第176話 ガングレリ の 宿願。
我が名はガングレリ。
良い、実に良い。
馬鹿共がこうして我が宿願を叶えてくれている。
何が破壊だ。
あの娘がしている事は核心の破壊などではない。
我が眼を欺こうなど無理な事だ。
この世界の神の頂点たる我に、見通せぬ者等無い。
この娘、そして邪神となった元創造神の考えなど
すぐに理解出来たのだ。
破壊と称し、その因子を娘の身体に取り込み
そして全てを集めた所で元の姿に戻るつもりなのだろう。
一時はあの勇者とやらが核心をこの世界から持ち出した事で
頓挫しかけたが、あの娘がわざわざ元に戻しに来たのだからな。
だが邪神になど戻させる訳が無い。
我は「貴様」のその身体と精神を奪い取り
天と地、2つに我が力が使える身体を作り
この世界を天と地、2つの方面から滅ぼし
そして新たな世界を生み出す。
世界は新たに作り変えるにしても
この世界に生きている者がある程度滅び
氷河と呼ばれる時代へと進ませなければならない。
作り変える以外の手立てが無くなって
初めて世界は新たな世界へと作り変える事が可能となる。
その為に我は時間を掛けてきた。
お前らがどう足掻こうと変わりはしない。
娘が死に、そして我が手に邪神の身体と精神が手に入ろうと。
ここに我が人形として動く者達が負け
娘に全てが集まろうと、それこそ些細な違いでしかない。
故奴らは我が手の上で踊っているに過ぎないのだ。
だが、1つの存在だけが邪魔だ。
あの三平と呼ばれる魚人。
あれだけは生かしておいてはならない。
時空、世界を超える力など所詮神の箱庭である中に
居てはならない厄介な存在だ。
だがあれは見れば見る程厄介でしかない。
例え切り離そうと、分離した部分が生を持ち
その分離した生がある限りは生き残る。
決して不死ではないが、それに近い特性が与えられている。
かような特性を与えられる存在。
世界全てを管理する世界神の作り出した存在であろう。
だからこそこの戦いはあの三平とやらさえ抑え込めれば良い。
娘など半ば放っておいても問題はない。
ただ今こそ全てをここに集め、そして邪神の精神と身体を
奪う、最も適した時だ。
これだけ早く揃うなど、思ってもみなかった。
それを可能としたのは娘だが、もう用はない。
そして今が最も適した瞬間。
その全てを飲み込んでしまえば良い。
ガングレリの口が徐々に開き、そしてありえない程に開いていく。
顎が外れたという言葉すら超える、開き方に
誰も気がつかない筈はなかった。
「ウホゥッ!!」
「チッ………貴様っ!」
「ウーホウホウホウホウホウホホホホホホホホホゥッ!!」
リラだ。
神器ゴリラアーマーを纏ったリラが
誰とも対峙せずに手を開けて待っていて
ガングレリの動きを危険と感じて一気に動いてきた。
左右の腕から繰り出される攻撃に、ガングレリは圧倒されていた。
「貴様、邪魔をするか!
大人しく邪神の精神と身体だけを集めておれば良いものを……。」
「やなこった、あんた等の掌の上で踊るとか虫唾が走るんだよね!」
「神の意志に背くその行為、それがどういう事か解っているのか?」
「知らないね、そもそも神は地上に干渉しないもんなんでしょ?
それが人を殺して都合の良い駒にしようって所からして
神らしくないってもんだね。
神だと名乗るならルール位守るってのが筋でしょ。」
「何を言っている!神が作るものがルールだ!」
「違うね、邪神から聞いてるよ。
創造神が出来る事は箱庭と呼ばれる世界を作る事だけ。
あとは眺めるだけであり、傍観者でしかないとね。
それを思い通りにならない、自分の土台じゃないからと
後付ルールを加えて良い訳が無いだろうが!
むしろ私の人生もだ!あんたら神は人を何だと思っているんだ!」
「ただの駒に過ぎない!
箱庭の中から出る事も出来ず、ただその中で一生を迎え
我の様な箱庭の主の思い通りに動くただの駒だ!」
「その駒には裏表があって、成り上がる事すらある!
あんたが思ってる程、その駒は弱くはないんだよ!」
ほぼ一方的な戦いだった。
ガングレリをリラが殴り、それを防ぐ事も儘ならない
ガングレリにこれ以上の手立てが思いつかなかった。
唯一、あるにはあるがそれをすれば自らの宿願は
未来永劫、閉ざされる。
それはこの地上に自らが顕現する事。
つまり邪神化しか手が無かった。
「あんた、あのアッシュとやらに全部の核心と母なる核心を集めて
それをこの地上の身体にしようとしてたんだろう?
そりゃそうだ、核心と母なる核心には明確なルールがある。
誰かが血を与え、主となりそしてそこに駒の血を与えて
初めて核心と母なる核心はその力を発揮する!
