第137話 G と 雄叫び
「ねぇ、ニクジュバンニ。何この格好……。」
『ゴリラアーマーのロアーフォームです。』
ロアーフォーム。
咆哮とか雄叫びの「Roar」だとか。
但し見た目が色々とおかしい。
まずこれは私が知る限りドレスアーマーと呼ばれるものに
限りなく近いものだし、ゴリラアーマーが私に引っ張られている
腕の長くないフォームだった。
但し胸当て部分だけが妙にゴリラ、というかゴリラの顔……。
「いい加減、この鎧はゴリラから離れるつもりはないのかね……。」
『ゴリラアーマーですから!』
正直、胸当てのゴリラ感だけが妙に突出している。
それと何故かゴリラ武器だと思うんだけど
何故か剣が帯剣されていて、左手に盾がある。
怖い事に盾もゴリラの顔だし
剣も鍔のど真ん中にゴリラの顔。
『ロアーソードとロアーシールドです。
このフォーム専用のゴリラ武器だそうです。』
仕様としては見た目的にはベーシックフォームからの派生ながら
私の身体をベースとした腕の長さがないタイプで
ナックルウォーキングが使えないけど
水を浴びても能力の減衰が無いのだとか。
さらにジャンプ力は普段通りのゴリラ並みだけど
代わりに靴の先の指が地面をキッチリと捉えて
ありとあらゆる場所に立つ事が出来るとか。
「むしろニンジャフォームにあるべき機能な気がするけど……。」
さらに武器にはそれぞれ専用技能があり
これまでと違い、拳に頼った戦い方より
この専用武器に頼った戦い方をする為のフォームだとか。
そして重大な欠点があり
ロアー、雄叫びに関しては剣であれば鍔の中央についている
ゴリラの口が開かなければならない事。
盾も同じく開いている事が専用技能の大半を
利用する際の条件なのだとか。
「盾で相手の身体や武器を銜えられる?」
『はい、その際はロアー系の専用技能は
使う事が出来ないようです。
使用時に閉口状態から開口状態へと変わらなければ
発せられない制約があるようです。』
まぁ、性能を考慮すれば確かに
今の状況には合っている気がする。
この魔導列車の屋根を渡っていくのには最適だと思う。
ニクジュバンニが悲しんでいる以外は……。
『ゴリラ感が……殆どありません………。』
「剣と盾と胸当てと3つもゴリラの顔があるだけでも
十分だと思うんだけど?
さて、ではいきましょうかね。ゴリライアット・ガン!」
ロアーフォームでも専用ではないゴリラ武器は
併用可能だそうなので、当面はロアーシールドに
ゴリライアット・ガンのセットで最後尾へと急いだのです。
・その頃の最後尾側防衛拠点
「おらぁ!さっさと落ちやがれ!
いつまでもへばりついてんじゃねぇよ!!」
あたいの名前はミルキー、Cランク冒険者だ。
え?名前と口調が噛み合ってねぇだ!?
余計なお世話だ!
これでも名前は気に入ってんだよ!!
まったく、楽な護衛だって聞いてたから参加してみりゃ
空賊、しかも魔導飛空艇のあの紋章から
世界的な空賊団「ストーム」の連中。
「まったく……運が無いね……。」
ストーム(嵐)の連中、と言ってもこの魔導飛空艇の大きさから
本体ではないだろ。
だがあたいは知ってる。
こいつらは根こそぎなんでも持っていく。
こいつらが現れた場所には嵐が去ったかのように
碌なものは残りゃしない。
金目のものに限らず、命も残らないと
冒険者の間じゃそこそこ有名な連中だ……。
「おらおら!あたいの命はあんたらにやる程
お安くないんだよ!!」
この貸し与えられている魔導銃は殺傷能力がほぼ無い。
弾もこの魔導銃専用だ。
理由?これを鹵獲されたら困るからだろう。
本来の魔導銃とは仕組が異なっていて
殺傷能力のある魔導銃への転用が出来ない仕組だと聞いた事がある。
つまり、奪われたとして困らない様なものを
あたいらに貸し与えている訳だ……。
「だからってあたいらだって
何も考えていない訳じゃないんだからねっ!!」
あたいの奥の手は、正規品では無いけど
この魔導銃に合わせた弾丸をとある筋から手に入れてある事だ。
「だからくたばりやがれ!!」
そうは言ってもこの1発1発は虎の子。
決して安くはないもんだけど
命は金で買えるもんじゃないんだ。
命が助かるなら安いってもんだ!!
