第24話 G、超級冒険者と戦う。
「それではよろしいですね。」
「はい!」
「はい………。」
開始線まで下がって、返事をした後
私は危ないだろうからとバイザーを下げた。
「何が悲しくてSランク冒険者相手の
実技試験を受けなければならないのか……。」
『マスター、何か勘違いされていませんか?』
「勘違い……?」
『先程握手されましたよね?』
「されたね……、全く痛くなかったけど……。」
『では、何故「全く」痛くなかったのでしょう。
この実技試験は少々、マスターを鍛えるのに
重要そうなので、私はそれが解るまで静かにしている事にします。』
「え?いや、ちょ……。」
支援役が沈黙を守るってどういう事さね……。
これを職場放棄、と言うのではないのかね?
ニクジュバンニ……。
「はじめ!!」
「はへ?」
考え事をしてしまい、開始の合図を半ば聞き逃した
形になった所に、例の蛇腹剣が飛んできて
私のお腹に刺さる様に直撃した。
「かはっ!?」
痛みもあるんだけど、それ以上に息が苦出来ない。
綺麗にお腹へと入ったのか、苦しさが完全に上回った。
「うわぁ、流石エドワード。容赦がねぇな。」
「実技試験とか、普通は先手は譲るものだけどな。」
え?そういうものなの……?
なんて思っている暇すらエドワードさんは与えてくれなかった。
お腹に刺さった蛇腹剣が一旦戻っていく。
私はそれが手元まで1回戻ってから
また飛んでくるもの、だと勝手に勘違いしていた。
ほんの僅か。
1メートルと下がったかどうか位で
再度私のお腹に突き刺さった。
「ぐふっ!?」
まただ、吸っていた息を途中で遮られたように
突然苦しくなった。
そこからは恐らくエドワードさんの
一方的な攻撃がどんどんと私に叩き込まれた。
私は辛うじて、ボクシングスタイルをとって
防御に専念するのが手一杯になった。
そこからは蛇腹剣が真ん中だけではなく
蛇のようにうねりつつ、左右からも
私にぶつかってくるようになった。
しかも飛んでくるのは剣の切先となる部分で
多少の丸さなんて、気にならない位には
これ尖ってない!?と思うような刺さり方と共に
脇などを狙ってきていて、多くは息苦しさを感じ
防御すら満足にいかない状態だった。
なんだろう。
なんとか出来る気がしない……。
完全に圧倒されている、と言うより
遊ばれている感すらある。
『はぁ……嘆かわしい……。
十分戦える力を持ちながら、それを活かせないなど
ゴリラの神様も、よくマスターにゴリラアーマーを
与えたものだと言わざるを得ません……。』
静かにしていると言った癖に
喋るとか、どんだけ呆れられているんだか……。
「水入樽!!」
私は水の入った樽を出し、蛇腹剣からの防御を
樽に任せる事にした。
無限樽)は壊す事が出来ない仕様だった筈。
さらに飲料用の水入りだからそれなりの重さがある。
その樽にあの蛇腹剣の先端が当たると思ったけど
避けて私を狙ってきた。
「樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽樽ぅ!!」
次々と水入の樽を出して、今度はエドワードさんの射線を
切る方向へと変えてみた。
いや、だってあれ武器だよね!?
なんで見た目ただの酒樽を避けてわざわざ私を狙うのか、って話で
私としても出来れば何も食らわず、息つく時間位は欲しいと思っている。
樽なんて壊せば良いのにも係わらず
あの蛇腹剣は樽をわざわざ避けている。
なんで避けるんだろうな………。
うーん…………解らない!!
解らない事に気を回すくらいなら
やる事やるしかないよね。
目の前のエドワードさんの攻略をする事!
