第55話 G、眠りしウィンガード王国。
「では、そのように。これにて会議を終了します。」
会議が終わり、ウィンガード王国は
リラが持ち込んだ情報に関する全ての対応を決めた。
これから神殿に対し、情報として寄せられた
全ての出入り口を見張り、夜には一斉取り締まりを
行う事となっているが、この会議に参加していない
軍人貴族も多く存在し、この会議自体も
緊急の会議、かつ秘匿されたものだった。
終わった会議場に残った2人。
ソニックとウィンガード王は頭を悩ませていた。
「これほど我が国が腐っていたとはな……。」
それはここに居なかった貴族達。
彼らは神殿に出入りし、禁制品を嗜むどころか
その輸入にも係わっている者も居れば
軍の部隊をその為に動かしていた。
そして獣人の奴隷など、見目麗しい女性などを
拉致誘拐し、そこでの淫行等。
とてもではないが、国として臣民に
発表するなど、恥ずかしくて出来ない様なものが
リラの持ち込んだ情報から露呈したのだから……。
「それだけではありません。
この情報には載っていない内容も多々見つかっています。」
「あの嬢ちゃんには頭が上がらんな……。」
「しかし彼女はあれ以降、目は開いていますが
意識はほぼ無いと言って良いでしょう。」
「あれか……パーシヴァルが戦った件か。」
「はい、あの時点では彼女の行動に問題があった以上
パーシヴァルを責める事は出来ません。
但し……。」
「奥義を放った件だな。
あれによって多くの臣民に犠牲が出た訳だ。」
「それについては問題があったとして反省房へと
7日間入ってもらいました。」
「まぁ、あれだけの規模で死者に怪我人も無く
道路が崩れただけで済んだのは奇跡だな。」
「いえ、それがどうやら彼女が
癒しの魔法で治療した事で助かったと言う
目撃証言があります。」
「なら、方法が悪かっただけか……。」
「はい、彼女は我々に助力を求めたいだけだった。
しかし王城にやってきたとして、はいそうですかと
通すなどありえない事です。」
「はっ!臣民の声すら届かない王など
王失格だな!俺は引退するぞ!!」
「馬鹿な事を言わないでください。
ただ肩の荷を下ろして、楽したいだけでしょう?
そういうのはもっと老いてからにしてください。」
「むぅ……、しかしこの始まりがたった1つの冒険者ギルド支部の
マスターの悩みだなんてとてもじゃねぇが思えないな。」
「初期の情報で我が国が動く事もありません。
それこそただの可能性、というだけでしたから。
しかしこの地図は、暗部ですら作る事が無理だと言った程に
精度が非常に高いものでした。
暗部が確認作業をした際、その場所の開け方から
細かい通路だけでなく、壁の薄い部分まで細かく書かれ
いざという際には破壊して逃げる可能性。
ここまで書かれては、暗部も認めざるを得ませんでしたから。」
「証拠が少なくとも、ここまでのものを集められれば
暗部もその信憑性を考えざるを得なかったか………。
しかしソニック、あんな嬢ちゃんとよく伝手があったな?」
「いえ、私はフォルコメン砦へのライス王子の視察を聞きつけ
先回りしただけに過ぎません。」
「馬鹿息子が……それで禁制品に手を染めただけでなく
乱痴気騒ぎまで起こしやがって……。」
「しかしそのライス王子の天属性魔法『流星』を
止めた事で、私の興味が湧いたのも事実です。」
「で、ソニック。
結論から言って、あの嬢ちゃん何者だ?」
「解りません、ですがあの大猩猩の鎧とやらは
恐らく神器ではないかと推察されます。」
「神器……13個目のか?」
「恐らくは。あの革紙にも書かれていた通り
彼女にはあの心臓を模した金属を消滅させる力がある。
この一文だけでも、我々が彼女に助力するのに
十分な理由となります。」
「核心、長年神器持ちから集め
破壊を頼んだが、まぁ世の中金次第だのと
気持ち悪い連中ばかりだったがな……。
それを無償で破壊、消滅か。」
「ただ彼女はそれを理由だけに助力を頼むのが
嫌だったのでしょう。
出来る限り多くの状況証拠を揃えてくれた事で
我々も僅か2週間程度で全てを始める準備が出来たのですから。」
「金は目的ではない、と?」
「でしょう。彼女は流星の被害を受けた際も
『石鹸』だけで手打ちする、と言ってきました。」
「………変わり者か?」
「かもしれません、しかし我が国にとっては過去勇者召喚の儀式を行い
勇者を呼び出し邪神討伐を依頼した。
そして邪神は倒されたものの、その身体と精神が
世界に散り、復活する可能性が出た事は引け目である事は間違いありません。
王城への道でも、彼女は決して騎士団に対し
思った程の攻撃をする事もなかった。
争い事が好きでは無いのかもしれませんね。」
「まぁ俺達がこんな所で言っていても
当の本人が喋れねぇんじゃな……。
全てが憶測でしかねぇよ。」
「そうですね。
しかし1つだけ解る事があります。
彼女はこの革紙に書かれていた事に懸念を感じていた。
そして解決をしたかった、その為に我々に助力を求めてきた。
これは彼女が望んだ事である事は
この革紙に書かれた内容から解る事です。」
「ならする事ぁ1つだな。」
「はい、我々にとっても十分なメリットがあります。
彼女が解決を望んだ事を、目覚めるまでに終わらせてしまう。
それだけは、非常に解りやすい事実です。」
「なら俺達もウダウダしちゃいられねぇな、大将。」
「そうですね、元帥。」
それから僅か1週間。
ウィンガード王国は神殿を制圧。
それに宗教国であるオラクル聖王国が非難したものの
ウィンガード王国はオラクル聖王国に対し、宣戦布告し
全ての神殿を制圧した。
そして全ての神殿から、同じような地下室が発見され
多くの貴族や豪商が捕まった。
またホーレルヒ王国に対しても事実を暗部が確認し
サンディング王国と共に宣戦布告。
サンディング王国側は一時的に、ウィンガード王国が
有償で国土を借り受け、ホーレルヒ王国との戦争終了後に
返却する国王同士の条約を締結。
さらに無主地であるハリーバードの港町にも
サンディング王国と共に援助を行い
ホーレルヒ王国から護る事を条約とし、町長と条約締結。
ウィンガード王国はホーレルヒ王国とオラクル聖王国に
宣戦布告はしたものの、オラクル聖王国に攻め入る事はせず
オラクル聖王国の物資の輸出入だけを禁じ
神殿においては、捕縛した神官などについて
徹底的に調べ、無関係とされた者達に関しては
オラクル聖王国へと戻る手配も行ったが
関係している者達に関しては、永久幽閉という形をとった。
そしてホーレルヒ王国の周囲には
ウィンガード王国の手によって
巨大な砦と壁が僅か1か月で構築され
ホーレルヒ王国とウィンガード王国は
本格的な戦争状態へと突入した。
そしてリラがウィンガード王国の王城へと潜入を試みて3か月。
リラはまだ目を覚ましていなかった……。
星5点満点で「面白い」や「面白くない」と
つけていただけると、作者が一喜一憂します!




