第61話 駆けつけし黒きもの。後編
『無茶し過ぎです、マスター!!』
「うっさい、あんたは黙ってなさい。
ソニックさん、間に合ったみたい?」
落下してきた塊はベーシックフォームのリラだった。
バイザーを閉じているけど、大半が知っていたのか。
特に驚く人も居なかった。
「ええ、素晴らしい間ですよリラさん。
良かったですね、ロガン君。
神罰が届いたみたいですよ?」
「うぇっ……ペッ……ペッ……。
神罰だと…?」
ロガンはリラの落下の衝撃で舞い上がった土埃が口に入り
吐き出すと共に、リラを見た。
「……………ただの大猩猩じゃないか。
厄災には厄災と言う事か!?」
「五月蠅い、このハゲメガネ。」
私はバイザーを開けて、大猩猩では無い事を見せた。
「はっ!?ハゲだと!?」
「あー、良いですねロガン君。
若年性脱毛症ですか?頭を使う人は大変ですね。」
「……なっ、ない!私のウィッグが!!」
「探す必要はありませんよ、ロガン君。」
「え?」
「あそこで燃えてますから。」
ソニックさんが差している手の先には
まぁなんていうか瓦礫の近くで燻っていた火種があったのか
|ウィッグ《かつらがブスブスと燃えていた。
「アッ――――――――――――――!!」
「どうせウィッグ自体がボサボサな程度に手入れをしていないのですから
全て剃って、虱などに備えた方が良かったのでは?」
「五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い!!
貴様は最早、二物三物どころか五物六物も手に入れているではないか!!」
「だから言ったではないですか。
私が手に入れた、と思うものはたった1つ。
彼女、リサさんと出会えた事だけだと。」
「何そのプロポーズばりの臭い台詞……。」
「私、既婚者ですからね?」
「なら………良いのかな?」
「揃いも揃って馬鹿にしやがって!
何が天罰だ!なんだこの小娘は!!
これが天罰!?だとしたらたいしたものでは無いではないか!
やれ!ゴブリン・マザー・クイーン!!」
ゴブリン・マザー・クイーン??
なんか知らない名前だけど……。
ま、いっか。
頭上高くから、触手のようなものが落ちる様に伸びてきた。
何か洗濯機につける排水ホースみたいな
蛇腹感が否めないけど、触手だよね??
「ベーシックフォームとベーシックフォームを選択申請!
シルバーバックフォーム、マテリアライズ!!」
『………シルバーバックフォームを承認。
トリニティーマテリアライズ!!』
背中に鞍の形に灰色の毛色が現れる。
これが私が新たに得たシルバーバックフォーム!
ゴリラの成体に現れるのがこのシルバーバックと呼ばれる
灰色の毛でアームドフォームと同じく
ベーシックフォームの3倍の力を
時間制限なしで扱える、長く寝ていた私が身に付けた力。
「ゴッ、リッ、ラッ」
私は低く構えた、上から落ちる様に伸びてくる
触手へと右拳を繰り出す為に。
「アッパァァァァァァァァァ!!」
ジャンプはしない!
触手が衝突するのに合わせ右拳を高く上へと向けて
突き上げつつ曲げていた膝を伸ばすだけ!
ボゴッと少々風変わりな音と共に、触手はそのまま
上へと吹き飛んでいった。
「……………弱っ!?」
吹き飛んだ、で済むレベルでは無かった。
そのまま遥か彼方に消え、落ちてくる事が無かったのです……。
「え?これマジであのゴブリンクイーン!?!?
超弱くない!?!?
簡単にアッパー1つで飛んでったんだけどさ!?
ねぇ、今どんな気持ち!?ねぇ!?
むしろ私どんな気持ち!?チョー気持ちいいんだけど!?」
ハゲメガネを煽っていると
何かワナワナと震えていた。
「………ソニック!なんだこの規格外の化け物は!!」
「だから天罰だと言ったでは無いですか。
貴方、ゴブリン・マザー・クイーンとやらに
核心を与えたのですよね?
