第36話 G、考える。
「まぁ、大筋は解ったとして。どう解決すべきかな?」
『現状では非常に難しいと言わざるを得ません。』
まず証拠などの類の提示が難しく
マルッスギルドマスターにも説明がし難い。
しかも他国の事であり、この国にも
冒険者ギルドがキチンと存在している。
その協力を仰ぐのも、やはり証拠類を手に入れなければ
難しいとしか言い様が無い。
「……………地下通路は?」
北、東、西へと伸びている2本の地下通路。
ここを証拠と出来ないか、と思ったのだけど
ここまで来ると最早1国2国とか
冒険者ギルドの問題だけでは済まされないのだとか。
『核心についても現段階で
体内に存在しているかも解りません。』
「そこはとりあえず後回し。
いずれ倒した時に解るってもんじゃない?」
『はい。』
「問題は嬰児を使って妖精を作ってるんだよね?」
『正確には嬰児の魂です。
そのままゴブリンクイーンが食事として
取り込み、その魂を材料としているようです。』
「……………。」
思った以上の大事だった。
なんの罪もない幼子が妖精を作る為に使われている。
そして失敗作に誘拐させている。
ゴブリンの大量発生、なんて所から
思わぬ厄介事に遭遇した、と言う想いよりは
それを行っている連中の性根の腐り具合に
私は怒りを覚えていた。
『それだけではありません。
チェンジリングですから、置いていかれるのは
そうして生まれた失敗作の子供です……。』
「私、単独で乗り込むとかは?」
『フルパワーまで解放しても無理があります。
ゴブリンクイーンはそもそも厄災級です。
人の手に余るものですから
討伐となると、この国の守りもあれば
多くのゴブリンとも戦わねばなりません。』
「ボスと取り巻き、同時に相手にしなきゃ
いけないってところかぁ……。」
『1国だけ協力してくれるかもしれない。
そんな国の存在があります。』
ホーレルヒ王国の南側は無主地であるハリーバードの港町。
そして東側がゴブリン被害を受けているサンディング王国。
それとは別にホーレルヒ王国の西側には
中規模国であるヘルレイド王国があり
北側には大国であるウィンガード王国があると
マルッスギルドマスターに貰った簡易地図にも描かれている。
『ウィンガード王国と言えばこの世界でも
屈指の大国です。』
「屈指の大国ね……。」
大国って事は軍事力もあるだろうし
そりゃ協力してくれるなら、って思うけどさ……。
「そういう所って大抵王侯貴族が横暴でとか
テンプレみたいな国なんじゃないの?」
『はい、まさにテンプレみたいな国です。』
「ダメじゃん!?」
『この世界に来る前に邪神の話をされた事は
覚えていらっしゃいますか?』
ああ、勇者召喚された勇者が力有り余って
邪神の身体をぶち撒いた……。
『その勇者召喚を行ったのが当時まだ中規模国であった
ウィンガード王国です。』
「それだけで私は駄目国家の烙印を押したいんだけど?」
『後回しでも良いと思っていたのですが
ウィンガード王国は数少ない、核心を
正しく封印している国家の1つです。』
「なんでそんな事に……?」
『歴史的な負い目があるからです。』
ウィンガード王国は勇者召喚の儀式をして
勇者とその仲間に邪神討伐を依頼。
多くの支援を行い、討伐自体は成功した。
だけど、身体が108個
そして精神が12個に分かれて世界中に散った事を
後々知る事となったのだとか。
『いわゆる「神託」と言うものによって
彼らは何をしでかしたのか
後年、知る事となったのです。
それを為したのが、この世界の創造神様です。』
「ほぅ。」
流石にこの状況は看過出来ないと
創造神様は神託を行い、核心の収集と
それを封印、もしくは破壊する事を伝えたのだそうだ。
『しかしウィンガード王国には実は
神器が存在していないのです。』
12ある神器の1つも無い為に、封印以外の行動がとれないのだとか。
しかもそれで壊せるのはあくまで108ある身体だけで
12ある精神は、私以外壊す事は出来ないときている。
『そのため、ウィンガード王国が収集しているのは
身体である核心だけで、それも神器持ちが採取したものを
国として買い上げたと言う代物です。』
「負い目と言うか引け目というか……。
それをお金でなんとかしてるのかぁ……。」
『しかし神器持ちは全員が破壊を断ったのです。』
「なんで……。」
『お金になるからです。
提示された金額にウィンガード王国が
難色を示したからでもありますが。』
……………。
確かに私も1800年後なら、私は生きていないから
関係ない、と言った覚えがある手前
その考えを完全に否定は出来ない。
確かにお金になりそうな話だ……。
『破壊するなら、とかなりの金額を提示しているそうですが
正直ウィンガード王国は収集自体にかなりの予算を出していて
破壊までの予算は捻出出来ていません。
また復活が近づけば、嫌でも破壊するだろうと
碌でも無い案を思いついた貴族が居たそうで
それによって核心だけが
溜まっている、という状況です。』
「で、ニクジュバンニ先生は私に何をさせたいのかな?」
『それは当然、神の使徒である神使として
恩を売りにいくべきではないでしょうか。』
「その対価がホーレルヒ王国への侵攻……?
証拠が出せない以上、そうならないかな。」
『しかしミニゴリラ達の視界はマスターが
閲覧等出来ても、それを周囲の人々に
見せる事などは出来ません。
かといってミクロゴリラしか潜入させられない状況で
証拠品の持ち帰り等をするとしても
細菌サイズのゴリラに何が出来るとお思いで?』
「サイズは小さくても同じくらいの力があるんじゃ……。」
『36ナノメートルのミクロゴリラが
大気に漂って移動しているのに
物を持って歩けるとお思いで?』
うん、それは無理だろうね……。
『都合よく「ひらめく」とか
ご都合主義もありませんからね?』
「…………………………チッ。
本当にひらめかないし……。」
それにしても邪神の身体の消滅すらお金次第。
だけど私はそれを出汁にホーレルヒ王国を。
あれ、何か同じような事をしようとしている気が……。
『自分の為か、そうでないかの違いはあると思います。』
「あんたが久しぶりにまともな事を言った気がするのは
私の気のせいかな?多分、明日から赤い雪が降るよ……。
いや、もしかしたら夜空が赤く染まるかも?」
『空想はファンタジーの定番でしょうが
それを持ち出すのは些か問題かと。
先程はおひとりで乗り込むと考えられたようですが
ゴリラアーマーは神器であっても万能ではありません。
特に創られてから間もない、若い神器は徐々に
成長させる必要性があります。
そしてここはゲームや空想の世界ではなく、全てが現実です。
努々お忘れにならぬように。』
カウンターでニクジュバンニに説教されるとは思わなかった。
でもニクジュバンニは無理がある、とは言ったものの
単独で乗り込む事を「無理」だとははっきり言わなかった事が
妙に気にはなったのです。
私はここまでの事を含め
ウィンガード王国の力を求めるか等
色々と考える事にしたのです。
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