第141話 G と 嵐 中編
私が先頭車両。
動力車であり、運転席のある車両に到着はしたものの
その入口は2両目からそのまま入る事は出来ない造りで
一旦外から専用の入口まで到達しなければならなかったのです。
「ああ、もう!数が多い!!」
先頭車両を護る空賊の数が一番多く
かつ周囲には小さな魔導飛空艇が数多く飛んでいて
中々入口に近づく事が出来なかったのです。
しかも丁度2両目から出た所で
空賊達が1両目と2両目を切り離そうとしていた所で
むしろ私がこの車両の連結部分を護る形にもなっていて
身動きが取れなくなったのです。
『どうしますか?』
どうしますか、って言われてもねぇ……。
「やるしかないよね!!」
私はロアーフォームの特性である
靴の先の指が地面をキッチリと捉え、例え壁だろうと
立つ事が可能だという事を利用して
先頭車両の側面を走りつつ、ゴリライアット・ガンで
空賊を撃ち、落ちたり気絶している間に
先頭車両への専用入口へと飛び込んだのです。
中には数人の男達がいて
1人が運転席を、そして残りは動力部の周りを
次々と分解し、取り外していたのです。
「てめぇ、何もんだ?」
「賊に名乗る名前なんて無いね。」
「そうか。」
ひと際偉そうな男が指を弾くと
それまで動力部の周りに居た連中が私に向かってきたのです。
すぐにロアーシールドを構えて、開口!
一斉にビタっと止まるイメージをしていたけど
まぁそんな訳もなく、次々と倒れ込み
軽く床を滑っていた。
「……………。」
偉そうな男はそれを見て、自らの頬を一撫で、二撫で。
「なるほどなぁ……威圧だけでこれか……。
こりゃシモンの奴も殺されたか……。」
「シモン?」
「ああ、このストーム空賊団の副団長だ。
3両目か2両目辺りに居なかったか?」
「ああ、あいつなら今頃手足を失って
動けなくなってるよ……。」
「シモンがやられちまうようじゃ駄目だな。
今日は退かせてもらう。」
なんともサッと決めたもんだ。
あれがやられたから退く??
「出入口に近い私が、このままあんたを通すと?」
「いや、通して貰わなくて結構だ。」
男はそう言うと、魔導列車の側壁部分に向かって
腰から抜いた魔導銃?のようなものを撃ったのです。
同時に爆発が起こり、気が付けば巨大な穴が
この先頭車両に出来ていて、男は居なくなっていたのです。
『マスター!』
短く叫んだニクジュバンニの声に、私は巨大な穴から
外へと飛び出したのです。
私とニクジュバンニは声に出さなくとも
その意図を伝える事も可能だからこそ、即時行動が取れたのです。
そしてまだ私は魔導列車から飛び出して間もない
宙を舞っている間に、そのままフォーム変更を申請!
「メカニカルフォーム申請、マテリアライズ!」
『メカニカルフォーム承認、マテリアライズ!!』
ニクジュバンニから伝えられた
レベル3時に追加された2つ目のフォーム。
ヘビーフォームに比較的近いもので
機械的な部品に全身が覆われるフォーム。
違いとしてはヘビーフォームが完全にゴリラの姿なのに対して
こちらは何故かロボットに近い……。
「赤、黒、黄色のトリコロールカラーとか
これ絶対やばい配色じゃん!!
あとなんで胸にゴリラの顔があるかね……。」
『大丈夫です!頭もゴリラですから!!』
「MA・JI・DE!?」
私の今のメカニカルフォームの情報が
前面にパパパっと表示されると頭がゴリラだ。
但しベーシックフォームでバイザーを開いたように
口が大きく開いていて、そこに顔。
と言うより顔がおかしい!!
「なんで顔までロボットチックなのさ!?」
『とりあえず時間がありませんので。
スラスター起動!』
「え?スラ?嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして私は飛んだのです……。
「あああああああああ!速い速い速いぃぃぃぃぃぃ!!」
『さっきから向こうに撃たれているんです!
この位の速度を出さないと回避出来ません!!』
っていうか超速いんですけど!?
