第54話 G、王城にて眠り続ける。
あれから3日。
マスターはソニックの命で
とある場所に幽閉されているのです。
場所は牢。
但しその牢は、中が綺麗にされているだけでなく
ベッドなどが運び込まれ、そこにマスターは寝かされています。
マスターの意識は3日経過しても元に戻る事はありませんでした。
私も現時点でゴリラアーマーの殆どの権限を失っていて
ミニゴリラ達を放つ事も出来ず
マスターがベッドで寝かされている状態。
意識の無い状態を見ている事しか出来なかったのです。
そしてさらに3日。
未だマスターの意識が戻る事は無かったのです。
しかしこれだけ経過していれば
生命維持に問題も出ると言うのが普通なのですが
どうやら自動的に生命維持をゴリラアーマーが行っていて
水分や栄養補給の問題なども
無限系能力をゴリラコンテナ経由で行ってくれているのが
幸い、と言うべきでしょうか。
『こんな時にゴリラの神様にも連絡がとれないとは……。』
いざと言う時の為に、眷属である私には
連絡手段があるのですが、それもゴリラアーマーに
付されている能力である上に、今の私には
その権限が無い、と言うのが非常に悔やまれる所です。
『しかし何故権限がここまで……。』
あの燃えるような赤い色となったフューリアスフォーム。
それが解除されてからも、私ニクジュバンニに
その多くの操作権限等が戻ってこなかったのです……。
『解るのはフォームの維持時間くらいのものでしょうか……。』
フューリアスフォームになってから
マスターが倒れるまで、きっちり1時間。
恐らくフューリアスフォームムは1時間しか
維持する事が出来ないフォームである、という推測が出来る位。
あとはその能力。
20倍どころではなく、恐らく50倍は余裕で超えていて
今マスターの身体はボロボロなのです……。
筋繊維などはズタズタになっている上に
場所によっては骨にヒビも入っている状態。
さらに最も問題視しなければならないのは血流です。
血の流れ、と言うのは実は魔力を運ぶのに
重要な役割を持っているのです。
フューリアスフォームの真っ最中、その血流速度が
とんでもなく上がっていたのです。
それによって、マスターの血管やそれを送り出す
心臓には大きな負担が掛かり、下手をすれば
血管が裂け始めてもおかしくない……。
それだけあのフューリアスフォームと言うものは
規格外のフォームであるだけでなく
マスターに対して大きな爪痕を残すものだったのです。
そしてフューリアスフォーム。
これだけは他のフォームと違い「実装」されたのではなく
「誕生」したのです……。
元々用意されていたもの、ではなく
あの時、創造されたものと言う事です。
フューリアスフォームだけならまだしも
リモースフォーム、ラスフォーム。
そしてそれらを纏め上げたトリニティーマテリアライズとやらも
私には今現時点をもってしても、その詳細の一切が不明。
『支援役としてこれ程役立たずだと思った事は
ありませんね……。』
ゴリラアーマーに宿っている支援役として
そのゴリラアーマーから派生した出来事について
全くもって解らない。
これほど役に立っていない事など無いのです……。
あれから6日、ソニックとやらも来ませんし
来るのはメイド服を来た侍女と思しき2人だけ。
あの革紙の束も、情報も。
どうなったかすら解らない。
そして私が補助し、支援すべきマスターすら
意識を取り戻さない……。
そしてさらに3日。
ついにマスターは目覚めたのです。
しかしあくまで目覚めただけなのです。
目が開いただけで、その目は虚ろでどこを見ているのかも解らない。
意識が辛うじてある、と言えるかすら解らない状態……。
そしてこれがフューリアスフォームによる
悪影響なのか、後遺症なのかすら私には解らない……。
ただ、この直後ベーシックフォームが強制的に
ライトフォームへと変わったのです。
それによって、マスターは顔が見えるようになり
それに驚いた従女達がやっとソニックを連れてきたのです。
「ふむ………、目はなんとか開いているようですが
ほぼ意識がありませんね……。
しかも服装が変わっているとか、何かあるのでしょうか……。」
それこそ私が聞きたい位です。
私にはゴリラアーマーがマスターの生命維持をしている事。
その位しか解っていなかったのですが
ライトフォームへと変わった事で、水分の補給や
栄養補給が絶たれた事も意味していたのです。
ソニックがそれを従女へと命じて
マスターは虚ろな目のまま、流動食のようなものを
与えられる日がここから続いたのです。
ソニックは頻繁にマスターの顔を見に来て
最近の出来事を話してくれました。
それはマスターに伝えるかのように。
それによれば、あの革紙の内容を全て把握した事。
そしてそれがウィンガード王の耳に入った事。
その後、ウィンガード王国の暗部と呼ばれる
王直属の部隊による、調査を行ったところ
マスターの持ち込んだ情報の全てが事実であると判明した事。
それによってウィンガード王国は
神殿への取り締まり、及びそれを管理している
宗教国家「オラクル聖王国」との決別を決めたのだとか。
さらに隣接するホーレルヒ王国に対しては
宣戦布告、及びその周囲を一時的にウィンガード王国が
占領する事まで軍の会議で決定したのだそうだ。
また世界中の冒険者ギルドと周辺国等に対し
ゴブリンが嬰児の誘拐を行い
そしてホーレルヒ王国に連れ去っている可能性を示唆した事。
ホーキテの町に対して支援が決まった事。
また腰の重かった冒険者ギルド本部も
これによって動く事まで決まったのだとか。
さらに一番危険なのがハリーバードの港町だそうで
これに関してはサンディング王国と共同で
支援し、独立をするにしてもサンディング王国に所属するにしても
ハリーバードの港町側の意向を優先し
かつ無償での援助を行う事まで決めたのだとか。
それにしてはやけに細かい場所まで
素早く決まったものだと私は思ったのだけど
どうやらマスターが細かい部分まで
あの革紙に書いていたのだとかで、暗部の動きで
それらが明確になる度に、ウィンガード王国としては
王が率先して決定した事が大きな要因だとか。
また第四王子に関しては継承権の剥奪、及び幽閉まで
決定したのだとか。
あれから僅か2週間足らずで
ここまで動ける大国、と言うのも私は知らなかった。
しかしおかしい……。
マスターは一介の冒険者であり商人。
少々変わった風体をしているとしても
何故ここまで大国であるウィンガード王国が
力を貸してくれたのか……。
それこそ声を出せなければ
聞く事も出来ないが故に、今の私には知る由もなかったのです。
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