第4話 G、駆ける。
「おおおおお、速い速い!」
『当然です、ナックルウォーキングは
時速約40キロでの移動が可能です。』
両手を握り、指の背面で地面を突いて走る走法「ナックルウォーキング」。
それによって、水汲みとアブラマシマスを採り終わった私は
森の中を駆けていたのです。
『本来は脊柱と椎骨の形態が
人族とゴリラでは違う為に不向きとされている歩行法ですが
このゴリラアーマーはマスターの身体がゴリラアーマーに沿って
密着し、一時的に様々な体構造を変化させ、適応させている為に
十全なナックルウォーキングが可能となっているのです。』
「難しい事は解らないけど、とりあえずゴリラアーマーを着ていれば
可能だと……。」
『ほぼ「全略」位には端折られている気がしますが
そういう事になります。』
「そういう時は『前略』『中略』『後略』で分ければ良いんじゃない?」
『どちらにせよ「全略」ですね。
ところでマスター。』
「何?」
『落ちますよ?』
「え?」
前方注意不足、それが私が突然崖から下へと落下し出した理由だった。
落下ながら私はニクジュバンニに文句を言ったけど
後の祭りでしか無かった。
「あんた支援システムじゃないの!?」
『ナビゲーターです、キチンと落ちますとお伝えした筈です。』
「エイドシステムって支援システムって事だよね!?」
『ふ「いん」き(雰囲気)的にはそんな感じかと。』
「まぁ一々小ネタを挟み込む程度には余裕があるのは解ったよ。
で、これどうやって安全に着地するの?」
『……え?』
「……え?」
次の瞬間、私は顔から地面にゴッつんこしていた。
自分でも声になっていない、と解る程の声をあげ
ひたすら地面をゴロゴロした。
『いかがでしたか?神器「ゴリラアーマー」は
決して破損する事が無いのです!』』
うん、聞こえてるよ……。
確かに破損はしてないんだろうね……。
「っていうか超痛いんだけど!?」
『痛くは無いと誰も言っておりませんが?』
「まぁそうだけどさ……。」
確かにゴリラアーマーは壊れていないらしい。
しかしこのゴリラアーマーの中の私は別問題なのだとか。
そもそも私自身がゴリラアーマーを脱げば
下は下着姿なのだとか。
その理由がしっかりと感覚を私自身に伝える為なのだとか。
「なんでわざわざそんな仕様に……。」
このゴリラアーマーにはキチンと痛みを感じさせないようにする
緊急的な仕組みは存在しているらしい。
だけどそれに頼るのは非常に危険なのだそうだ。
痛みと言うのは危険信号であって
このゴリラアーマーを着ている以上、私には
衝撃などもかなり緩和されて伝わってくる為
骨折などもし難いのだとか。
そう言われると、とんでもなく痛かったけど
咄嗟にニクジュバンニがバイザーを閉じてくれた事で
鼻が折れている、とかそんな事もなかった。
『自らの痛みが解らない人は他人の痛みも解らなくなります。
そんな人物が神器たる、神の創りしものを扱うなど
烏滸がましい事だと思いませんか?』
「何か綺麗事で済ませようとしているけど
落ちるなら落ちるともう少し早く警告する事と
落ちてしまうのであればせめてその痛みを
軽減させる方法の1つや2つ提案するのとは
別問題だと思わない?」
『すみません、ついソリティアに夢中になってしまって……。』
「あんたどこの会社員だ!?」
パソコンの前で仕事をしている。
そんな「フリ」をしつつ、画面上ではちゃっかりと
ソリティアやマインスイーパーが起動している。
流石にゲームをインストールするのはマズいし
ブラウザゲームでも履歴からすぐにバレる。
そんな中、ソリティアやマインスイーパーなら
「最初から入っている」からバレないだろう。
そんな連中をこれまでどれだけ見てきた事か……。
『しかしドライバーはマスターです!』
「あんた、それ自分がコ・ドライバーだって
言ってるようなもんだよね?
道案内は出来ないのかね……?」
そしてファンファーレのようなものが聞こえてきたのです。
【ゴリラアーマーがゴリラ能力
「ゴリラナビゲーション」をひらめきました。
今後、歩いた場所は自動的がオートマッピングされます。】
「今更っ!?」
『今、ひらめきました!』
「あんた地球に居たんだよね!?
絶対知ってたよね!?」
『そもそもバナナの皮を捨てるのに難儀する眷属が
Panas〇nicのG1500VDだの
G540DだのG750Dだの知る訳が無いではありませんか。』
「超知ってんじゃん。
あとカーナビにゴミ箱は表示されないからね……。」
そしてまたファンファーレが……。。
【ゴリラ能力「ゴリラナビゲーション」がレベル2になりました。
今後、オートマッピングされた地図に
ゴミ捨て場、ゴミ箱が表示されるようになりました。】
「ゴミ箱とゴミ捨て場限定!?
っていうかオートマッピングって何をマッピングしてるの!?」
『主に地面、でしょうか。』
「そういうのはオートマッピングって言わない!」
『ところでマスター。』
「何!?」
『囲まれてますよ?マスターが大声で騒いだ為に
続々と集まってきたのでしょう。』
「え?」
振り向いた時には既に私のほぼ目の前。
そこには燃え盛る火があったのです……。
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