あんたが血を与えたのはあのアッシュの中の母なる核心だ!
2人居なきゃ核心も母なる核心もただの鉄屑でしかないんだからね!」
「それが解った所でどうだというのだ!」
「だからこの場で一番強いあの子があのアッシュの相手をしているんだよ!」
「そういう事だ!逃がしはしないよ、白羊宮のアッシュとやら!」
アッシュと対峙しているのはセッカだ。
かつての菅原道真公、没後崇めまつられ天神様と呼ばれた。
天神様は梅の花をこよなく愛で、紋は梅、祭る神社には梅林が作られ
下賜されしものは梅干、御神酒は梅酒。
梅の中の仁が天神様、と呼ばれ神格化した種の神から
力を得ているセッカはリラをも超える強さを持っていた。
そしてアッシュは口を開く間も与えられない程に
セッカからの猛攻を受けるだけで手一杯だった。
「だが、この現状!なんら我が宿願にとって問題はない!
貴様らの持つ全ての邪神の精神と身体さえ1つに集まれば
我は地上にすら顕現した身体を持つ事が出来る!
2つの存在を持った神となるのだ!」
「それを邪神が許すと、私が許すと思って?」
「貴様らの許す許さないの話ではない!
神が2つの存在を持つ事は稀有な事であれど
例が存在しない訳では無い!
アルテミスがセレーネ、ヘカテーと呼ばれるように
3つの存在を持つ神すら居るのだからな!
その大元が1つであったとしても、存在が多くある神は存在するのだ!」
「へぇ、だけどあんたにあるのは創造神としての力だけだろう?」
「神としての力などさして無くとも、貴様らのような駒を潰す程度
訳ないわ!神と言う存在を甘く見てもらっては困る!」
「なら、あんたも甘く見てもらっちゃ困るね。」
「貴様こそ何が出来る、伍莉良!
そのゴリラアーマーとやらも神器であっても
その力はゴリラの神のものであろう!
この状況でゴリラの神が力を貸すと思うか!?」
「貸してくれる、というよりこれから宿るんだよ。
ねぇ、ニクジュバンニ。」
『え?何の事ですか?』
「あんたは私の支援役だろう?なら今から起きる事を
黙って呑みこんで、そして力を貸してくれれば良いんだよ。」
そのリラの言葉にニクジュバンニは最初は理解が出来なかった。
しかしほんの僅かな時間を経て、彼女は理解した。
『マスター………。』
「そうだよ、ニクジュバンニ!
私は今、これを待っていたんだよ!」
『しかしマスター!!』
「いいからやれっつってんだよ!
そうじゃないと私が命を懸けた意味が無くなるだろ!
あんたはその力を私に貸せば良いんだよ!」
【God・Origin・Reliable・Ingenious
・Lasting・Legendary・Aid―system
のアップデートを開始します。
アップデート終了、ニクジュバンニ バージョン3.0へと変わりました。】
「それでいいんだよ!これがあの日!
私が自分のした事に悔やみに悔やんだ結果!
取引した内容なんだからさ!」
「貴様……何をした。」
「簡単な事だよ、地球のゴリラの神は地上に眷属である
ニクジュバンニを使い、直接的な干渉をした。
だけどそれを本来罰する筈の地球の創造神は
これに対する加担者だった。
だからゴリラの神は一度、堕ちた。
だけどそれは邪神として存在する事となり
ゴリラアーマーには邪神としての力が供給されていた。
ならその邪神が消えたらどうなるのかな?」
「消える?地球などに神器がそうある訳が無かろうが!」
「神器は無くともそれを可能とする人物が居たら?」
「そんな者が往々にいる訳が無かろう!」
「いやぁ、実は居たんだよ。
そいつの名前は呼野匠って言うんだよ。」
リラのすぐ近くには人馬宮のジリスの死体を掴んだままの
かの勇者であったダンジョン・コアに何も出来なかった筈の男が立っていた。
「他人様の身体を借りるってのは難しいもんだな、なぁ種子。」
「私を魂の名で呼ぶな!今の私はセッカだ!」
「で、お前がこの世界の創造神か?」
「なんだ貴様……。」
「神殺し、タクミ・フォン・グランハートだ。」
「五月蠅い、この糞ハーレム野郎!
さっさとそっちを片付けろ!
こっちはさっきから全力出してるんだよ!!」
「俺の仕事はもう終わったよ。こいつは同姓同名の赤の他人だが
俺と同じ召喚士の力を持っていたからな。
召喚ってのは「広義」に言えば降霊術や降神術だ。
俺は今、地球に居るからな。
三平から連絡を貰って、地球のゴリラの神だった邪神を殺してきた訳だ。」
「神殺し!?そんな存在があってたまるか!」
「居るんだから仕方ねぇだろ。
そもそも俺は既に4神を殺していて、半神化しているからな。
こうして広義的に召喚してもらえば
身体は地球に存在したままで、ここに呼んでもらえるって訳だ。
まぁ力の方は本体の1割と出ないけどな。
っつーかこいつ弱すぎだろ。」
「ああ、デコイ役としてこの世界に1日限定で呼んでるだけだからね……。」
「貴様ら、世界と世界が何故隔てられているのか解っていないのか!?
