第5話 G vs G 前編
「うぶろっ!?」
顔にその火が当たると、ボンっと爆発したのです。
「いっ………そんなに痛くない?」
『魔法の痛みは大半、燃える火などの火傷等によるものです。
ゴリラアーマーは燃えませんし、何より火爆球のような
初級魔法ではこの程度でしょう。』
「ぼーらいど?」
火爆球。
火属性魔法の初級魔法である火球の派生魔法で
火球は当たれば燃えるけど
火爆球は当たったと同時に爆発する魔法なのだとか。
『実体が存在する魔法ならいざ知らず
たかだか火の球程度でダメージなど殆ど出ません。』
「そうなんだぁ………。
で、この緑のいっぱいいるのは何かな?」
『ゴブリンとゴブリンマジシャンですね。
近くに巣などがあって、出てきたのではないでしょうか。』
ゴブリン。
緑色の身長の低い精霊の一種なのだそうだ。
狡猾、汚い、臭いと3拍子揃った3K魔物で
冒険者と呼ばれる魔物の討伐などを生業とする人々ですら
戦いたくない魔物の上位に入るのだとか。
『肉は病の温床で可食不可、骨は脆く皮も脆く
素材に出来そうなものがほぼ存在しない。
戦ってもお金にならない事から常にベスト10入りしています。』
「世知辛い理由……。」
『まぁ丁度良い所です、ゴブリンと言えば弱い魔物の代表格です。
ここで戦いの経験を積んでおくのが良いかと。』
「叩きのめせば良いと。」
『オフコース。』
私に当たった火爆球が効果が無いと見たのか。
一気にゴブリン達が斧や短剣、こん棒のようなものを持って
次から次へと私に向かってきたのです。
『さぁ、始めましょう!ゴリラジャブ!』
ニクジュバンニの言葉に合わせて
ボクサーっぽく構え、突っ込んできたゴブリンにジャブ!
しかし世の中、上手くはいかないものでした。
「1発で………全員逃げた………。」
『力を籠めすぎです、ジャブ1発で上半身が吹き飛ぶ姿とか見せられたら
いくらなんでも逃げるに決まってるではないですか。』
ジャブ!と軽く私は殴ったつもりだった。
だけどそれによって、ジャンプしてきたゴブリンへと
ジャブが入ったと思ったら、そのまま上半身が吹き飛び
一面、何か緑色の血のようなものやら
赤い肉片のようなものが周囲に飛び散ったのです……。
まぁそれを見て、一斉にゴブリン達が逃げていったのです。
『もう少し手前から訓練するべきでしたね。
マスター、そこの少々細めの木を握ってください。』
「握る?」
言われた通りに握ると、その場所がボギュっと音を立て
気が付いた時には手の中には木の残骸、と思しき細やかな破片が
多少残っていただけで、木そのものも折れて
そのまま倒れていったのです。
『少々力が強すぎるようです。
マスターでは制御しきれない様なので
こちらで調整しましょう。』
「お……おねしゃす……。」
何か一瞬私が悪いみたいになってるけど
そもそもゴブリンをスプラッタな姿にしようとか
木を粉砕しようなどと思った訳でもなく
気が付いたらそうなっていたというか……。
結局、ニクジュバンニがかなりパワーを落とした形で
制御してくれる事になったと共に
あのゴブリン達が戻ってきたのです。
「弓矢!?」
『マスター、防御姿勢を。』
腕を両方揃えるように顔の周囲を隠すと
そこに矢が大量に飛んできたのです。
「痛っ!?痛たたたたたたたた!!」
『多少の我慢をする気は無いのでしょうか?』
「痛いものは痛い!!」
そう私は言いながら、ナックルウォーキングで距離を詰め
そのまま肩からゴブリンに突っ込んでいったのです。
「ぅほっ!」
肩から入って押すように弾いたゴブリンは
今度は上半身が吹き飛ぶ事は無かったけど
そのまま奥にあった木に当たり、そのまま動かなくなった。
そのまますぐ近くに居た2匹の頭を掴んでゴッチンコさせ、その場に捨てれば
緑色の血のようなものを頭から垂らし、悶え苦しんでいたりと
先程から比べれば、相当力が抑えられているのか。
それでもゴブリンと戦うのには
十分な力があると判断し、次から次へと捕まえては
木や地面に叩きつけたり、パンチでゴブリンを沈めていったのです。
「これで終わりかな……?」
『先程のゴブリンマジシャンが居ません。』
「敵意が無いなら逃がしても良いのでは?」
『駄目です。』
ゴブリン、オークは見つけたら逃がしてはならない。
と言うのがこの世界の暗黙の了解なのだとか。
『ゴブリンとオークはいわば「くっころさん」を量産する魔物です。』
「凄く解りやすい一言だよ……。」
地球に存在するテンプレのような
「男は食べ、女は捕まえて孕み袋にして種が増えていく。」
そういう系統の魔物なのだと……。
『そもそも多くの魔物は魔法の副産物なのですから。
いくら殺したとしても、次から次へと生まれてくるのです。』
魔法を使うには、この世界の惑星の中心に存在する
世界樹ユグドラシル、と呼ばれる樹の存在。
そしてその世界樹から発せられる魔力の素ともされる
魔素が無ければ行使出来ないのだとか。
魔素は長い年月を掛けて、地中から地表に向かって湧出していき
地層によって、魔素が溜まったりする場所を魔素溜まりと呼ぶのだとか。
地中深くで溜まれば、そこが地下迷宮の最深部となり
そこから魔物が次々と生まれつつ、地下迷宮は地上を目指す事で
ダンジョンが形成されるのだそうだ。
そして地表近くで溜まると、そこから魔物が生まれるのだとか。
ダンジョンの場合は、最深部に近い程その魔素が濃い為
強い魔物程、最深部に近い所から生まれて
地表に近い程、弱くなるのだそうだ。
地表近くの魔素溜まりはその濃さによって
そこから生まれる魔物が決まる為、地域によって
大体まとまった強さの魔物ばかりになるのだとか。
そして地表にまでやってきた魔素は大気に混ざり
私達が呼吸と共に体内に取り入れ、そこでやっと魔力と言うものに変わり
魔法の燃料となるのだそうだ。
「つまり魔法と魔物は切っても切り離せないと……。」
『そういう事です。』
「……………つまり魔素溜まりが無かったら魔物は生まれない?」
『そういう事でもあります。
しかし地層などを変えるなどはそれこそ神様の所業。
直接的に地上に手を加えた途端
どんな神様でも地に堕ち、邪神となるのです。』
解っていても、何とかする事は出来ない。
神様であったとしても、出来ない事もある。
それがこの魔法と魔物の関係性なのだとか。
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