第139話 G と 分断された魔導列車。後編
「ゆっくりでいいからね!焦らずに!」
その後、ニクジュバンニの進言で
ミニゴリラ達を足場になるように
それぞれが手で足を持って、渡し板の変わりになってもらい
そこを乗客に渡ってもらっているのです。
「怖い……。」
順番は怪我人と女子供を優先。
ただし家族の分断があるといけないので
親族なら一緒に渡ってもらう形をとっていたけど
やはり子供には怖いものなのだろう。
「おい、早くしろ!」
「五月蠅い、そこのスットコドッコイ!!
小さな子供が勇気を振り絞って渡ろうとしてんだよ!
少々の時間位、静かに見守る位の懐の深さの
1つや2つ見せなさいよ!!
この車両支えてるのは私なんだからね!!
しかも私は足場もないんだから!!」
そう、私はただ腕だけで2つの車両を繋いでいるだけで
足は宙ぶらりんの状態……。
むしろ怖いのは私の方だよ……。
『健康の副次効果で恐怖心は殆ど無い筈ですが……。』
そういう問題じゃないんだよ、ニクジュバンニ。
恐怖心の有無、と言うよりかは
どちらかと言えば私の握っている金属部分の問題なんだよ……。
これどのくらい持つか解らないんだよね、正直さ……。
私の腕が持っても、掴んでいる部分が持たなかったら
それはそれでパニックが起きると思うんだよね。
それを起こさないようにいかに急がなくも
素早く皆が移動してくれるか、に
掛かってると思うと、恐怖心っていうより
罪悪感、っていうのかな……。
でも今は大丈夫、と言う嘘をつき続けないと
いけないのと、それを現実のものとして
嘘を嘘で無くす。
そういう賭けに近い事をしている自分が
怖いのさね……。
まぁ足場になっているミニゴリラ達も
結果としては連結部品代わりになっているから
その分は楽にはなってるけどね……。
『人族はそういう所、面倒臭いですからね。
ゴリラなら綱渡りの要領で済むのに……。』
だからなんでもゴリラを基準にするのは
止めてほしいんだけど??
「いい?渡るのに必要な事はたった1つなんだよ?」
私は怖がっている女児に声を掛けた。
「ひつようなこと?」
「そう、静かに一歩前に足を出す事。
出さないと、ずっと足は前に出ないんだよ。
大人だってみんな怖いんだよ、だからみんな声を出すの。」
「お姉ちゃんも怖いの?」
「怖いね、だけど怖いって言うと
皆怖くなっちゃうよね、だから黙って一歩前に進むの。
小さいから、子供だからじゃなくて
大人でも怖いものは怖いんだよ。
だから口に出さないで一歩前に足を出すの。
終わったらまた一歩、って足を出せば
そのうち終わってるんだよ。
お嬢ちゃんが渡れるんなら、皆渡れるんだよ?」
「いっぽ……。」
「そう一歩。」
女児は一歩、また一歩と時間は掛かったけど
進み、前の車両に到達したのです。
「ついたー!」
「そうそう、一歩前に踏み出さないと
何も始まらないんだよ。」
『何か恰好つけた言い方していますけど
これ元ネタは「宝くじは買わないと当たらない」ですよね?』
いいじゃない、事実なんだし。
まぁお金を出し合って、半分ボッシュートされて
所持金を偏らせるのが宝くじなんだし?
貧乏人の夢、としては成金ってのはアリだと思うんだよね。
当たった分を無駄遣いさえしなければね……。
女児が時間は掛かったものの渡った。
これで足が前に出ない人がいるならぶん殴りたい所だけど
この辺りは性格とかにもよるだろうから
まぁ多くは言わない。
ただ、手の中の感覚があまり宜しくない……。
金属でもこれは千切れるのではないか、と
思うばかりの妙な感触があるのです……。
ミキっとかメキっとか音が鳴る度に
足が竦む人が出て、中々移動が思った程進んでおらず
人によっては女児より時間の掛かる人も。
それでも皆、静かに渡ってくれていたのです。
ただそんな中でも勇気の出ない。
ただ一歩を前に出す事すら出来ない人も
やはり居るものなのです、それが最後の1人の男性。
「嫌だ………こんな所を渡る位なら俺は死ぬ!!」
「なら死ねば?」
私は非常に割り切ってむしろ死ねと言ってやった。
「え?」
「本当に死にたい人は、声を出さずに死んじゃうんだよ?」
本当に死にたいと思うなら、この半壊した車両の後ろから
飛び降りれば済む話なんだよね。
「なんで俺だけこんな目に、とでも思ってる?
泣いて、喚いて、俺は死ぬ!と言えば
誰かが助けてくれると思ってる?
あんた今、既に助けられている状態なんだよ?
この半壊した車両は既に連結部分が無いんだよ?
この手を放せば、この車両は一気に壊れるだろうし
あんたも死ぬと思うよ?確実ではないかもしれないけどさ……。
って事で手、放して良い?死にたいんだよね?」
「え?……あ………。」
「あと30秒。」
「え?さ……30秒!?」
「握ってる金属が千切れるまでの時間。
それより早く千切れても、保証は出来ないけどね。」
実際はミニゴリラとニクジュバンニの見解。
あと30秒ほどで私が握っている位置が千切れるらしい。
但し足場のミニゴリラ達と、それ以外のミニゴリラ達が
掴んでいる部分が何か所かあるので
半壊した車両がそれで切り離される訳では無いのです。
だから嘘のようで本当の話。
あくまで私が掴んでいる場所だけの話。
「ひっ……、も……もう駄目だぁぁぁぁぁ!!」
「あと20秒ー」
「ひぁっ!?な……なんでそんな冷静で居られる!!」
「いや、だって千切れるのは半壊している方だもの。
私は前の車両と共にさようならするから
焦る必要性は無いんだよ?って事で10秒ー!」
「ひっ、はっ……ひぁっ!?」
こりゃ駄目だね、10秒切ってこれは……。
助けるのは結構簡単な話なんだけど
助けてあげたとして、この男性はこれからも
ずっと誰かの助けを借りて生きていくつもりなのだろうか。
まぁ極論過ぎる、と言われると私もそう思う。
だけどさ、ミニゴリラではあるけど
手摺代わりすらあるのに進めないって……。
「はい0ー!!」
「ひぃっ!?……………な…何も起きなふぐぅ!?」
「いつまでの最後の1人を待ってられないんだよ。
あんたはそれで良いかもしれないけど
先頭車両の方が既に危険なんだよ?」
他のミニゴリラの情報から
ホットルさんが先頭車両側で苦戦しているのが
解っていて、これ以上時間を掛けるのも惜しい。
それにニクジュバンニ達の見立ては正確だった。
0と同時に私の握っていた部分は千切れ
そして今、この半壊した車両は
ミニゴリラ達が握っている場所すら
千切れそうになっているのです。
私は最後の1人の腹を軽く殴り
気絶させた状態で前の車両へと連れて行くと
既に限界を超えていた車両は音を立てて
次々と崩れ始め、ミニゴリラ達が手を放すと
そのまま半壊した車両は、夜の闇に消えていったのです……。
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