね。
マスターの記憶を辿っても何も見当たらないのですから……。
しかし納得のいかない事が多いのです!』
トリニティーマテリアライズについてや
シルバーバックフォームについてもそうだけど
私の基本的な能力すら上がっているのだとか。
「記憶にございませーん!」
『くっ………これが事実なだけに
腹立たしい……。』
正直、私にその記憶とやらが全くない。
むしろ最初気が付いた時、あれから6か月も
経過していた事に私自身が驚いたし
ニクジュバンニは何か鳴き声だしと
訳の解らない事ばかりだったのです。
だけど何故か「出来る」と思ったからこそ
勝手にそう動いていた、口も動き声を発していた。
そう答えるしか無いし、そもそもニクジュバンニは
私の記憶を見る事が出来るのだから
ここで嘘を言っても仕方ないし、何より記憶が無い事を
ニクジュバンニ本人が認めているのですから。
「うーん………ま、気にしないって事で。」
『それで済まされる事でも無いのですよ?
特にシルバーバックフォームはファンファーレを含む
システム上の実装メッセージなどが
一切発現されなかったのです。
さらに問題点が発生しています。』
どうやらゴリラアーマーの仕組や機能のうち
これまではほぼ全てにニクジュバンニの権限が存在していたものが
殆どが私だけの権限に切り替わっていたらしい。
『これで記憶に御座いません、で済まされると思いますか?』
「なら聞くけど、本当に『記憶に御座いません』なんだけど
その真偽ってニクジュバンニには解るんだよね?」
『正直、深層部には触れる事が出来ないので
完全では無いのです。』
「深層部?」
『そうですね………。
気になる点は前からあったのですが
例えばマスターのご両親についてです。』
「父と母が何か……?」
『その………ご両親がいらっしゃった記憶は
私にも確認が出来るのですが
それ以外のアクセスが出来ないのです。』
「ああ、私の両親は大学を出て社会に出ると共に
居なくなったんだよね。
今頃、どこでどうしているかもさっぱり。」
『そこです、私にはその記憶にアクセスする事が出来ません。
深層部と呼ばれる場所に納められていて
幾重にも鍵がかけられている状態です。』
「何かまずい事でも?」
『いえ、特に支援に関係ないものがそこに入っている筈です。
例えばマスターが触れられたくないものだったり
人格形成などに重要なものが収められていたり……。』
「人格形成?」
『そうですね………逆鱗みたいなものでしょうか。』
「触る者、全部傷付けるみたいな?」
『違います、例に挙げるのも良くは無いのでしょうが……。
仮にですよ?例えばマスターが幼少期、ご両親に
酷い虐待を受けていた、と仮定します。』
「まぁ、仮定ね。」
『するとご両親に対する記憶は深層部に格納され
幾重にも鍵がかけられるのです。』
「………つまり誰にも触れてほしくないもの?」
『その概念であっていますが、レベルがあります。
例えばマスターがいつまでおねしょをしていたとか
恍惚とした顔で椅子に座り惚けていた事など
比較的どうでも良いものは収納されないのです。』
「色んな意味であんたに殺意が芽生えたわ……。」
『ともかく、今回の意識が無い間の事が
どうやらそこに収納されているのでは、と推測されるのです。』
「………でもそれだと私には記憶があるって事になるよね?
それをちょっとでも思い出したら閲覧出来たりしないの?」
『今のご両親の事を例にすると、出来るようになります。
新周防部からその部分だけ取り出される形になりました。』
「つまり?」
『マスターの「記憶にございませーん」は
間違いではありません。
しかしどうにも気持ち悪いと言うか……。
マスターが倒れる前と違和感が非常に多い上に
大半の権限がマスターのものとなっているのです。』
「不都合はあるの?」
『今のところは特には……。』
「…………………なら良くない?」
『良いのですかね?』
「ゴリラアーマーの運用に問題が無ければ良いのでは?」
『ですかね………。』
「で、疑問があるんだけど良いかな?ニクジュバンニ。」
『何でしょう。』
「何故、私はこんなヒラヒラの可愛らしいドレスを
着こむ羽目になったのかな??」
『戦後の褒章と受勲の為では??』
「こういう面倒臭い事こそ、私が避けたいものだったんだけど??」
『仕方ありません。今回は非公式の上に
マスターだけ、と言う特別扱いであるが故に
マスターはお受けになられたのでしょう?』
「いやまぁ、そうだけどさ……。
……………逃げていい?」
『ここまで来ておいて、今更ですか?』
「ま、いっか。
ちょっとやらないといけない事が2つあるし?」
『やらないといけない事??』
そう。特にそのうちの1つはしておかないと多分。
私は前に進めない気がしているから……。
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