第21話 G、暖をとる。
あの後、私は門の横にある衛兵さんの詰所で色々聞かれたのです。
「何故そんな格好を……。」
「鎧です。」
オークビッツ族の集落からいただいてきた短剣を
乱暴に腕に突き刺すと、鎧だと理解してくれた。
何しろ全く刺さってもいないし
傷1つ負ってもいない。
これは「大猩猩の素材を使った鎧」と言う事で
一応は納得してもらえた。
まぁゴリラの神様の加護があるとか
そういう余計な事を話さずに済んで
これで街に入れるかと思ったのです。
しかし逃げた副隊長、とやらが戻ってきたと共に
私は牢へと入れられたのです。
『まるで動物園の見世物ですね。
それですらこんな鉄格子など無いと言うのに。』
「……………。」
罪状は騒乱罪。
簡単に言えば町の平穏を侵害した、と言う事らしいのだけど
勝手に慌てふためいた上に、発砲してきたのは
ここの衛兵であって、そもそも町に近づくなとでも
言いたそうな罪状だった。
「騒乱罪、ってこういうのだったっけ……。」
『違います。』
「だよね……。」
他の衛兵さんが何と言っても、副隊長とやらの方が
一応は上司になるそうで、何んとも出来ないとか
むしろ先程から謝られるばかりだった。
ただこのままだと非常にまずいらしい。
何しろ騒乱罪だとされれば、そのまま私は領都とやらと
呼ばれる場所まで連れて行かれて
下級裁判所、という所で裁かれた後に服役する事になるとか。
「どこがどうなって前科者になるんだか……。」
『マスター、この世界での服役はそんなものではありません。』
「はへ?」
なんでもこの場合は犯罪奴隷にさせられ
そのまま鉱山で服役、と言う名の強制労働を
課されるのだと何とか。
「何その世紀末……。」
そもそもがおかしいと思ったけど
ニクジュバンニ曰く、連行される際に抵抗したり
ここから檻を壊して出たりしてしまうと
それこそ器物損壊やらの罪状が出来てしまうので
抵抗せずに牢に入っているんだけどさ……。
「こういう世界ではこれが普通なのかね……。」
『いえ、どちらかと言えばただの横暴です。』
「横暴ねぇ……、こういうのって
王侯貴族の鉄板ネタだと思ってたんだけど?」
『間違っていません、この世界の軍隊についての
知識が無いと、理解は難しいと思われます。』
ニクジュバンニはこういう衛兵さん達は
国の軍隊の末端なのだとか。
まず衛兵から始まって、その上が騎士となり
さらに上には近衛と呼ばれる人々が居るのだとか。
『衛兵とは誰でもなろうと思えばなれます。
基本的に街や村の護る事が仕事となります。』
「ほぅ、なら騎士とやらは?」
『多くが国の国境付近を護ります。』
「そっちのが大変そうだよね。」
『だからこそ実力のある者程、国境近くになり
その上の近衛は王都を中心に守ります。
近衛は王の直属部隊でもありますから。』
「へぇ、で。
今回の件と何か関係あるの?」
『大抵の貴族は長男が家督を継ぎ、次男は分家として
もし長男が亡くなった場合の予備として
平民としてはそこそこ良い暮らしが出来るように
貴族家が支援するものです。』
「…………もしかして三男以下が?」
『はい、大抵は騎士を目指すのですが
その登竜門が衛兵です。』
国にもよるけど最低でも1年以上。
長ければ、衛兵としての経験をキチンと積んだ上で
騎士になる為の試験を受け、なるものだそうで
これは貴族家の3男以下も含め
元々平民であっても条件は大体同じなのだとか。
「つまり貴族家のお坊ちゃんだろうと、皆衛兵から
騎士にならなければならないから
傲慢な衛兵が出来上がると?」
『少々悪意を感じますが、大体合っています。』
「私はあんた程、毒を含んじゃいないよ……。
で、これからどうすれば良いかな?」
『とりあえずゴリラになりましょうか。』
「はい?」
その日の深夜、門が閉まった後に衛兵さんの詰所では
地獄のような状況が生まれたのです。
「なんだ!この匂いは!?」
「隊長!牢に繋がる床板辺りから異臭がします!!」
「牢……?なんでそんな所から……。
おい、引継ぎには何も書かれていなかったよな?」
「はい、特に異常は無かったと書かれています。」
「なら何が……うごぉえっ!?」
牢に繋がっている床板を上げると
より一層、強い匂いがした。
口元に布を当て、衛兵と隊長と呼ばれた男達が
地下室の奥へと進むと、むあっとした空気と共に
布越しでも解る、悪臭と呼べるものを感じた。
いや、むしろ悪臭を通り越して
身の危険すら感じる匂いを感じていた。
そしてパチパチと火が爆ぜるような音と共に
煙が見え始めた。
「かっ、家事か!?」
「全て魔導具の灯りですから火の気など
一切無い筈なのですが……。」
「なら一体、何が起きているのだ……。
なんでもいい、放水用の魔導具を持ってこい!
これは火事だ!でなければ煙が立つ訳もない!」
「はっ!!」
「しかし誰も居ない筈の牢で何故火事が起きる……。」
そう思っていた隊長と呼ばれた男が
一番奥の牢に見たのは、巨大な影だった。
牢の中からゆらゆらと燃える火の形跡に
照らされ、牢の外まで伸びる人のような影……。
「だっ、誰か居るのか!?」
そう思い、隊長と呼ばれた男は一番奥の牢の前まで
一気に走っていった。
「だっ、大丈夫か!?」
「ウホっ?」
その光景は異様だった。
結論から言えば、リラがゴリラアーマーのバイザーを閉め
鋼鉄製樽の中にゴリラの糞と薪に
アブラマシマスの脂を入れて火を付けて、暖をとっている。
そういう体の光景が隊長とやらの目に入った。
そもそもゴリラアーマーには温度調節をする機能があるので
暖など取る必要性は一切ない。
ただここが地下であり、周囲が石で作られた牢である事から
気温自体は非常に低い事から、暖をとると言う建前のもと
ニクジュバンニが提案したものだった。
そもそも牢に入れられていても、まだ罪人ではない。
疑いがある、と言う事である以上は
世界法等に照らし合わせてもリラはきちんと
人としての扱いを受けなければならない筈だった。
しかしこの牢には誰も入っていない。
そういう体にもなっていた事、そして
食事から水まで一切が出されていない事から
ニクジュバンニはここで暖をとる体で異臭を放ったとしても
この寒い牢でただ暖をとっていた。
そういう人として当然の権利が主張出来ると同時に
ゴリラの糞にアブラマシマスの脂を燃料とすれば
異臭騒ぎも起こせ、ここから出られると提案し
リラもバイザーを閉めていれば
匂いも遮れると聞き、試していたのだった。
ただ1つ、失敗したのは
あまりに匂いがきつくて、バイザーを開けるのを
リラが躊躇っている事位だろう……。
「なっ、なんでここに大猩猩が居るんだ!!」
そして、また勘違いが始まるのであった……。
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