「あたいはこの依頼をやり遂げてBランクに上がるんだよ!
邪魔する奴ぁ容赦しないよ!!」
徐々に小さな魔導飛空艇から魔導列車に飛びつく賊を
ミルキーは次々と魔導銃で撃ち、賊は魔導列車から
落下していく事となった。
そして「ストーム」の連中は気が付いた。
普段であれば殺傷能力のない、非常に匂いのきつい
弾が撃たれるだけだと言うのに、落下していった賊が
傷つき、弾頭によって血を流している事実に……。
彼ら「ストーム」は根こそぎ奪う。
それが金目のものであろうと、命であろうと。
奪い取る側が奪い取られる。
彼らにしてみればそれはあってはならない事だったようだ。
彼らは列車に飛び乗る事より
ミルキーの排除を最優先する事としたようだ。
側面からではなく、屋根の上に小さな魔導飛空艇をつけ
そのまま屋根に降り、そこから一気に空賊達が
盾を持って、徐々にミルキーへと近づいていった。
「チッ、賊の癖に盾だと!?」
ミルキーが使っている弾は、本来のものより小さな弾頭が
飛ぶ様になっているものだった。
魔導銃の銃身が小さく作られている為で仕方のない物だった。
だからこそ盾が非常に有効な手立てになっていた。
本来の弾頭を飛ばす魔導銃であったなら。
ある程度の盾であっても貫通させる能力もあるが
所詮は正規品ではない銃弾にはその能力が無かった。
空賊もそれを見越した上で
盾を構えて近寄り、ミルキーを始末しに
徐々に距離を詰めてきていた。
「なんだよ!全然盾を貫かねぇじゃねぇか!!
こいつぁとんだ不良品ばかりだぜ!!」
特に不良品でも無い。
ただ弾頭が小さく、それによって薬莢も小さい事で
魔力が爆発し、弾頭を飛ばす能力が劣るというだけで
人体などであれば十分有効だった。
さらに弾頭は少し柔らかめで人体に当てれば
着弾後に変形する事で体内に弾頭が残る仕組で
地球ではホロ―ポイント弾と呼ばれるものに
非常に近く、殺傷能力そのもの自体は高い物であり
ミルキーが購入した弾は、この種の弾としては
優秀と言うべきものだった。
弾が貫通していない事も、空賊は把握した後だった。
それだけにミルキーを放置しておく事は
例え死ななかったとしても、その後の死を招くものだと
最大限の警戒を持っていた。
だからこそ、空賊はこの手段を取ったのだろう。
突然、彼らは盾を構えたまま非常に巨大な布のようなものを開き
次々と魔導列車から飛び立っていった。
パラシュートに非常に近く
展開しただけであっという間に魔導列車から遠ざかる様に
空を飛び、そしてゆっくりと下降していた。
「チッ、逃げたか。
まぁいい……………、なんだこれは?」
ミルキーが気が付くと、足元には
何やら布が幾重にも巻かれたものがあった。
「布……?」
ミルキーが手に取り、それを見ていた時。
魔導列車の前方部から気配を感じた。
ミルキーが振り返った次の瞬間。
ミルキーの居た場所に急激な魔力の爆発が起こったのだった。
星5点満点で「面白い」や「面白くない」と
つけていただけると、作者が一喜一憂します!