第29話 G、ギルドマスターに呼び出される。
「うっ……今日も職員さんの視線が痛い……。」
毎日毎日ゴブリン狩りをしてくる私が持ち込む
右耳の数は4桁に到達していて
毎日夕方には職員さんが総出でそれを数える。
それが続いている事で、疲れているのか
むしろ持ち込んでいる私が悪いのか……。
少々きつい視線で見られている気がする。
ただ連日私がゴブリンを狩っている事で
少しづつながら依頼が取り下げられていて
少なくともアブラハムナカの町の冒険者ギルドに
貼られていた依頼よりかは少々多い位までには
依頼数は減っていた。
「ただなんかおかしいよね……。」
『今頃ですか?』
「……………。」
ニクジュバンニの相変わらずの物言いはあれとして。
おかしいのは連日狩り続けていると言うのに
ゴブリンが減っている気が全くしないのです。
とうに万は討伐数を超えているからこそ
職員さんの視線が痛く感じるのですが
これだけ狩って数が減らないなど
いくら私でもおかしいとしか思えないのです。
「リラさん、ギルドマスターがお呼びです。」
「はへ?」
ギルドマスター。
1つ1つの町にあるギルドの長。
つまりこの冒険者ギルドキホーテ支部のトップの呼び出し。
「…………あっ、急に陣痛が……。」
流石に陣痛は酷い言い訳で、職員さんの冷たい視線の後
私はギルドマスターの執務室とやらに連行されたのです。
「初めまして。私がこのキホーテ支部のギルドマスターの
マルッスと申します。」
「リラです。」
また想像してなかった見た目の人物だ……。
超スラッとした感じのイケメンで
どうみても元冒険者とは思えない感じだ……。
なんでもギルドマスターとは
元Aランク以上の冒険者でなければなれないとか。
「ははは、見えないでしょうけど
これでも元Sランクですよ?」
何、この心の中を読まれたような発言。
やばたんジャン!?
「さて、今日お呼びした理由なのですが……。」
マルッスさんが話し始めたのはやはりゴブリンについてだった。
全体数の把握が出来ていなかった事もあったけど
私が連日狩りに狩って、討伐数が万を超えたけど
未だゴブリンの数が多い事。
そして私の予想とは違う観点からの話が出てきた。
「意図的、ですか……?」
「ええ、どうやらこのゴブリン達は
ホーレルヒ王国からやってきているようなのです。」
ホーレルヒ王国。
無主地であるハリーバードの港町に
半ば嫌がらせのような高い通行税を課しているあの国。
ハリーバードの港町にも隣接はしているけど
このホーキテの町が属するサンディング王国にも
隣接している国ではあるものの
あまりに小さい国で戦力差があり過ぎる事で
サンディング王国に戦争を仕掛けてくる事もないと
聞いている国。
「なんでホーレルヒ王国から……。
ゴブリンにそんな事出来るんですかね?」
「どのようにしているか、までは解りませんが
確認されている分布を調べていった結果として
討伐されたゴブリンが素早く増えている地域が
ホーレルヒ王国に隣接した国境近くから
増えている、とされているのが現状です。」
「へぇ……。」
冒険者の依頼内容。
また私もどの辺りでどれだけ倒したかなどは
報告する義務がある。
それらを纏め上げた結果
ホーレルヒ王国から入ってきているという
結論に達したらしいけど
問題はそこまでしか解っていない、と言う事だった。
「そこでギルドから直接依頼をリラさんに
出させていただけないかと思いましてね。」
直接依頼。
本来はBランク以上の冒険者が
王侯貴族から受けたり
ランクに関係なく、依頼主から冒険者を指名して
依頼するものが直接依頼となる。
それをギルドから、と言うのは
まぁ珍しい事だとか。
「実績に関しては、このホーキテ支部における
1万を超えるゴブリン討伐。
それとアブラハムナカの町の解体所で
オーク2体と変異種のオーガを2体提出してますね?」
OH、超筒抜け状態じゃん……。
「ギルドマスターに限って閲覧出来る内容ですから
そう身構えなくても大丈夫ですよ?」
ギルドマスターなら誰でも調べれば
解ってしまう、と言う事ですね……。
「少なくともこのような増え方をすると言うのは
異常事態なのですが
何分、このキホーテ地方には高ランク冒険者が
やってくる事は少ないのもあるのですが
リラさんであるなら、問題ないと考えているのです。」
「はて、駆け出しのFランク初級冒険者に
何かを頼もうとか、おかしくないですかね?」
「そうでしょうか?
アブラハムナカの町で登録の実技試験を通れる人は
大抵上級冒険者まで駆け上がっていく人ばかりです。
それも冒険者PT『不屈』の
エドワードさんとほぼ引き分けだったと言う
実技試験内容もこちらでは閲覧出来るのです。」
個人情報ぇ……。
そんな所まで記録されてるんだ……。
「まぁ彼はそもそも攻めには向いていませんから。
それを考慮したとしても、リラさんは
あくまで冒険者登録が今であっただけで
実力的には問題が無いと考えています。
冒険者で1日に1000以上のゴブリンを狩ってくる者等
普通居ませんからね?」
「つまりその面倒臭そうな原因を
調べてこい、と言う事ですかね?」
「あくまで調査だけで結構です。
戦闘などの必要性が発生した場合はこちらから
アブラハムナカ支部へと通達を出して
あちらの高ランク冒険者に対応を願う事となります。」
「ほぅ……。」
「報酬はキチンと出ますし
現時点でリラさんはEランクの昇級基準を果たしています。
そして私からは、今回のギルドの依頼を達成した場合
Dランク昇級試験への推薦をいたします。」
昇級試験への推薦。
EランクからDランク
CランクからBランクへの昇級試験は
依頼をこなせば受けられる訳ではなく
ギルドの推薦を受けて、初めて参加出来ると
登録時に言われた気がする。
つまり早くもAランクへと近づく道が見え始めた
って事になるのかな……?
「調査だとしても、普通Fランク冒険者1人に
任せるものなのですか?」
「いいえ、このホーキテ支部にとって前例のない事です。」
前例のない事ねぇ………。
ニクジュバンニ、あんたの判断は?
『避けるべきと判断します。』
そう………。
私と同じって訳だ。
そして満面の笑みを私は浮かべた。
「おお、受けて下さるのですね!?」
「お断りします。」
そう言い放って、笑顔のまま私は
ギルドマスターの執務室を去ったのです。
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