そのような事をすれば、世界と世界の在り方が滅茶苦茶になるだろうが!!」
「あんたがそれ言うの?」
「ああ、その点なら問題ない。
俺は全ての世界の神の頂点たる世界神とトモダチだからな!」
「なんなんだ、なんなんだ貴様らは!!
世界を超えて!?何、都合の良い事してるんだよ!!」
「都合?良い訳無いでしょ。
ねぇ、ニクジュバンニ。」
『マスター!貴方は何をしたのですか!
私が次の地球のゴリラの神とはどういう事なのですか!?』
「あー、ごめんね。邪神と前に話し合った時にさ。
取引をしたんだよね……。
その為にはあんたをゴリラの神として地球に戻す事も
含めて話してたんだよ。」
『そういう事ではありません!
眷属が神化するなど、まずありえない事です!
何を!何で取引をなさったのですか!?誰と!!』
「あー、もう五月蠅いね。
世界の神とやらだよ、私は自らの命を対価に
あんたを神化させる事でこのゴリラアーマーを
真の実力を発揮させる為に取引した。
あそこのセッカとか言う娘やらこの召喚士に関しては
全部三平と内内に邪神が取引したもんだから私には解らない。」
『何故!なんでそんな事をしたのですか!!』
「何故?邪神が自分の存在を対価にしたからだよ。
ガングレリを倒せば、あとは次代の創造神がやってくる。
私はそれに巻き込まれただけだけど、その一端を自分が
担ってしまった事をなんとかするにはさ。
私も命懸けてやることにしたんだよ。
だから私と邪神はこれが終われば消えるんだよ。
こいつらもだから助けてくれてるって訳。」
『マスター、貴方馬鹿ですか!?命を懸けるって!!』
「私を殺したあんたがいう事じゃないだろ?
どちらにせよ、私の身体にもさ。
ある程度の存在しちゃならない能力もあれば
この身体は最終的に核心を取り除かないといけない。
知ってたでしょ?私がこの核心を取り除いたら死ぬって事位。」
『だからですよ!
マスターが懸けた命と言うのは!』
「魂だよ、未来永劫。私はもう輪廻に戻る事も無ければ
生まれ変わる事もない。
だけどこれはニクジュバンニ、神となったあんたへの警告だからね?」
『警告?』
「そうだよ、あんたは神の眷属だったかもしれないし
ゴリラの神のいう事が絶対だったのかもしれない。
だけどその結果、この場にある全ての核心と
母なる核心の処理をして、全てを丸く収めようとしたらさ。
私みたいなちっぽけな人間の魂1つだとしても
それを懸けないといけないって事なんだよ。
いい、私は死ぬのが怖い。存在が消えるのが怖い。
だけど、これはあんたの咎だ。
あんたが実行犯であり、あんたがそうした結果として
今こうなってる。
私で無かったにしても、誰かがこうして犠牲を払わないと
全ての収まりがつかないって事を胸に刻んで神様するんだね。
そうしないと……ここにいる神殺しに殺されるよ?」
「俺はそこまで野蛮じゃ無いんだけどな。
今回は世界神に確認を取ってやっただけだし……。」
「貴様ら一体なんなのだ!
この私の宿願をこうも潰しに来るなど………。
何故神ですらない存在がこうも出来る!」
「そりゃ簡単な事だ、神殺しとして断言しよう。
お前はこの世界の今の創造神で、この世界の人達を怒らせた。
それと同時にお前は世界神をも怒らせた。
世界神は全ての世界を管理する神であり、お前ら創造神そのものを
管理する側の立場だ。お前ら神は世界を作った後に
ルール付けをするのは無しだ。だが、お前ら神にだってルールはある。
それを逸脱すれば、神であろうと神の裁きがあるって訳だ。」
『そういう事だね。』
何やら可愛らしい声が聞こえたと思えば
小さな天使みたいなものが居た。
「っていうか何で世界神がここに居るんだよ!?」
『何でってボク、一番偉いんだよ?
ルールなんてある訳無いじゃん。
だってここは僕の作った世界じゃないから
別に降り立ったとしても干渉しても罰は無いんだよ?』
『そんな訳ないでしょう。』
『あれ、なんで大光の神がここにいるの?』
『世界神様を連れ戻す為に決まっているでしょうが!
今後5億年は牢獄に入ってもらいますからね!
世界神様と言えど、ルールはあってしかり!
罰もあってしかりです!!』
『いや、え?あ、ちょ、待っ!?』
何やら面倒事にしか見えなかったけど神様が来た??
やってきてはあっという間に消えていく
展開の速さに私はついていけていなかった。
星5点満点で「面白い」や「面白くない」とつけていただいたり
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