第18話 G、捕獲される。
「おらぁ!てめぇら圧入れろぉ!」
「「「「「「「おぅ!!」」」」」」」
ここは無主地と呼ばれる場所に存在するハリーバードの港町。
無主地とは、どの国にも属していない土地の事であり
この世界にはかなりの数が存在していた。
但しそれはそれぞれに理由がある。
このハリーバードの港町が無主地である理由は
ここに住む者達が国に属する事に反対しているからだった。
無主地にはメリットとデメリットがある。
1つは国では無いので、国の税金が存在しない事。
デメリットはいざという時に国から助けてもらえない事や
この港町を自衛しなければならない事だ。
「おら!大物が網に掛かってるぞ!
しっかり引っ張れや!
それでも海の漢か!?圧入れろや!」
「「「「「「「おぅ!!」」」」」」」
ちなみにこの圧、とは
技能を使う際に使われる力であり、魔力とは別で
主に臍の下にある丹田から湧き出る力の事であり
この世界では「気合を入れろ」ではなく「圧を入れろ」と呼ぶ事が多い。
「おっ、揚がってきたぞ!この黒くてでかいのは……。
ウルフフィッシュか!?」
「すげぇじゃないっすか!」
「だがこいつは噛み砕きが強いから気を付けろ!
貝すら噛み砕くからな!!
あと匂いが残りやすいから引揚げたらすぐに捌くぞ!!」
「「「「「「「おぅ!!」」」」」」」
「つか、船長……。」
「なんだ!今日のこの大一番に水差すんじゃねぇよ!!」
「いえ、あの……。」
「なんだ!言いたい事があるならさっさと言え!」
「この魚、毛が生えてますぜ?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
船の上から網を懸命に引き揚げていた船員、そして船長が
網の中を見ると、それは毛が生え手足のある何かだった。
「なんだこりゃ……魔物か……?」
「こんな黒毛の魔物、見た事ねぇっすよ。」
「つか海の魔物にゃ見えねぇんっすけど……。」
「大方ぁ、そこのハルマヘール川にでも落ちて
溺れ死んだんじゃねぇか?
魔物なら素材が売れるだろ。
しっかり引き揚げてから確認だ!
あと銛も用意しとけ!
もし気を失ってるだけなら暴れる可能性があるぞ!!」
「「「「「「「おぅ!!」」」」」」」
「っていうかなんか網に引っ掛かって
引き揚げられている気がするんだけど?」
『だから言ったでは無いですか。
どうやって水から上がるおつもりで?と……。』
「いやぁ、まさかさぁ……。
どこからも上がれずに海まで流れるとは……。
半分くらいは思っていたかな?」
『マスターの興味は魚介類だけでは無いのですか?』
「そう言われると辛い所だけど
間違っては無い!魚介最高!!
っていうかお腹減った……。」
『当たり前です!散々川に流されていたのですから
バナナですら口にする余裕などありません!』
「迂闊だったなぁ……。」
あれから3日程、私は流され続けて
喉はカラカラ、お腹はペコペコなのに
バイザーが開けられないので食べる事も飲む事も許されなかったのです。
「まさかこういうオチがあったとは……。」
『たった3日で良かったですね?
健康持ちとは言え、これ以上水分を摂取しないと
真面目な話、死んでましたよ?』
「そこは猛省する……。」
普通で4、5日も水を飲まなかったら死んでいる。
私の場合は健康の効果でまだそれなりに元気なだけで
健康が無かったら既に死んでいる可能性すらあったのだと
ニクジュバンニに超怒られ続けたのです。
「えやっ!」
「ウホオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
引揚げられかけた直後に私の丁度心臓の辺りだろうか。
突然槍、と言うかこれは銛!?
