第23話 G、冒険者ギルド登録試験を受ける。
「おう、邪魔するぜ?」
モドン隊長が先頭で入っていったのは
冒険者ギルドだった。
ただ衛兵が冒険者ギルドに来る事自体
そもそも厄介事の始まり、と言うらしい。
「あら、モドン隊長。今日は何の事件ですか?」
「事件前提で話しかけられても困るんだが?」
「その後ろの毛むくじゃらなのが問題ですか?」
「ええ、どうせ毛むくじゃらですよ……。」
「あら、女の子じゃない…………………。
まさか不倫!?」
「どこをどうしたらそうなるんだ!!」
不倫、つまり妻子もしくは奥様持ち。
と言うか毛むくじゃらと言っておいて
それはただの「からかい」でしょう……。
「それでどうしましたか?」
「こちらの嬢ちゃんだが冒険者志望だそうだ。」
「ああ、もしかして昨日の南門の魔物騒ぎですか?」
「チッ……冒険者ギルドは耳が良いな……。」
「それは仕方ありません、国軍は国を護るのがお仕事ですが
冒険者ギルドは冒険者を有し、魔物の討伐に
危険地域の採取に人々の護衛などが主なお仕事ですから。
特に魔物の討伐が一番依頼として多いのです。
場合によっては出張るつもりでしたが
どうやら面倒事に見えたので、見送った次第です。」
そんな話の間に、併設されている酒場が
何やら賑わっていた。
「ん?嬢ちゃん。あれが気になるか?」
「ええ……。」
「あっちが嬢ちゃんの試験官を誰がするのか決めてるんだ。」
モドン隊長が人の集まりの1つを指した。
「はい?」
冒険者ギルドの登録には実技試験があるそうだ。
そしてそれは本来、毎日冒険者が担当するそうで
他所であれば1日を通して、数人が待機していて
その人が実技試験官となるのだとか。
「ここは辺境だ、特に決まった担当者なんざ居ねぇから
その場にいるBランク以上の冒険者から
1人を決めてやるんだよ。」
「………なんか人数多くないですか?
酒場の殆どの人が参加してますけど……。」
その言葉に何言ってんだ?みたいな顔で見られた。
「辺境なんざ、強い魔物ばかりだ。
本来駆け出しが来る場所でも無ければ
登録しに来るやつも少ないんだよ。
だからこの辺りの連中は、大体Bランク以上だ。」
冒険者のランクはGから始まる。
但しGランクは未成年専用で、成人はFから。
FとEランクを初級冒険者と呼び
DとCランクから、護衛依頼が出来る中級冒険者と呼び
BとAランクから、王侯貴族の依頼が受けられる
上級冒険者と呼ばれる。
その上はSランクとなり超級冒険者と呼ばれ
さらに功績を残せば2S、3Sランクと
数字がどんどん増えていくのだとか。
その上級冒険者だらけなのがここなのだとか。
「この辺りは強い魔物が多く住んでいて
その素材だけで生活していかれるからな。
定住するBランク冒険者も多いってもんだ。
隣は小国のホーレルヒ王国で、中規模国のサンディング王国に
ちょっかいすら出してこねぇから治安もそう悪くない。
だからこうBランク以上が多いんだよ。」
「で、あちらは?」
私はもう1つの人の集まりを指した。
「ありゃあ賭けだ。」
「賭け?法律的に大丈夫なのかな……。」
「あの程度なら許容の内だ。
精々酒の1杯を賭けている程度で
可愛いもんだし、冒険者もそれが解ってるんだよ。
まぁたまの新たな登録者が来たって
ちょっとしたお祭り気分って所だ。」
「はぁ……。」
そして決まった試験官。
審判は冒険者ギルドの職員さんが行い
ルールは比較的解りやすい。
地下にある修練場という場所には舞台があり
1辺が25メートルと言う非常に大きな舞台。
ここから転落、つまり場外に出たら終了。
いわゆるギブアップも終了。
使って良い武器は刃の無い武器で
木製と鉄製の刃がついてない武器が用意されていた。
そして殺してはならない。
以上。。。。。。
「えっ!?っていうか試験の合格基準とかは無いの!?!?」
終了条件ばかりで勝ち負けの部分についての
明確なルールが見つからないんだけど!?
「合格条件は審判、もしくは試験官が合格と認めるか
試験官が気絶、場外に押し出された場合です。」
『相変わらず魔法の世界のルールは
変なものが多いですね。
審判と試験官が合格と認めるか、では
この2名の主観で全てが決まる訳であって
本人の実力如何に関係なく決まってしまいます。
気絶させるか場外を狙いましょう。』
まぁ、そだね……。
他人主観で決まる合格ほどあてにならないものは無い。
なら、明確になっている部分で決めれば良い。
ニクジュバンニの言っている事は解る。
「超嫌な予感しかしない武器を持ってるんだけど?」
『マスターの予想通りの蛇腹剣です。
中にミスリィルを含んでいて
魔力を通して伸ばしたり曲げたりが出来るようです。』
「それに対して、私だけ徒手空拳?」
『仕方ありません、ゴリラアーマーが
その辺りをひらめていていないのですから……。』
「それあんたの仕事じゃないの……?」
『マスター、ご都合主義などと言うものは
世の中には無いのです。』
「おまいう……。」
対戦相手は結構がっちりした体格で
蛇腹剣1つかと思ったけど、盾も持ってる。
あと盾にも謎の溝が見えるんだけど……。
『予想通りの蛇腹盾です。』
いや、そんな事予想してない。
と言うか蛇腹剣は聞いた事あるけど蛇腹盾って何!?
って言うかその前に刃がついた剣は禁止じゃないの!?!?
『あの蛇腹剣に刃はありません。
どちらかと言えば蛇腹鈍器、とでも言うべきでしょうか?』
増々意味が判らない……。
「あの……それどうみても剣ですよね……?」
「ん?見てみるかい?」
見せてもらえた剣は、両刃に当たる部分が丸く
とてもではないけど切れる感じには見えなかった。
「これは魔力でこうして動かして……。」
魔力を籠めているそうで、それによって剣は長く伸び
丁度真ん中の芯となる部分でのみ繋がっているそうで
かなり素早く、そして複雑な動きをしていた。
「で、圧を籠めるとこうなるんだ。」
薪のようなものをどこからか持ってきて
放り投げると、そこに伸びた剣が襲い掛かり
それが割りばしのように細く切り裂かれた。
普段はあまり動かずに盾で攻撃を防ぐ分
魔力を通して、自在に動かして
鈍器のように扱ったり、小さな盾代わりにし
刃が必要となれば圧を籠めて技能で
刃を作り出して切る。
と、言う事らしいので刃無武器だそうだ。
「それをどうやって場外に……。」
「頑張れよ、嬢ちゃん!
Sランク相手に勝てたら金星だぞ!!」
「え?S……ランク?」
「そういえば名乗って無かったね。
今日の試験官、冒険者PT『不屈』の
リーダーでもあるSランク冒険者のエドワードだ。」
そういって差し出してきた手は
握手かと思い、握ると一気に力を籠められた。
「うん、これで然程痛みも感じないくらいなら
久しぶりに本気で戦っても良さそうだね?」
「……………え?」
そんなエドワードさんの言葉に
これが本当に冒険者ギルドの登録に必要な
実技試験なのだろうか、と疑問に思った……。
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