第45話 G、偶然の再開。後編
タブロクは2本の短剣を構え、私を睨む付けてきた。
だけどつい先程まで餓死寸前だっただけに
満身創痍としか言いようがなかった。
息をする度に肩が揺れ、そもそも
まっすぐ立つ事すら出来ていない……。
「へぇ、まだ私に勝てるとでも思ってる?
まぁあんたの行動で私も随分と参ってて
少々気晴らしがしたい所だから、軽く遊んであげても良いよ?」
私はそのままベーシックフォームから
アームドフォームへと変わり
以前はタブロクに散々やられた分を
逆に散々になるまでボコボコにしてやった。
流石に僅か3分間といっても
ベーシックフォームの3倍の能力ともなると
タブロクを圧倒するには十分だった。
「あんたがこれまで何をしてきたのかは知らないけど?
私はあの時より強くなったの。」
あの圧倒的な素早さを感じたタブロクも
今では私も遜色ない速さで動く事が出来ていた。
と、言っても3分限定だけどね……。
「あんたさぁ………何がしたいの?
何がしたかったの?
こんな所でヤムチ〇してても、何にもならないよ?」
まぁ意味は解らないだろうと言ったけど
倒れている姿は実にヤ〇チャだ。
タブロクはヤム〇ャしたまま、私の目も気にする事無く
大きく泣き始めた。
悔しかった……………。
これまで集落でも負けなしだった俺が
つい少し前に圧倒出来ていたこんなやつに
あっさりと負けた。
言う事はどれもこれも大抵合ってやがる。
ヤムチ〇とやらは何の事か解らないけどな……。
俺はあの後、オークの集落に乗り込んで暴れた。
だけど力ではオーク達に適わなかった。
いくら俺が素早く動いた所で腕を捕まれた時点で
俺の負けが決まった。
それを振りほどく力は俺には無いからだ。
オーク達は散々、俺を痛めつけた挙句に
そのまま近くの底無し沼に放り込みやがった。
オークビッツ族は泥遊びが好きだ。
底無しだろうが、オークと違って俺達は
泳ぎも得意だ。
まぁ出るまでに時間が相当掛かったけどな……。
再度、オークの集落に行った時。
既にオークの集落は跡形も無くなっていた。
多くの血の跡があった事から
恐らく冒険者にでも倒されたのだろう。
良い気味だ、と集落に戻れば
今度は集落が跡形も無くなっていた。
集落の建物も1つ残らず消えていて
真ん中に大きな岩があり、花が多く植えられていた。
何か文字が書かれていたが、読む事が出来なかった。
見た事も無い文字だったからだ。
だが、その時俺はこれが何なのかを悟った。
これは多分………墓なんだと。
そうだ、俺が本来しなければならなかった事。
それは生きていた人達を救う事だ。
だがどれだけの人が死んだのか。
まだ生きている人がどれだけいるのか。
それすら最早解らなかった。
そこに集落は無いのだから。
俺は生き残った人達がどこにいったかも解らない。
何故だ?
俺が集落を顧みず、オークの集落へと1人で向かったからだ。
俺は小さな頃から長に認められ
この2本の短剣を持つに相応しいとされた。
この黒い身体は時折現れる、オークビッツ族の勇者の証で
黒い身体の持ち主のみこの2本の短剣を扱えると聞いていた。
光属性の魔法金属、フラハルコンで作られたフラハールブレイカー。
闇属性の魔法金属、シャハルコンで作られたシャハールブレイカー。
それぞれが光属性と闇属性そのものを破壊する
光と闇の短剣、として古くからオークビッツ族に伝わる宝剣だ。
だが俺はその期待に応えられなかった………。
オークビッツ族の宝剣であるこの2本の短剣。
この2本は実は1本の短剣へと変わる。
その名前すら解らないが、この2本の短剣は
2本1対で、真の姿は1本の短剣なのだと聞いていた。
そしてオークビッツ族の勇者は代々
この2本の短剣を1本にして扱えたと言う。
だが、俺には出来なかった。
膨大な魔力を持つ、黒い身体を持つオークビッツ族だけが
扱う事を許されているものの
俺には扱い切れなかった。
その真の姿があれば、どんな敵が現れようと
負ける事は無いとまで言われていて
俺は真の姿へと変えるべく、狩りと言う名の
戦いに日々没頭していった。
だと言うのに、こいつの方が
よっぽど勇者らしい。
集落を最終的に護ってくれたのはこいつだ。
そして亡くなった人達に墓まで作ってくれた。
だからといってこいつは勇者であろうとした訳でも無い。
勇者であった訳でも無い。
だけど、俺よりもよっぽど勇者だ。
いつからだろうな、俺が勇者と呼ばれ
そして呼ばれなくなったのは……。
勇者ってのは勇気があるやつの事じゃないのか……?
勇者って何なんだろうな……。
「さっきから心の声が駄々洩れてるけどさ。
勇者ってようは勝手に勇者って呼ばれてる人の事でしょ?
そいつが本当に勇者かどうかは関係なく、そう呼べば勇者の完成。
呼ばなくなったら勇者じゃない、とか都合の良い存在の事でしょ?」
「何?」
「いやだってさ、大抵勇者って呼ばれる人って
偉業を成し遂げる前じゃない?
偉業を成し遂げたから勇者なんじゃないの?
あんた何か凄い事成し遂げたの?」
「……………集落の闘技大会で勝ったくらいだ……。」
「胃のおかず、大腸を知らずかぁ。
結局、集落の中で強いから勇者?
それとも肌が自分だけ黒いから勇者?
どっちにしても勇者の押し売りで
集落の中だけの話で、世界と比較したら
どこにでも居そうだよね?」
「愚弄するか……。」
「そもそも勇者の勇って勇気の事とかじゃ無いの?
ごく普通の人が恐怖や不安や躊躇とかさ
恥ずかしいなー、って感じる事も厭わず
自分の信念を貫いて?立ち向かっていく心意気で
それを勇ましいとも言うんじゃないかな?
結局の所、どれもこれも他の人が言う事じゃん。
それに勇者なんて止めときな。
勇者には魔王の手下とかが襲ってくるんだよ?
百害はあるかもしれないけど一利すら無いと思うよ。
名乗るなら豚野郎か豚畜生くらいにしときな。」
「お前、やっぱり愚弄してるだろ……。」
「何言ってるかなー、私の生まれ故郷では
お店の名前になっているくらいだよ?」
嘘では無いから、大丈夫でしょ……。
「それに勇者って200年くらい前に何か倒したんじゃないの?
それ以外に勇者とか知らないけどさ……。
つか黒いだけで勇者なら、私も勇者か?」
『どちらかと言うと「勇者の尻拭い役」ですかね。』
あんたは黙ってろ、私にしか聞こえないけどさ……。
「はっ、お前が勇者なら俺は伝説の勇者か?」
「1回も勝った事ない癖に?」
「ほぅ、ならもう1勝負するか?」
「餓死寸前になるようなのと戦ったところで時間の無駄。
あんたさっき私に全く歯が立たずにボコボコにされたばっかじゃん。
せめて強くなってから来るんだね。
気が向いたら相手してあげるよ。」
「そうか……。」
タブロクはそれ以降、何か鼻歌のようなものを歌っていたけど
それが聞こえなくなると、いつの間にか居なくなっていた。
ある程度バナナとかを置いておいたけど
それも無くなっていた事から
まぁ、死ぬ事は無いだろうとは思ってる。
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