第27話 G、道?を作る。
私はあれから連日のようにハリーバードの港町とアブラハムナカの町を
往復し、商売に精を出す日々が続いていたのです。
ハリーバードの港町にはお肉や麦などを運び入れ
こちらも商業ギルドに丸投げ。
アブラハムナカの町には塩や魚介を運び入れ
こちらも商業ギルドに丸投げ。
商人となった私が直接売れば、もっと利益は増える。
しかし商業ギルドそのものに下ろせば利益は減っても
売る、と言う部分が省ける。
商業ギルドは街の商人に仕入れた商品を卸し
その商人達が売る事となる。
それもホーレルヒ王国の高い税金が掛からない為
そこそこ手頃な価格で出回り始めていった。
どちらの町にもメリットしかないのだけど
きっちりと穴もある。
あくまでこれを持ってくる私が居て成立するものであって
どうにかここまでを誰でも通れる道などを作る必要性がある。
『トンネルは難しいでしょう、高低差がありすぎます。』
「かといって階段って訳にもいかないよね……。」
『地層にも多くの問題があります。』
ここの地層は異様なまでに硬い地層と
柔らかい地層が重なっていて、真横に掘る分には問題が無い。
だけど縦や斜めに掘ろうとすると
そこから崩れる原因を作る事になるのだとか。
『方法はいくつかありますが
一番妥当な方法で作るのが良いかと思います。』
「一番妥当……?」
『まずはその素材を採りに行くべきです。』
と、ニクジュバンニに言われて向かったのは
ほんと、何でもない様な森の中……。
「で、ここに何があるのかな?」
『スライムです。』
スライム。
私的には最弱の魔物で、もはや「さん付け」しないと
気が済まない程の有名な魔物。
『そんな高尚な魔物ではありませんよ?
主に木の上で生活していて
頭の上に落ちてきて、窒息させたり
溶かしたりする魔物ですから……。』
とは言うものの、ニクジュバンニ曰く
スライムさんは優秀な魔物なのだとか。
スライムさんは薄皮、体液、核の3つで構成されていて
核はお米粒程度のサイズで非常に衝撃に弱く
それこそ下手をすればスライムさん自らが起こした
衝撃で死んでしまう事すらあるのだとか。
これを馬鹿と思うか、可愛いと思うかは
その人次第なのだろう……。
「で、体液が必要なんだね?」
『はい。
薄皮は防水に利用できますし、体液は酸性ですが
海水を加えアルカリ性に移行させていくと
徐々に粘度を増しますので。』
体液を完全にアルカリ性へと変えると
強い粘度が生まれる上に、たった1日で
ガチンガチンに固まる事から、建材用接着剤などとして
広く利用されているのだとか。
「つまり崖を削って、スライムさん接着剤で固めていけば良いと……。」
『但し硬化しきるまでに崩れる可能性があります。
そこでこのように掘る事をお勧めします。』
それは私がいつだったか。
テレビで見た事のあるものだった。
海岸沿いにある崖を真横に掘ってあって
終端は延々と階段が続く道……。
「これ上る人いるかな……?」
『しかし馬車で簡単に行き来させるとなると
ハリーバードの港町のような地質でないと無理があります。
そこでマスターならではの方法としてこのように
掘るのを推奨します。』
「あんた、私に無茶させ過ぎじゃない……?」
それはまず、ハリーバードの港町から東方向へと真横に掘る。
掘るのは柔らかい地層の部分だけ。
しかも人1人と通れないくらいの厚さなので
私は崖にぶら下がりながら掘っていく。
そして掘った場所に残るのは硬い地層だけになった所で
その下部と側面だけにスライム接着剤を塗る。
固まったら今度は上部にある硬い地層を掘る。
すると柔らかい地層が下へと落ちてくるので
それも除去し、また側面にスライム接着剤を塗る。
と言う作業を往復している間に行い
日々積み重ねて東に向かっていく通路を作っていく。
ここは馬車で通れるくらいの広さを確保しておく。
そして馬車用の道が出来たら、今度は縦に掘るのですが
やはり柔らかい地層だけを掘り、通路だけは下にスライム接着剤を塗り
あとは側面だけに塗っていく。
そして縦に一気に硬い地層を掘っていく。
