第147話 G の 鍛錬。
「ぬぐぅ……。」
『はい、もう少し魔力制御を繊細にしてくださいね。
下手すれば低温火傷を起こしますよ?』
私はこう旅をしつつも、鍛錬もしているのです。
今はレベル3のゴリラアーマーに追加された
8つのフォームのうちの半分である
四大元素フォームの鍛錬をしています。
ファイアフォーム
ウォーターフォーム
ソイルフォーム
ウインドフォーム
それぞれを扱えるようになれば
私はそれぞれの属性の魔法を
扱えるようになるのですが
これがまたかなり厄介でして……。
今の姿はファイアフォーム。
形状はベーシックフォームでゴリラそのものなのですが
毛の色が燃え盛る炎のような色になると共に
身体全体が炎に包まれているのです。
この炎は私自身にも影響がありまして
ゴリラアーマーと身体全体を包む炎との間に
魔力による薄い膜のようなものを作りつつも
炎が消えないようにしたりと
精神的な部分が高い要求を求めてくるのです。
『レベル3で8つのフォームが増えたのなら
使う前に教えてくれても良いのに、と言うので
ご希望通りに鍛錬、と言う形で教えていると言うのに
何故マスターは不満があるのですか?』
「別にあんたに不満は漏らしてないでしょうが……。」
『ゴリラアーマーへの不満はそこに宿る
私への不満と同じではないでしょうか?
フォームの乱れは精神の乱れの基となりますよ?』
「あんたどこの生活指導の先生なのさ……。」
『そもそも魔法が一朝一夕で扱える方がおかしいのです。
そして魔法は精神の乱れであっという間に
失敗し、場合によっては自らにすら牙を剥きます。』
「だからといって空気椅子しながらやらせるのは
おかしいと思うのだけど?」
私はファイアフォームのまま、空気椅子。
握り拳を作って両腕を前に突き出し
そのまま腰を落としつつ、身体全体を覆っている
炎の制御をしなければならないという
まぁまぁ精神だけでなく身体的にもきつい状態なのです。
『本来は戦いながら制御するのですよ?
空気椅子程度がどうだというのですか。』
「膝関節とか靭帯とか大切にしないと?」
『鍛えてください、そもそも健康持ちなのですから
そう易々と靭帯が切れたりすると言う事は
素体であるマスターの身体が鍛えられていない証拠です。
この際、しっかりと鍛えるべきです。』
「ふぁい……。」
しかし私の中ではこのファイアフォームさえ乗り越えれば
何とかする方法は既に思い浮かんでいるのです!!
『マスター、ウォーターフォームでお尻から水を噴出したり
ソイルフォームでお尻の下に椅子を作ったり
ウインドフォームでお尻から風を噴き出させて
楽をしようとかどういう了見でしょうか?』
「ぐぬぬぬぬ、先読みするとか反則だぁ!!」
『まぁ、そこまで制御出来るのだとしたら
別に怒りませんよ?
制御出来たら、の話ですが……。』
ニクジュバンニがそういうのでやってみたら
まぁ1発で成功。
やはり一番の難関はファイアフォームで
他の4フォームについてはしっかりと座らせていただいた。
『どこにそんな制御する感覚があるのでしょうかね……。
本番に強いタイプですか?』
「ふわははは!楽をする為の努力は厭わない者なのだよ!」
『でしたらこの先も出来ますよね?』
この先。
実はこの四大元素フォームには最終形態があり
レベル3フォームの8つのうちの7番目となるフォーム
「エレメンタルフォーム」というものがあり
そこに到達して初めて使いこなした、となるのだとか。
『ただ身体に凄い負担が掛かりますので
真面目に、本気出してくださいね?』
「あーいあいさー!」
まぁ、脅しか何か知らないけど
真面目に本気ねぇ……。
『死んでも知りませんからね?』
「へあ?」
『ファイアフォーム、ウォーターフォーム、ソイルフォーム
ウインドフォームの4つを選択承認!新たなる具現化をここに!
クォターニティマテリアライズ!!』
ニクジュバンニのその言葉の後に
私は絶叫するような声と共に、耐えようのない痛みが全身に走り
そのまま膝をつく事も、手で支える事も出来ずに
地面へと倒れたのです。
しかも転げ回れば回る程痛みは強くなり、かといって
止まっていても痛く、転げ回っては止まりを繰り返しつつ
声にならないような声をあげたのです。
『これまで行ってきたトリニティーマテリアライズは
ベーシックフォームを基本としてそこに2つのフォームを足したもので
トリニティーリ・マテリアライズは
同一のものも含めて3つのフォームを足したものです。
しかしこのエレメンタルフォームに限れば
四大元素を混ぜ合わせたフォームであり
それぞれがどこかしらで欠点となる属性同士を
上手く共存させる必要性があります。
それが上手く出来ないと、今のマスターのようになるのです。
と、言っても最早聞こえていないようですね。』
いやいやいやいやいや!
ちょっと待って!?
これまでのフォームと違い過ぎるんだけど!?!?
っていうか何これ!?
ゴリラアーマーに締め付けられるような感じと言い
肉が裂けるような感覚と言い、それでいて
神経が触られていると言うか……超我慢出来ない痛みなんだけど!?
『マスターの体内で火、水、土、風の四大元素が喧嘩しているのです。
エレメンタルフォームはそもそも本来混じる事が無い
四大元素のバランスを取って、共存共栄させるフォームです。
4つのうち1つの属性がバランスを取れないだけでも
問題が発生する、非常に扱いが難しいフォームです。
余計な戯言を考えている暇があったら四大元素のバランスを
均一にする事に専念してくださいね?』
バランスを均一って……超難しいんだけど…!?
『当然です、四大元素フォームを扱うだけでも
ベーシックフォームで言えば制御精度上で0.1パーセント未満でなければ
本来扱うに値しない程にはピーキーなフォームなのです。
エレメンタルフォームはその精度を0.01パーセント未満に
抑え込まなければならないのです。
その範囲内に居る間はマスターにとっては十全以上の力を
引き出せますが、抑え込めなければマスターに牙を剥きます。
それが現状なのです。』
ニクジュバンニの言葉が終わると共に
私はベーシックモードの姿に戻ったのです。
『これが現状です。
マスターはレベル10まであるゴリラアーマーの内
レベル3のフォームが全て使いこなせないのです。
しかもこれがレベル3の最後ではなく、もう1段上が存在します。
そちらになれば恐らくマスターが生きている事は無いでしょう。
楽するのも結構ですが、それは自らの歩みを止める行為です。
ガングレリどころかまだ私にすら到達していないのですからね。』
お……お叱りは解ったけどさ……。
身体動かないんだけど……あとまだ痛い……。
『当然です、全身の筋繊維がズタズタになっていますし
そもそも骨もそこら中ヒビが入ったり、場所によっては
粉砕骨折すらしているのです。
動けたり、痛くない方がおかしいのですよ?』
このあと滅茶苦茶、ゴリラによる癒しの魔法をかけまくって
ニクジュバンニに怒られたのです……。
魔力の無駄遣いかつ、過剰回復だと……解せない……。
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