私は樽でどんどんと私の隠れる場所を作っていく。
「ミニゴリラ!ミニミニゴリラ!ミクロゴリラ!」
私の掌の上にミニゴリラが現れ
そのミニゴリラのお腹が開いてミニミニゴリラが現れ
そのミニミニゴリラのお腹が開いて
私には到底見えないミクロゴリラが多分現れた筈……。
「ミニゴリラはその辺にある水入り樽を
エドワードさんに投擲!
ミニミニゴリラはミクロゴリラを連れてエドワードさんの監視!」
それぞれに役割を与えて、その情報を共有する。
ただ色々とエドワードさんの動きはおかしかった。
何しろミニゴリラの投げた水樽は間違いなく重いだろう。
だからエドワードさんがそれを避けると思っていた。
だけど盾で一旦受け、それを場外に落とすように
払い飛ばしていた。
まさか水が苦手とか?
それはゴリラとかの話であって、多少の水を被ったとして
困る事などそうないと思うんだけど……。
舞台が少し水で濡れ始めた辺りで
エドワードさんが蛇腹剣の剣先を手元に初めて戻し
元の蛇腹剣、つまり伸びていない状態になった。
「今っ!」
私は手元に戻った剣先を見て距離を詰める
チャンスと思って詰めた時に見たのは
盾の裏へと一旦剣が消え、そしてまた蛇腹剣が伸びる姿。
そしてその裏側をミニミニゴリラが捉えていた。
あの盾の裏にあったのは布のようなもので
剣そのものから拭ったように見えた。
拭うものなんて言えば今なら水くらい。
それを今やる必要性が全く浮かばない。
でも水があの剣に邪魔なものだというなら……。
私は遮蔽物代わりにしていた樽をどんどんと倒し
舞台の上を水浸しにした。
これなら……。
それで剣が使い物にでもならないっていうなら
これで良かったのかもしれない。
だけど私のその行動の対価は再度お腹に突き刺さる
あの蛇腹剣の剣先だった。
「ぐほっ!?」
また息苦しい刺さり方をした。
その時気が付いた。
息苦しくなるようにこの剣先が飛んできている。
そもそも剣先以外も使える気がするのに
伸ばして薙ぐ様に飛んできた事が無い。
全部が全部、剣先ばかりが飛んでくる。
それでいて水を拭わないといけない??
私には蛇腹剣そのものに何か問題となるものが
ここにある事は解るのだけど
水そのもの、という感じでも無い……。
いや、もう1つどう考えても
避けている、嫌がっている事があるじゃない……。
「ミニミニゴリラ!水樽!!」
エドワードさんの後ろをとっているミニミニゴリラに
水樽を出させてそれをエドワードさんの
頭からかけさせるようにしたけど
流石Sランク、と言うかすぐに気が付き
大きく避けた。
「気が付いたのか………。」
いいえ、なんで嫌がっているかは
全く気が付いていません!!
ただの思い付きです!!
そう言うとエドワードさんが蛇腹剣を伸ばさないまま
盾を前に構え、蛇腹剣を隠すように私に向かってきた。
ミニミニゴリラはガン無視された事を
少々怒っているようだった。
思った程速くない足運びでエドワードさんが
私まで距離を詰めてきた。
「だが無限バナナの皮っ!!」
突然足元に出たバナナの皮には気が付けなかったのか
そのままエドワードさんはバナナの皮に滑った!
しかも後ろに滑ると言うよりは前のめりに滑った。
かろうじて、踏むのを避けてこうなったのかは解らない。
そもそもそこまで戦いに慣れている訳でもなければ
所詮は素人考えの上に、目でまともに追えていないものもある。
生半な戦い方だけど、それでも今の私に出来る
考えられる中で最善とも言い難い。
むしろそんな難しい事考えながら出来るか!!
だから私はこれが最善でなくとも。
今出来る事を、出来る限りでやる!!
エドワードさんのこの体制に対して私がする事。
それは………。
蛇腹盾の隙間から飛び出てくると予想される
蛇腹剣を躱して、一撃を叩き込む事!
私はそれを前提に、右拳を上から下に振り下ろすように
盾へと叩き込んだ。
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