第50話 G、下水道と言う名の迷路を往く。
「酷い目にあったわ……。」
なんとかスライムの入った浄水槽から腕を伸ばし
上に上がるとまだダンゴムシが浄水槽に居るのが見えた。
そして徐々に溶かされていく過程が見え
やっと倒し終わった、と安堵したのです。
『などと訳の解らない事を申しており……。』
「何が訳の解らない事なのさ。」
『煽るだけ煽っていましたし自業自得ですよね?
せめて無限樽でも積み重ねて
上によじ登って回避するくらいの甲斐性の
1つや2つや阿僧祇や那由他位、そろそろ
見せていただいても宜しいのではないでしょうか。』
「所詮は転生したてほやほやの1年生に
何を求めているんだか……。
そこまで頭が回るようなら、こんな苦労してないよ。」
『そうですね、ゴリラではありませんからね。』
「あんたの基準はゴリラかゴリラで無いかだけかい……。」
『当然です、ゴリラですから。
人族至上主義みたいなものです。』
「水嫌いが何を……。」
『3次元嫌いが何を……。』
他にもネズミっぽいものからミミズっぽいものから
コウモリっぽいものまで多種多様。
むしろこの地下水路が王都で最も危険な場所では無いかと
思い始めていた。
『地下水路の掃除は大抵冒険者に依頼するものらしいですが
この調子だと、全く掃除をしていないようです。』
「臭くて誰も受けたくないか
予算でもケチってるかの2択かね。」
『まぁすぐに来るでしょう。
先程、下水の浄水槽のスライムを大量に潰したのですから。』
「あ、あれは不可抗力……。
っていうか大半はダンゴムシが
落下時に潰しまくった分だからね!?」
確かに1回目は通過する際に。
2回目はダンゴムシと落下した際に
私もそれなりのスライムを潰していた。
スライム自体が薄い皮の中に体液と
麦粒程の核があって、核が潰れれば死んでしまう位
よわよわさんなので……。
ただ大半はあのダンゴムシの仕業だ。
とんでもない回転で落下していった際に
底に着くまでに轢き殺していたし?
『直ちに下水処理能力に影響が出るレベルで
潰しておいてですか??』
「……チッ……反省してまーす」
『反省の色が見られませんね。』
「これあんたが私を殺した後、開口一番喋った台詞だからね!?」
『そんな事言いましたっけ?』
「なんで忘れてるのさ!?
ゴリラの神様に散々殴られてたよね!!」
『恐らくその際に記憶が飛んだのでは?
記憶にございません。』
「都合の良い記憶だね……。
ところで地下水路の地図もバッチリ描いた筈。
なんだけどさ……何かおかしくない??」
『おかしいとは?』
「ここ、行き止まりでは無い筈なんだけどさ……。
どうみても行き止まりになってる。」
通るルートもバッチリ決めてきた筈なのに
あるべき道が無くなっていたのです。
『…………………どうやら見つかったようです。』
え?
『流石は大国、と言うところでしょうか。
下水の排出先に何もなく、すんなり入れたのは
どうやらこの下水道の壁を動かす事で
侵入者を目的地に辿り着かせないように
出来ているようです。』
何それ……。
調べた時はそんな事なかったよね??
『ミニゴリラやミニミニゴリラでは
小さすぎて把握できなかったのではないでしょうか。
黒いですし、暗い部分に紛れてしまえば
解らないでしょうが、マスターは大きいですから。』
まぁ、王城のお堀まで繋がっているってのも
今考えればおかしいと言えばおかしい。
『生憎とバイザーは下げていますし
王都に入った際はライトフォームで潜入していますから
恐らく誰なのかまでは解っていないでしょうが……。』
「いや、1人。と言うか数人居るでしょ。」
『……………あのソニックという人物に
第四王子、それと取り巻きですか?』
「少なくとも私は数人には知られているよね。」
『そうですね……計画変更しますか?
このままではこの動く壁の破壊をしなければ
通れないでしょう。』
「うーん、出来る限り破壊はしたくないんだよね。
特にこの壁は修復が難しそうな気がするし。
穴開けるのも少々戸惑うくらいだよ。
そもそも生活の一部だから、壊して困るのは
この王都に住む人たちだよね……。」
「そうだ、侵入者。」
突如聞こえた声。
その方向を振り向いたけど、間に合わなかった。
「逝ね!ヘリックススラスト!!」
相手が確認出来た時には、既に私の右肩に
尖った何かが当たっていた。
真っ黒い全身鎧、そして盾に……ランスだ。
槍の中でも刃がついていない棒状の槍で
基本的に突き刺して攻撃する為の「騎乗」槍。
そして右肩に生じた痛みはただの突きではなかった。
まるでドリルのように、捩じり続けるような痛みで
一気に肩から腕や首の方まで痛みを感じたのでした。
「こなくそぉ!!」
ただ私も黙っているつもりもなかった。
右肩を突いているランスを左手で掴みにいった。
そして左手はバチンとランスを掴めず弾かれた。
私の身体は肩を中心に、横回転しつつ
後ろへと一気に吹き飛ばされたのです。
私は何度か水面に叩きつけられ、かなりの距離を
飛ばされた所で倒れた状態で停止した。
「ふむ、人語を喋るけったいな魔物。
それに俺のランスで貫けぬとは……。」
いやいやいやいやいや、超痛ったいんだけど!?
これまでに無い痛みで、声が声にならないんだけど!?!?
『武器修練技能のヘリックススラスト。
槍用の技能でドリルのように回して突き出すもので
上級に分類され、非常に難易度の高い技能です。』
がぁああああ!突かれた所が熱い!!
これまで食らってきた攻撃と比べものにならないんだけど!?
『あの全身鎧、盾にランス。
その全てオリハルコンで出来ています。
魔力を一切通さず、そして最も金属としての比重が高い
世界3大魔法金属の1つです。
あれを扱うには相当な筋量が必要となります。』
地球の創作物に出てくるようなものって事!?
『この世界で2番目に高い強度の金属で
これを超えるものはアポィタカラだけです。』
じゃ……じゃあ神器は!?
『神器は物によって素材が違います。
しかし破壊が出来ない、と言う点においては
最も硬いと言って良いでしょうが
ゴリラアーマーの場合はアーマーそのものは問題なくとも
マスターにダメージが通りますので
硬い、と言うのとはまた別となります。』
この痛さはあのランスがオリハルコンだから??
『違います、あの人物がオリハルコンのランスを持ち
あの人物がヘリックススラストを使ったからこそ
出た痛みであって、標準的なヘリックススラストとは
比べ物にならないダメージがあった筈です。』
……………勝てるかどうかは良いや。
目的の為、あの人をなんとか出来ると思う?
『この場所の保全を優先した場合、99.9パーセント
今のマスターでは無理です。』
そっか………。
思ってもみなかった漆黒の鎧の人物に
私は足止めされる事となったのです。
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