第52話 G+自責+憤怒=怒り狂う
「……………。」
「……………あっぶなー……。」
あの黒い靄が、私の両腕を上下に分け飛ばし
顔に向かってくる時だった。
あの黒い靄を私は無意識に殴っていた。
下に飛ばされた右手にバナナックルを着け
その拳で殴っていた。
下から上へと拳をアッパーで振り上げた事で
バナナックルによってあの奥義そのものが滑り
私の顔のさらに上、頭上を通過しそのまま地上にまで達していた。
そして周囲の惨状に私は気が付いた。
「あ………ああ…………。」
それはあの奥義とやらが上に向かった事で
地上、つまり王都の地面を壊し
地上に居る人達を巻き込んでしまった?
そして瓦礫の中に見える手、腕、足。
それ以外にも血濡れた人々、子供すら居る………。
「ぐっ………がっ……。
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
『マスター!?』
ニクジュバンニが私を呼ぶ声を最後に、私は意識を手放した………。
リラの意識が手放されると同時に
ファンファーレが鳴り響いた。
【ゴリラアーマー「リモースフォーム」が実装されました。】
【ゴリラアーマー「ラスフォーム」が実装されました。】
【ゴリラアーマー「トリニティーマテリアライズ」が実装されました。】
『え?』
【トリニティーマテリアライズを申請します。】
【フォームはリモースとラス】を選択します。】
【新フォーム「フューリアスフォーム」が誕生しました。】
【フューリアスフォームを申請します。】
『そ、そのようなものを承認はしません!』
【フューリアスフォームを承認、三位一体具現化!!】
「なんだ……?」
立ち尽くしていたリラの表情。
それはゴリラアーマーの標準的な顔が、怒りに満ち溢れた表情へと変わり
真っ黒だった体毛が、まるで燃え上がる炎のように
赤く変わり、周囲をも照らすように輝いていた。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
『マスター!?』
これは一体、何なのでしょう。
マスターの意識も無ければ、私にも制御出来ない
2つのフォームにトリニティーマテリアライズ?
いつもであれば増えた力のマニュアルが即時届くのに
これにはマニュアルが存在していない……?
自責に憤怒?
そして怒り狂うとは……。
私はマスターの直近の記憶にアクセスした。
そして解った事。
マスターはこれを自らのした事だと自責の念を抱いた……。
それと同時に、自らに怒っている……。
でも私はそうだとは思わない。
悪いのはあのオリハルコンの鎧を着た者だ。
あれが奥義を放った事が元々の始まりなのです。
マスターはただ、自衛を行った。
それによって被害が出た事を悔やむ事は無いと言うのに……。
でもマスターは自らの責め、自らのその行動に怒った。
それがこの姿……?
『マスター!目覚めてください!起きてください!
このような私も制御出来ない様な状態を
私は認める事が出来ません!!』
私、ニクジュバンニがそうマスターに声を荒らげている真っ最中。
既にこのフューリアスフォームとやらの
恐ろしさが目の前に展開されていたのです……。
マスターは一切声も出さず、オリハルコンの鎧を着た者を
一方的に痛めつけていた。
殴ればオリハルコンが砕け、掴めばビキビキと
オリハルコンにヒビが入り、バキンと折れる。
既にオリハルコンのランスは真ん中から砕き折られ
盾は粉々に砕かれ割れていた。
そして兜すら割れ、その下から男の顔が出てきた。
このフューリアスフォームとやらはどれだけ
圧倒的な力を持っているのだろうか。
少なくとも私の下に、それを示す情報が一切ない以上
推測でしか物をいう事が出来ない。
恐らく本来の10倍……いや、20倍は出ている。
こんな事をしていたら、マスターの身体にすら
反動が起きていてもおかしくない……。
すぐにゴリラアーマーの持っている情報に
私はアクセスしたけど、閲覧するのが限界で
一切のコントロールは出来なかった。
非常事態の為に、私にもゴリラアーマーのある程度の
捜査権限が付されている、にも係わらず
その大半が今、無効化されていたのです……。
『マスター!いい加減目覚めてください!
既にマスターの筋繊維などが断裂し始めています!!
このままでいけば各関節や骨などまで駄目になってしまいます!!
マスター!マスター!!』
「ウゴゴゴゴゴォゥ……。」
「ぅぐ……、こいつ……なんて、力だ……。」
「ウガァァァァァァア!!」
男は既に鎧が大半砕け散り、ランスや盾も失い
予備の帯剣であるショートソードすら折られていた。
右腕は既に潰され、足も折られ
その場に膝をつく事しか出来なかった。
『マスター!起きてください!マスター!!』
ニクジュバンニはリラに声を掛け続けていた。
それはリラのその後の行動を見て、フューリアスフォームでの
行動そのものは、あくまでオリハルコンの鎧の男にだけ向けられている事。
その証拠に崩落した方へ男を放り投げたりもしなければ
そこを戦場としないようにと避けている。
その傾向を感じていたからだった。
『この糞マスター!さっさと起きろ!
今すぐ起きないと、趣味のもの全部燃やして
灰にするぞ、コンチクショウ!!』
一瞬、リラがビタっと止まった。
しかしリラはすぐに動き出し、ついに男の首を掴んだ。
『止めてください!マスター!!
貴方はそんな事をしに来たのではないのでしょう!?
それにこの惨状を何とかする方が先なのでは無いのですか!?』
またもリラがビタっと止まった。
すると男をそのまま思いっきり投げ、地下水道の壁へと
潰れるのではないか、と思う程に叩きつける様にした。
男がぶつかった壁は、多少ヒビが入ったものの
崩壊などに繋がる事は無く、リラは無言のまま
あの崩落現場へと近づいていった。
『マスター!!』
マスターは多分、あの崩落した場所の人を
助けるべく、歩みを進めてくれたに違いない。
だけど、意識は戻っていない……。
このゴリラアーマーの表情も怒ったままだし
身体も全身が燃えるような赤い色のままだった。
リラは何も喋る事無く、瓦礫を撤去し始めると
ファンファーレが鳴った。
【ゴリラアーマーがゴリラ聖属性魔法「ゴリラ聖」をひらめきました】
【ゴリラアーマーがゴリラによる癒しの魔法
「ゴリラ内癒」をひらめきました】
【ゴリラアーマーがゴリラによる癒しの魔法
「ゴリラ外癒」をひらめきました】
【ゴリラアーマーがゴリラによる癒しの魔法
「ゴリラ再生」をひらめきました】
『え?ちょっと………。
何が……一体何が起きているのですか!?』
この状態でゴリラアーマーのひらめきが発動した事そのものも
ニクジュバンニにとっては驚きだったが
それ以上に癒しの魔法まで、最短でひらめいた事にも驚いた。
癒しの魔法は光属性魔法と聖属性魔法を
習得しなければ得られない魔法。
現時点でリラは光属性魔法に分類される「ゴリ光」がある。
そこから聖属性魔法をひらめいた上に
そのまま癒しの魔法、しかも3種の神器とも呼ばれる
ベーシックな内癒、外癒、再生と
リラがまだ細かく知らないものすらひらめいた事。
そこにニクジュバンニが係わっていないのに
ひらめいた事なども、驚くしかなかったのです。
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