ならゴブリン・マザー・クイーンが死んだら
貴方も死んでしまいますよね?」
「ふ……は…ははははは!
そんな事する訳が無いだろうが!」
「それは嘘ですね。
そもそも核心を与えていないのに
ゴブリン・マザー・クイーンが命令を聞く事は無い筈ですよ?
これでも核心の扱いなどについては
我が国が最も慣れ、そして多くを知っているのです。
ハッタリなどは通用しませんよ?」
「たかが触手1つ破壊した程度で
このゴブリン・マザー・クイーンが
倒せるとでも思ってるのか!!」
「関係ないよ、だってこいつ核心入ってるんだよ?
1発で終わらせるよ!!」
私は両腕を平行立ちの構えにする。
いわゆる「押忍!」というあの少々暑苦しく感じなくもない
挨拶の時の姿勢と構え。
今回は核心が2個ある為
片手ではなく、両手で出す必要性があるのです!
「私の両手がゴリッと唸る!」
詠唱と共に、シルバーバックが光り輝き出した。
「核心を潰せとウホッと叫ぶ!」
私の身体がそれと共に、背中に推進力を得たかのように
前へと一気に進みだす!
「ぁあああああくめつっ!」
そしてそのままゴブリン・マザー・クイーンの
身体に沿って、私の身体も上昇していったのです。
私の両手が目指すべき場所、それは
この巨大なゴブリン・マザー・クイーンの…………。
口蓋垂??
……………それ「のどち〇こ」の事だよね!?
っていうかまたなの!?
前回も大概だったけど、今回もなの!?
どれだけ核心は「自主規制」好きなのさ!!
「G破砕!!」
私はそのまま口に飛び込む形になった。
しかも1つに2つあるんだけど!?
『そもそも口蓋の左右の組織が一つに繋がる段階で余った部分が口蓋垂です。
1つだけではなく、2つの場合もあれば3つの場合もありますし
先が2つに割れている事もあります。
この場合は先が2つに割れているケースです。』
冷静に言わなくてよろしいっ!!
っていうかむにょんむにょんするよぉ……。
他人様の「のど〇んこ」触るとかキモいんですけどぉ……。
『ならさっさと潰せば良いのではないですか?』
あんた、半年も私が寝てたからって
なんか冷たくない?
『目覚めてすぐにウィンガード王城を飛び出し
碌に説明もないと思えば
突然、シルバーバックフォームなどと
新しいフォームを使い始めたりなど
そもそも私に話さなければならない事が
山程あるのではないのですか?』
そういうのを拗ねてるっていうんじゃ……。
『拗ねてません!』
……………まぁ、そういう事にしとこう。
「クレンチド・フィストぉ!!」
私の両手が核心が2つ入った口蓋垂(こうがいすいを握りつぶした事で
ゴブリン・マザー・クイーンとやらはピタッと動きが止まり
そして砂のように徐々に崩れ始めたのでした。
「あ…………………………。」
「確かに天罰となったようですね……。
ロガン君、君は今砂のようにサラサラと
そして徐々に崩れ始めています。
そこに痛みがあるのかどうかも私には解りません。
世の中には、罰とは生かす事だという人も居ます。
しかし君のその知識は決して生きていてはいけない。
何故だと思いますか?」
「…………………あ………。」
「それは誰も幸せにならないからです。
こうして君を今の状態にした彼女も。
そして同級生だった私もです。
叶うならば、次の人生は是非。
誰しもが幸せになれるものを作ってくださいね?」
ソニックはロガンが完全に崩れ去るまで
その姿を見続けていた。
そしてゴブリン・マザー・クイーンも崩れ去り
ウィンガード王国軍は勝ち鬨を上げたのだった。
【ゴリラアーマーがスキルポイント2を獲得しました。】
スキルポイント合計:3
残りの核心 あと105個。
邪神の復活まであと2100年?
星5点満点で「面白い」や「面白くない」と
つけていただけると、作者が一喜一憂します!