第13話 G vs 赤青オーガ 後編
「ゴリラコンテナ!」
私はゴリラコンテナから水の入った樽を出し
次々と地面を水浸しにしていった。
「無限バナナの皮!」
その上に次々とバナナの皮を蒔いていく。
これが突破口になってくれた。
赤オーガが地面を殴った程度の時間では、水が蒸発しきる事も無く
バナナの皮のぬめっとした部分がカラカラに乾く事も無くなり
次々と地面は滑りやすいバナナの皮だらけとなったのです。
ただ赤オーガのパンチは足が滑りやすくなったことで
乱れはしたものの、転倒するまでには至らなかった。
『凄いバランス感覚ですね。』
「うん、嫌になる位ね……。」
転倒しそうにはなるものの、身体を捻ったりして
転ぶ事だけは避け、私に次々と燃えるパンチを繰り出すだけでなく
ついには足にまで火を纏わせ、足元を乾かし足場を作りつつ
今度は蹴りまで飛んでくるようになったのです。
「なんの!無限鋼鉄製樽!!」
私は鋼鉄製の樽を出し、それを頭に向かって投げつけた。
「樽シュート!!」
流石にこれを読み切れなかったのか
頭にガン、と当たりはしたものの
思った程の効果は出なかったのです。
そしてついに赤オーガは全身が真っ赤に燃えたのです。
「全身が燃えているんだけど!?」
『このまま回避しつつ逃げ回ればマスターの勝ちです。』
「は?え……?」
ニクジュバンニがそういうので、パンチやキックを避けつつ
時間を稼ぐ様に逃げ回っていると、赤オーガが苦しみ始めた。
それどころか脛を庇っていた青オーガすら、苦しんでいるのか
最近食べたであろう、見たくもないものを嘔吐していた。
「ぐっ………。
つかなんで苦しんでるのさ……。」
『酸欠です』
「はい?」
何やらニクジュバンニがえらい難しい話をしてきたけど
こういう事らしい。
まず初歩魔法の「火」とは
自らの周囲だけに火を纏わせる魔法で、内側は自らの魔力が燃えている炎で
外側は酸素燃焼、と言う原理で燃えているのだそうだ。
そして内側の魔力の炎が外側の酸素燃焼の炎から
術者を護る壁の役割もしているのだとか。
「ヲタは広く浅く、だから専門的すぎる事はよう解らんばい……。」
『普段の大気中の酸素は21パーセントほどです。
この酸素が18パーセントを切ると問題とされていて
16パーセントで頭痛や吐き気、意識喪失などの
自覚症状が出てくるとされています。
そして10パーセントを切ると死の危険があるとされています。』
「へぇ……。」
『外側は酸素燃焼、つまり酸素濃度を上げて燃焼する事で
火の温度を上げる、燃えやすくする効果を発揮します。』
「ん?つまりは?」
『周囲の酸素濃度が急激に下がっています。
その証拠に青オークも非常に苦しんでいます。』
「私は何も苦しくないんだけど……。」
『ゴリラアーマーはゴリラコンテナと繋がっていて
ゴリラコンテナ内へと流れ込んだ大気をアーマー内の呼吸用の
大気として利用する事で、様々な環境下であっても
バイザーを閉めている限りは安全です。』
「もし今バイザーを開けるとどうなる?」
『開けましょうか?』
「止めておく……。
で、これの状況からどうするべきかな……。」
『火事場の糞力と言う言葉がありまして……。』
「せめて窮鼠猫を噛む、とか火事場の馬鹿力とか
もうちょっと言い方無かったの?」
こういう苦しい時にはとんでもない力を出してくる。
そういう事が多いので、せめて身動きをしなくなるまでは傍観し
動けなくなった所を首を折るのが良いとか。
苦しくてもがく赤オーガと青オーガ。
その2匹の最後は感動的だった。
お互いが手を伸ばし、そして………。
触れたと思った途端に青オーガに弾かれた。
赤オーガはそれにショックを受けたのか
お互いがそれ以降、手を伸ばす事も無く静かになり
そして赤オーガの火は消えたのです………。
「そりゃ触ったら火傷するんだから
手を弾かれて当然でしょ……。」
ほんの僅か、感動の兄弟だか家族のシーンかと思えば
ただ青オーガの手が焼けどし
それによって赤オーガの手が撥ね退けられる。
当然と言えば当然の事だし
そもそもお前、火位止めろよと赤オーガには言いたかった。
「けど起きてこられても困るのでっ!!」
ボキンとまずは赤オーガの首を折り
続いて青オーガの首を折って、トドメを刺したのです。
「収納しておけばいいか……。
あと1匹居るんだよね?」
『形跡上はもう1匹居る筈です。
いえ、物凄い速度でこちらに来ているようです。』
ニクジュバンニの言葉に続いて現れた
3匹目のオーガ。
それは限りなく人、と言ってもおかしくない姿だった。
先程の赤オーガと青オーガに比べ、少し小さいけど
見た目は人。
そればかりか少々物足りないとは思うけど
腰布を巻き、ズボンのようなものを穿いていた。
「貴様か、俺の弟達を殺したのは……………。」
その言葉と共に、この場の空気が張り詰めた。
そんな解釈をすべきだろう、と思うような重さを
なんとなく私は感じた。
『まだ酸素濃度が正常に戻っていませんが
マスターなら大丈夫でしょう。』
何が大丈夫なのかは解らないけど
開けて大丈夫なら開けるべきだろう。
何しろこのオーガ、喋っている言葉がしっかりと解る……。
私がバイザーを開けると、その目が吊り上がった気がした。
「貴様、魔物ではなく人族か。
そうか…………………。
俺の弟達を返してもらおうか。」
直後に自動的にバイザーが閉じられた。
それと同時に私は真後ろへと吹っ飛んでいた。
そのまま木に当たり、当たった木が折れる程の衝撃。
そして私にはとんでもない痛みが走ったのです。
人の姿に似たオーガは、顔を上げるとすぐ近くに居た。
「ふむ、この程度で死なぬとはなんとも頑丈な……。」
そしてまた私は吹き飛んだ、今度は右に……。
どんな攻撃をしているのか、それすら解らない。
何しろ私の目には、動いた事すら解らず
次々とオークビッツの集落の中を吹き飛ばされては
木にぶつかり、僅かに残っていた建物にぶち当たり
私自身はその痛みに顔を歪めていた。
「な、なんなのさこいつ……。
さっきから超痛いんだけど………。」
『解りません、ゴリラアーマーレベル1の制限は
一切つけていません。』
「ならそれだけ強いって事だよね………?」
『圧倒的、と言うべきかもしれません。
むしろ私自身でも勝てるかどうか……。』
「なんであんたが戦う前提ぇ……。」
『これでもゴリラ神様の眷属です。
少なくともマスターよりは強いです。』
「あっ、そう……。
で、対策とかあるの?」
『ありません、逃げる以外の方法が考え付きません。』
ニクジュバンニが逃げる以外の方法が考え付かない。
「そう………。ゴリラ光属性魔法『ゴリ光』!!」
私は倒れている状態から、足を人の姿のオーガに向けた。
「ぐわっ!?」
目が眩んだだろう、その隙を見て身体を一気に起こして
ナックルウォーキングで逃げ出したのです。
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