第143話 G と 双児宮のジェスター
「俺に当たったと思ったか?」
その爆発を見ていた私の後頭部にコツン、と
硬いものが当たる感触。
そして超聞き覚えのある声に
あの爆発の中には既に男はいない。
居場所は私の真後ろだと……。
『この男の体内に母なる核心を確認。』
ニクジュバンニの声が聞こえると同時に
撃たれる撃たれない、痛い痛くないの話では無くなったのです。
すぐにゴリライアット・ガンを収納し
振り返る様に裏拳を放つと男は後ろに下がりつつも
私にガンガンと銃で魔法を放ってきたのです。
「捉える事も出来ねぇのにまだ抵抗するか……。」
「五月蠅い、母なる核心持ちが……。」
「はっ、確かに俺ぁそんな国に居た事もあった。
だが今はオラクル聖王国も聖道十二宮神とやらも
知った事じゃねぇよ。」
「それこそ知った事じゃ無いね!
そのあんたの中に埋まっている母なる核心は
あんたが持ってて良いもんじゃないんだよ!!」
そういうと、男は笑い出した。
一通り大きな笑い声をあげると
真面目な顔をして私を見てきた。
「だがこいつを取り出せば俺は死ぬんだろ?
俺は偶然だが、そいつを知った。
ならする事ぁ1つしかねぇだろうが!」
「1つ?」
「あんな胡散臭い奴の為にこの力を使うなんざ
まっぴら御免だ!
俺は俺のしたいようにする!
これはその為の力だろうが!!」
嗚呼、この男はそういうタイプね……。
信心深くてガングレリの宗教に取り込まれた訳ではなく
自らが得た力だと勘違いして
それを好き勝手使ってる………人間の屑だね……。
「で、お前はオラクル聖王国からわざわざ
俺を殺しに……いや、この母なる核心を
取り返しに来たって所か。」
「それは完全否定する。
悪いけどオラクル聖王国と一緒にしないでくれる?
反吐が出るわ……。」
「そりゃ俺も同意するぜ?」
「あんたに同意されても嬉しくないんだけど?」
「まぁいい。
俺に二度と干渉しないなら、今回は見逃してやる。
さっさとどこにでも行けよ。」
「断る、私はオラクル聖王国とは違うけど
あんたのその身体に入ってる母なる核心。
それだけは回収しないとならないんでね。」
「なるほど……。
母なる核心を欲してる口か。」
何か勘違いしている気がしなくもないんだけど……。
まぁ大まかに言えば間違いではないよね。
母なる核心くれると言っても
ノーサンキューなんだけど
回収は私の仕事みたいなもんだからね……。
「ああ、そういえば1つ忘れてたわ。」
「何をだ?」
「あんた何宮の誰よ。」
未だこいつの名前を私は知らない。
「これから死ぬってのに必要ねぇだろ?」
「あんた殺すのに墓標に名前書いてあげないと
無縁仏になるでしょ?」
「はっ!これから死ぬ奴が大言吐くとか
………面白れぇやつだ。
まぁ減るもんでもねぇから一応名乗ってやる。
俺の名前はジェスターだ。」
「はいはい、双児宮ね。」
「何だ、知ってやがったのか……食えねぇやつだぜ。」
「双魚宮は十二星座なら魚座でビスケス。
宝瓶宮は水瓶座でアクエリアス。
双魚宮はビスケッティだったし?
宝瓶宮はアクオルスだった。
ならジェスター、って名前からして双子座のジェミニ。
って当て嵌めただけだからね。」
「ビスケッティにアクオルスなんてまた
珍しい名前が出てくる辺り……。
やっぱお前、オラクル聖王国の人間か……。」
「もう1つ選択肢があるんじゃない?」
「もう1つ……?」
「相手にそう名乗られた。」
「……………どうやら追手より面倒くせぇやつみたいだな……。」
「誉め言葉として受け取っとくよ、ミニゴリラ!ゴリライアット・ガン!!」
私はすぐにミニゴリラを周囲に放ち
再度ゴリライアット・ガンを出し構えた。
「ここで逃がす方が面倒臭いからね……。」
私が構えているだけではなく
ミニゴリラ達もゴリライアット・ガンを構えている。
僅かでも動き出す前に、逃がさないように撃てるように……。
「そりゃ無理な話だ、つか殺すのは止めだ。」
「え?」
っていうかTRPGとか出来そうだよね。
ジェスターが2丁の銃を指でクルクルと回し始めると共に
ミニゴリラ達が的確に撃たれていったのです。
それでいてミニゴリラ達のゴリライアット・ガンを避ける。
素早く動いていると思うとジェスターが2人に増えていた。
お互いが背中合わせでそれぞれが2丁の銃を持っていたのです。
そして1人が私に、1人が反対方向へと走り始めた。
「ゴリライアット・ショットガン!」
すぐにショットガンへと変え、ジェスターを撃った。
私の目の前のジェスターはそのまま倒れたものの
ミニゴリラの方へと走ったジェスターは
これまでずっと直線的に移動していた筈が
曲線的な移動をし、ミニゴリラ達の弾幕を避け続けて
あっという間に逃げていったのです……。
そして目の前のジェスターは倒れてはいたけど
すぐにその姿が消えたのです。
逃げていった方向が魔導列車とは逆な上に
魔導列車に戻る事を優先すべきだと判断した事で
ジェスターをこれ以上追う位ならば
追いかけるのは得策ではない。
そう私は考えていたのですが
それがただ逃げただけだったらどんなに良かったものか。
突如、遠くで停車していた魔導列車が爆発。
それも冗談ではない爆発に、私は吹き飛ばされたのです……。
まるで太陽が地上に落ちてきたかのように
丸く赤々とした球体すら見え、それが瞬時に
壁を作りだして押し出されたかのように。
そして周囲はその威力を物語るかのように
木も、草も無い更地となったのです……。
『ただの爆発ではありません。
恐らく魔力が蓄えられていた魔石が
爆発した事によるものでしょう。』
その痕跡は遺体も魔導列車の残骸も殆ど残さず。
爆発があったと思しき場所は土が抉れた
なんてものではなく、それこそ掘ったのかと思うような
巨大でなんとも綺麗な穴が残されていたのです。
『そもそも魔石は魔物の体内で作られるもので
魔力の結晶体です。
魔導列車程のものを動かそうとすれば
自然と巨大なものとなります。
それが魔力爆発を起こした訳ですから……。』
「遺体も痕跡も残さず、か……。
かろうじて残っているこの金属片と
この力づくで引き裂いたようなのは?」
『前者の小さな金属片はミスリィルです。
魔法金属であり、魔力伝導率が高い為に
魔力爆発そのものに対する耐性が低い事から
このように飛び散ったのでしょう。
通常の金属であれば気化してしまうものもある位に
先程の爆発の中心地の熱が発生したと思われます。
後者の大きく形を残しているのはオリハルコンです。
ミスリィルと違い、魔力を一切通さない為
爆風によってこのようになったのです。』
「なら乗客は………。」
『恐らくは……。』
これがジェスターの置き土産だったのかは解らない。
だけど逃げた直後、と言う事もあり
ジェスターがやったと考えるのが妥当だと思う……。
私はジェスターが逃げた方向へと
ナックルウォーキングで追いかけたのでした。
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