そのようなものが突き立てられ、ゴリラアーマーだから
貫通したりはしなかったものの、私の胸には
そこそこの痛みが走った。
すぐにバイザーを上げて私は抗議した。
「痛いっつーの!!」
「うわぁあああああ!?」
「へっ!?」
『バイザー、閉鎖します。』
私が叫んだのに驚いたのか
一斉に網を手放してくれた事で私は再度、海に沈んでいった……。
「まさか喋る魔物が獲れるだなんてなぁ……。」
「すみません、これ鎧なんで。
中身はただの人間です、はい……。」
「鎧?冒険者か何かか?」
「いえ、冒険者ではないです。」
「ならなんでこんな所に居たんだ?」
「バーリーカピバラに追いかけられた挙句
泣く泣く川に飛び込んでここまで流されまして……。」
結局、1回海に沈め返されたけど
バイザーを開けて抗議しようとした事で
何かおかしい、と再度引き揚げてもらえ
なんとか人間を飲み込んだ大猩猩ではなく
人間だと把握してもらえたのです。
いや、それも違うか……。
何か一部、喋れる魔物と勘違いされてるし?
ここはハリーバードの港町と言うそうで
主に漁業で生計を立てている街なのだとか。
それにしても、こんな形で初めて人族と邂逅するとは
思ってもみなかったのです。
助けてくれた人達はこの町で漁業を営んでいる方々で
船長のホッコイさんを始めとした方々。
ただ現状、無一文の私にとって
売れる物、と言えばオークが2体とオーガが2体。
オークビッツ族の遺品もあるけど、これを売るのは
何か違う気がする。
せめてタブロクが居れば、と思いつつも
解体してもらおうにも冒険者ギルドが開店休業状態。
稼働しているのは商業ギルド位で
商業ギルドも解体が出来ないと断られる始末……。
「悪ぃな、嬢ちゃん。
俺ら、海の魔物や魚なら解体出来っけど
陸のはちょっとな……。」
「いえ、助けてもらっただけでも十分です……。」
かといって魚介はここは豊富に取れるそうで
私が取ってきた所で売れる余裕もなく……。
宿が1軒あるのですが、無一文な私が
泊まる事も出来ない為、ホッコイさんのお宅にお邪魔する事に。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あー、まぁ、こうなるよね……。」
私がバイザーを開けていても、怖いものは怖いでしょうね……。
ホッコイさんのお宅に行ったと同時に
奥様はフライパンを持って構えるし
子供達は泣きじゃくるしと、最初の邂逅は
とんでもなく怖がられたのです。
「すまねぇなぁ嬢ちゃん……。」
「いえ、なんとなく予想はしていたので……。」
奥様は理解してくれたようだけど
子供達にとっては怖い魔物が、しかも口の中に
人が飲み込まれているようにも見えるだろうし
こういう時はあれで懐柔するのが得策と出したのが……。
「じゃーん!」
無限バナナで出したバナナ。
私は最早食べ飽きているけど、空腹には耐えられず
海から引き揚げてもらって、すぐに水と共にバクバク食べたけど
どうやらこの世界では甘いものは貴重だと
ニクジュバンニに言われた。
「こんばんは、甘い果物だよー?」
甘い。
このワードが強力だったようだ。
バナナもこの世界にあるはあるらしい。
ただほんのごく一部の地域にしか存在しないそうで
珍しい果物に入るのだそうで
甘いものはこの辺りではまず口に出来ないと言う事で
バナナを利用した懐柔を開始。
皆、恐る恐る触るのも躊躇っている中
私は目の前でバナナの皮を剥いて食べ始めた。
「あまーい!
ささ、ホッコイさんも奥様も子供達もどうぞ。」
ホッコイさんや奥様が食べると
子供達も食べるようになり、甘いものを
食べる事がまず無い事から、取り合うように食べてくれた。
「あ、でもご飯前にあまり食べるのも駄目だよね……。」
そうは言っても、珍しい甘い食べ物だけに
ホッコイさんも奥様も、子供達が食べるのを
笑って許してくれていた。
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