第17話 G は 本来、水嫌い。
『マスター、絶対止めた方が良いと思います。』
「その理由を400字詰め原稿用紙1枚以内で答えよ。」
『ゴリラは上半身の方が重いからに決まっているでは無いですか。
そもそもこんな流れの急な川を
空樽1つで渡ろうとし、それを思いつくマスターの
発想力の豊かさに感服するばかりです。』
「うん、ちょいちょい毒を織り交ぜつつも
現状を伝えている辺り、及第点だと思う……。」
私はあれから森を駆けてきたけど
どうにも大きく、流れが急な川に行く手を阻まれたのです。
で、樽にでも入って渡ろうと思ったところを
ニクジュバンニに止められている、と……。
「で、代案は?」
『そもそもゴリラは濡れる事すら嫌います。
筋肉量が多すぎて水に沈んだら浮きません。
ゴリラはカナヅチなのですよ?』
「ほぅ……、私は人間なのだけど?」
『ゴリラアーマーはゴリラですから
着たまま泳ぐ事は不可能です。』
「で、結局代案は?」
『ある訳が無いではないですか。
まず水に浸かったらゴリラアーマーは
半分まで性能が低下します。
川の底を歩くとしても、呼吸は何とか出来ても
この勢いでは流されます。
また水の中に住む魔物も多い為、推奨出来ません。』
「ふむ……。
呼吸ってどのくらい持つ?」
『人族が一生潜り続けたとしても使い切れない程には。』
「ならこの中に入って流されれば海に着く。
そういう事で良いのかな?」
『え?』
「川に流されれば海に近づくじゃん?
海にいけばお魚がいっぱい獲れるよね!!」
『えっと………私の話聞いていましたか?
ゴリラアーマーのバイザーを閉めている限り
呼吸の問題は無くとも、浮き上がらないのですよ??
どうやって水から上がるおつもりで?』
「え?」
『え?』
ニクジュバンニの危惧している部分は
どうやって水の中から出るのか、と
ゴリラアーマーの性能が低下する事による
強い魔物との遭遇の2点だった。
私的には呼吸に問題がなければ
流されれば海に着くかも?と思ったんだけど……。
『いくらファンタジーな世界だと言っても
重力や物理法則に変わりは無いのです。
そもそもマスターは体重何キロあるかご存じですか?』
「私?43キロの筈だけど……。」
確か身長148キロにして、ほぼ標準体重の43キロ。
非常に軽めな筈なんだけどな……。
『このゴリラアーマーはメス用で全長は150センチ。
重量は80キロもあるのですよ?
マスターの体重と合わせて合計123キロもあるのです!』
「え?そんなに重いの……?」
着ていてそんな感じ全くしないんだけど。
『重さを感じられるようなものをゴリラの神様が
お創りになる訳が無いではないですか。
かといって重量が軽いとパンチなどの威力に係わる為
ゴリラアーマーの重量は一般的なゴリラの体重に
合わせてあるのです。』
「ほぅ……。」
『そもそもゴリラは泳ぎません!水に浸かりません!
諦めるべきです!!
そういう事で迂回路を探しましょう!!』
「……………!」
上がる場所が無い……?
それこそ腕力で無理矢理上がれば良い気がするし
何か引っかかる………。
「さてはニクジュバンニ、あんた水嫌いでしょ。」
『当たり前です!私はゴリラの神様の眷属たる
ゴリラなのですよ!?
水なんて被るのすら嫌に決まっているでは無いですか!!
それでも浸からないならなんとか我慢しても
水の中に入るなど自殺行為に等しいのですよ!?』
「いや、でも呼吸は出来るなら何とかなるのでは?」
『却下です!水の中に入るなどゴリラのする事ではありません!!』
「でも私、人間だから泳げるけど?」
『それは脂肪があるから浮かぶのであって
筋肉ゴリゴリのゴリラが浮く訳無いではないですか!!』
「そっかー。」
『やっとゴリ解いただけましたか?』
「うん、飛び込んでみよう!」
『嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
ドボン、と飛び込む事は無かったけど
ここ最近の毒付いているニクジュバンニに反撃するチャンスとばかりに
飛び込むフリをしただけでこの喚き方。
いつになく慌てているニクジュバンニに満足し、飛び込むのは諦めた。
『鬼が……悪魔が……ここに居る………。』
「おじいちゃん、鬼は先日倒したばかりでしょ。」
『貴方の事ですよ?マイマスター。』
「私はそのマイマスターとやらと呼んでいる存在が
バナナの皮と追いバナナの皮を使って私を殺した犯人だと知っていて
鬼か悪魔の所業だとだと思っているけど?」
ニクジュバンニはそれ以上、何も言わなかったけど
とりあえず迂回路を探して川に沿って移動。
そして遭遇したのが巨大なカピバラ。
「何かでかい……。」
『バーリーカピバラですね。
魔物ではなく獣です。』
バーリーカピバラ。
大麦を主食とする獣だそうで、とにかく巨大だった。
私の倍は余裕であるであろう巨体に加えて………。
「………何か可愛い……。」
何か木のようなものを持ってバリバリと齧っているようだけど
見た目は動物園に居るカピバラだ。
『まずいですね……バーリーカピバラは
害獣ですが性格が大きく分かれるのです。』
「ん?でもカピバラってゴリラに似た食事で
肉とか食べないんじゃ……?