なんかニクジュバンニが操作してくれているようだけど
とにかく私の目じゃ追いつかない位速いし
何よりさっきから蛇行したり、回転して避けたりと
飛ぶ速度だけでなく、動きそのものが速いのです!!
「チッ、なんて速さだ……。」
そして辛うじて見えたのが、先程の偉そうな男。
何やら両手にそれぞれ魔導銃のようなものを持って
それを推力としているのか、空に浮いているし
片方の魔導銃?で空を飛びながら
もう片方の魔導銃?で私に向かって撃ってくるのです。
さらに空に飛んでいる魔導飛空艇からも撃たれてるし
小さな魔導飛空艇にも撃たれてるし!!
それを私がとんでもない速度で飛んで
躱している、という構図……。
「っていうかいつからこれはロボットバトルを
信条とした作品になったのかね!?」
『元からゴリラですし、今もゴリラですよ?』
「違う、ゴリラは空飛ばないから!!」
『喋ると舌嚙みますよ?
飛行最高速度はマッハ3.0ですからね?
時速にして約3574.8キロですからね??』
ちょ、速すぎじゃない!?
『だからこそ時速300キロ以内に抑えているではないですか……。』
いやいやいや、どこの新幹線って話だよね!?
『私の気が散ると、どこに突っ込むか解りませんが?』
はい、すみません……。
ニクジュバンニの操作とやらは凄かった。
全ての銃撃、砲撃とも言えるものを次々と避け
そして反撃までしているけど
何かとんでもなく見覚えがあるものがいくつか……。
さっきから私の頭の辺りから何かが射出されているんだけど……。
これまさかの「ゴリラの〇くそ」?
『ゴリライアット・バルカンですから。
メカニカルフォームには多くの武器が搭載されています。
他のものも使ってみましょうか?』
おー、何かロボットアニメチックだから
多分凄いのが出るんだよね!?
『ピール・ライフル!』
おお!これはあの赤いと言うかピンク色の
ビームが出…………。
違った。
思いっきりライフルの先端からバナナの皮が飛び散ってる……。
『ピール・ライフルだと言ったではありませんか!』
まさかのビームではなく、ピール……。
『そしてこれがピール・サーベル!!』
ただの柄からにゅるにゅるとバナナの皮が出てきて
サーベルと言うより鞭に近い感じに引っ叩く……。
ビームじゃなくてピールだからか……。
『他にもピール・ジャベリンがありますが?』
いや、もう良いです。
多分三又になった部分からバナナの皮が出てくるんだよね?
なんとなくイメージしちゃったよ……。
『では冗談抜きでこのメカニカルフォームの
最大火力をお見せしましょう。
それではマスター、御唱和ください!!』
さっき喋ると舌噛むって言ってなかった?
『ゴリラ・ブレスト・キャノン!!』
っていうかニクジュバンニが一人で勝手に叫んでた。
それによって胸のゴリラの口が開いたと思ったら
ぶっといビームのようなものが飛び出て私は唖然……。
飛び出たビームのようなものはそのまま魔導飛空艇に直撃。
魔導飛空艇は空中で爆発し、そのまま破片などがバラバラと
地面に落ちていく姿が見えたのです……。
『これがゴリラの力です!!』
いや、ゴリラは口からビーム撃たないからね?
『あ』
「え?」
『エネルギーが切れました、墜落します。』
ニクジュバンニ曰く、ゴリラ・ブレスト・キャノンは
使用する際に残っているエネルギー?とやらを
全て消費して撃つ必殺技だとか。
「つまりそれを撃ったから、私は墜落しているんだね?」
『その通りです。』
その通りです、じゃないよ!!
何勝手に全エネルギー消費してるのさ!!
こうして私は唐突にベーシックフォームへと戻り墜落。
いえ、垂直落下する事となったのです……。
『ちなみにフォームの維持時間は基本1時間で、クールタイムは12時間です。』
「やかましいわ!」
とりあえず漫画で地面に落下した際に埋まるのは
演出だね、と言う事実だけが解ったのでした……。
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つけていただけると、作者が一喜一憂します!