この時、出来る限りハリーバードの港町の坂のように
大きめに掘っていく。
「まぁようは馬車が相互に通れるだけの通路と
それだけの縦穴を掘る、までは解ったよ。」
『問題はこの先です。』
出来たのは横に伸びた通路、そして縦に出来た垂直な穴……。
「これでどうやって階段などで登っていくのかな……。
上まで100メートルはあると思うよ?」
『ここで使うのは無限樽です。』
「はい……?」
ニクジュバンニが言いたいのは
無限樽が壊れない仕様である事から
高低差をつける為の物体として用いて
坂を作っていき、それをガッチリとスライム接着剤で固めれば
まず雨風や潮風程度で壊れるような坂にはならないのだとか。
「何か左官仕事している気分だよ……。」
やっている事はチートなのに
作業自体は表面にスライム接着剤を塗り固めて
硬化させる、というお仕事……。
そして固まったら上に木の板を乗せて接着。
なんでもスライム接着剤と言うのは硬化すると
非常にツルツルと滑るそうで
上に木の板などを置いておかなければ
足元が滑るのだとか。
「じゃあこんな感じかな……。」
オークビッツ族の集落でいただいた
のこぎりのようなもので木を切っていき
溝のようなものもつけてみた。
『まぁ比較的すぐ駄目になるでしょうから
あとは利用者に任せるしかないかと。』
場所が海の真横なだけに、潮風で次々と
朽ちていくのが目に見えている。
それでも道があるかないか、だけでも
大きな違いになると、私は少しづつ
ハリーバードの港町とアブラハムナカの町を
繋げる作業に徹したのです。
そして完成したのです。
緩やかな坂道を作りはしたものの、それでも
登っていくのに不安がありそうな形状に
納得はいかなかったけど、それでも通れる道が
出来た事自体には満足したのです。
早速商業ギルドに2つの町を繋ぐ道を
崖沿いに作った事を知らせると
どうやらこれでは安全が担保出来ないらしく
再加工を商業ギルドが約束してくれた。
但しこの道の維持の為の費用を捻出しなければ
ならないそうで、意図せずとも
通行料を取る事になるのだとか。
『本当に良かったのですかね?』
「いらないでしょ……。
だって貰ったら絶対通行料に上乗せされるって……。」
私が作った道だからと
費用を出す、と言う話もあったのだけど
それは正直、2つの町の人達の商品代金にも影響する訳でして……。
それ以外の理由もあったのです。
今後、この道の管理は商業ギルドが行う事になるのですが
ギルドは国とは関係の無い独立機関。
もしホーレルヒ王国がこの道に何かをするとすれば
それは商業ギルドへの敵対行動となるでしょう。
『そうですね、ホーレルヒ王国は非常に小さいですから
商業ギルドが撤退する可能性を考慮すれば
手出しはしてこないでしょう。』
「そこそこ、そこが重要なんだよ……。」
崖を通る道が出来て、暫くして。
商業ギルドによる安全対策などが施され
無主地であるハリーバードの港町と
サンディング王国のアブラハムナカの町が繋がったと
商業ギルドからの発表後、多くの商人が2つの町を行き来し始めたのです。
但しハリーバードの港町は物価が非常に高かった事もあり
同じ条件で、といくまでは時間が掛かるのは仕方ない事だった。
私を引き揚げてくれたホッコイさんも
これには頭を下げてきたけど、私はただ助けてもらった事と
一宿一飯の御礼をしただけであって
それ以上を求めるつもりはなかったのだけど……………。
「おおおおおおおおおお!魚介がてんこ盛り!!」
流石漁師、というか
ハリーバードの港町の漁師さんが頑張って獲った
魚介をいただいたのです。
「すまねぇな、嬢ちゃん。
でもこれでこの港町も少しは賑やかになりゃ良いんだがな……。」
「それは私がする事じゃないと思うけど?
ハリーバードの港町次第じゃないのかな。」
「そりゃそうだ!」
ところで私は1つ忘れ物をしていたのです。
それに気が付くのは数日後の事でした。
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