まさか襲ってこないよね??」
『ゴリラと同じく、非常に穏やかな性格ですが
どちらかと言えば人懐っこい性格も持ち合わせている個体も居るのです。』
「人懐っこい……?
悪い話じゃない気がするけど?
超可愛くない??」
『マスター、あのバーリーカピバラは4メートル級です。』
「で?」
『あれが突っ込んできたらどうするおつもりですか?』
「え?」
あの巨体が突っ込んでくる?
『まずいです!早く逃げましょう!!』
「逃げるの?あんなに可愛いのに??」
『何を言ってるんですか!!
カピバラはゴリラより足が速いんですよ!?
捕まったら間違いなく碌な結果にならないですよ!?』
「え?超おっとりしてない?」
『ゴリラの時速は約40キロですが
カピバラは足が早く、約50キロで走るのです!
速く逃げないとつっ!?』
ニクジュバンニが喋っている間に
バーリーカピバラとやらが、齧っていた木を捨てて
私に向かって走ってきたのです。
「おおおおおおおおお!可愛いんだけど
あの巨体が突っ込んでくるとなると怖い!!」
『だから早く逃げましょうと言ったのです!!
げっ歯類ですからね!?
あれに噛まれたら痛いですよ!!』
徐々に距離を詰められるならまだしも
私は川沿いに移動してきた事を後悔した。
砂利が多すぎて、ナックルウォーキングの手の部分が
やけに滑る……。
地に足を付け、ではなく握り拳を付けて走るからこそ
早く走れると言うのに、その握り拳の力が
砂利によって上手く地面に伝わっていない、と言う事らしい。
『マスター!このままでは追いつかれます!!』
「そうは言っても速度出ないんだけど!?」
『……………。』
「ニクジュバンニ?」
『仕方ありません、川に飛び込みましょう!』
「え?」
『カピバラは脂肪があります。
飛び込んだとしても、脂肪があるので浮きます!』
その言葉に私は川へと飛び込んだ。
そこにバーリーカピバラも飛び込んできたのです。
「ちょ、なんか超泳いでるんだけど!?
っていうか水かきみたいなの見えるんだけど!?!?」
『獣ですので生体構造は一緒の筈です!
カバのように目と耳と鼻が水面に出るようになっています。
浮きて泳ぎはすれど、川底まで潜ってくる事はありません!』
「それどこ情報!?」
『動物園のホームページに書いてありました。』
「……………なら合ってるか。」
『私をなんだと思っているのでしょうか。』
「異世界で何故かネットサーフィン出来るゴリラ?
っていうかこの川、なんかおかしくない!?
さっきから私グルグル回ってるんだけど!!」
『川はある程度の深さを超えると螺旋流と呼ばれる
螺旋を描く流れがあるのです!
だから川は止めましょう、と言ったのです!!』
「ま、手遅れだね……。」
『とにかくどちらでも良いので泳いでください!
幸い螺旋流に入ったので身体も半ば浮いてしまってますから
泳ぐ事位は出来るでしょう。
バーリーカピバラが追ってきてます!』
「川だけじゃなくてげっ歯類も嫌いなの……?」
『ゴリラの天敵は豹です!
捕まって困るのはマスターです!?
そんなにバーリーカピバラに齧られたいのですか!?
私が慌ててるのは水が嫌いだからに決まってるじゃないですか!!
この鬼!悪魔!ロリババア!!』
「酷い言い様だけど、最後のはただの悪口だよね!?
一応精神年齢46なんだけど!!」
『川になんて近づくからこうなるのです!
46とか若い子からしたら既におばさんを通り越してます!』
「そうは言うけどね、みんないずれ歳を取るんだよ。
それを笑って聞けるのは他人事だからと
『中高年のアイドル』も言ってたよ……。
あとババアと言って良いのは『おばあちゃんのアイドル』だけだからね?」
急流、と言うよりは激流だと水中に入ってから思った者の
なんとかバーリーカピバラから逃げられたので良しとした。
ただ螺旋流の影響で目が回っていて
途中に襲われた魔物なんかも適当にぶん殴っていた気がする。
健康のお陰で気持ち悪くはならなかったけど
なら目も回らないようになればよかったのに、と思ったけど
『それは健康かどうかに関係ない』とニクジュバンニには一蹴された。
途中で川から上がろうにも川底などは砂利が多くて
川底を掴む事も儘ならなかった。
結果として私は流れに身を任せ
流されるまま流れていく事としたのです。
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