第127話 3回戦 第4試合 中編
膠着状態からほんの僅か。
私がデルトロから意識を放したタイミングで
デルトロは一気に私に向かってきた。
「シールドチャージ!!」
盾を構えての突進、だけど……だけど……。
「遅っ……。」
駆けるとか走るとかとかなり無縁そうな
ドタドタとした走り方……。
だけど私は気を抜かず、ここから何かが起きるとみていた。
リフレクト(反射)を受けた後にクジュバンニが非常に厄介。
かつ最もマスターには不得意となる相手だと言った事は忘れていない。
「はっ!シールドブーメラン!」
走ってくる途中に、そのままシールドをまるでブーメランと言うよりは
フリスビーのように、そして身体をきっちりと捻って
力を籠め、投げつけてきたのです!
しかしその速度は思った程では無く
殴って落としたり、キャッチできそうな雰囲気があった。
『触ると回転に巻き込まれますよ?
そういう技能ですから。』
ニクジュバンニが言うにはこのシールドブーメランとやらは
ただ盾がフリスビー型に飛んでくるだけではなく
掴もうとしたり、叩き落そうとすると盾に籠められた力が
一気に解放され、盾の回転に腕などが巻き込まれて折られたり
身体が巻き込まれ、そのまま盾の外周部分でズタッンズッタンに
される、初見が命の盾技能なのだとか。
「なら避け……。」
『大きく避けてください!』
「え?」
もっと余裕を持って避けるものだったらしい。
私のすぐ近くを通過した盾に、身体が引き寄せられ始めた。
ただ飛んでくるだけではなく、この回転は
それだけ周囲のものを引き寄せる力もあるらしい。
「ならバナナックル!!」
即座にバナナックルを両手に出して、盾を殴りにいった!
バナナックルは芯で捉えなければ何でも滑ってしまう。
だからこそこの回転によって巻き込まれても
バナナックルが盾と当たれば、それは滑りまくってくれる!
その狙いが的中したのか、私の身体は引き寄せられたものの
盾の外周とはバナナックルが接点となって
特にダメージを受けたりも無く、盾が通り過ぎていった。
ブーメラン、という位なのだから
多分この後戻ってくるのだろう。
それに注意すれば、と思っていた矢先の事。
いつの間にかデルトロが距離を詰めていた。
そして先程までミドルシールドをつけていた手には
バックラーが装着されていた。
バックラーはベルト部分につけるものの方が有名だと思うけど
本来は突き出すように構える小型の盾の方。
使い方としては、前に突き出して自らの姿を隠す為。
サッカーで言うキーパーが前に出て
シュートコースを減らす目的に近い使い方をする小型盾で
バックラーで殴ったりもする、防御を主体にしている盾と言うよりは
ブロードソードやレイピアなどと組み合わせて
さらに小さい事から携帯性や機動性に優れている、と
前にスクトゥムと言う四角い盾について
気になって調べた際に同時にググった記憶がある。
一応は盾、そして防御の為の盾と言うよりは攻撃用の盾。
デルトロは恐らくこの機会を狙っていたのかもしれない。
「ペネトレーション!!」
「決まった!盾士の必殺技とも言える
盾技能ペネトレーション!!
相手の鎧の防御などを無視し、その体内に直接ダメージを通す
盾士が接近された際に使用する1手です!
それをあえてシールドブーメランを飛ばして
隙を作り、その下に装着していたバックラーで決めました!
これはリラ選手、相当なダメージが通ったでしょうか!?」
ペネトレーション。
ゲームで言えば防御力を無視してダメージを与える攻撃。
としかニクジュバンニは言わなかった。
ただこのペネトレーションには重要な問題点があるとか。
確かにダメージも与える盾技能ではあるものの
あくまで相手の防御力を無視して、中にだけダメージを通すものであって
まずその威力は使用者本人の力が必要だと言う事。
そしてそもそも相手の防御力は無視出来たとしても
いわば体力が多く、その攻撃を耐えきれる相手に対し放った場合
そのまま逆に捕まえられるというデメリットもあるのだとか。
特に盾を相手に完全密着させる必要性がある事から
相手の力量を見誤ると、そのまま自らが危険になる
諸刃みたいなものだとか。
それをカバーする為なんだろうね。
デルトロはそのままショートソードを振りあげて
私に追撃を行おうとしたのです。
しかし遅い。
デルトロは私からすれば少々動きが遅かった。
そしてペネトレーションは超痛かった……。
「だけど我慢出来ない痛みじゃ無いね!!」
私はデルトロの両腕を手で掴んでいた。
右手でバックラーの上から拳を握り潰し
左手で手首を絞るように握り、ショートソードを落とさせた。
完全な無手になったデルトロだけど
その顔には多少の痛みによる歪みは見えたものの
諦めていない目、というよりまだ優位だと思っている目。
まぁ、多分戻ってくるシールドブーメランを
期待しているのかもしれない。
だけど私は後ろなんて見なくても、シールドブーメランが
いつ戻ってくるかが解る。
1つはミニゴリラやミニミニゴリラの視覚や聴覚などは
私にも共有されるから。
むしろ力を籠めすぎたのか解らないけど
シールドブーメランはまだ戻ってこない位には遠い。
だというのにデルトロは笑った。
口角が少し上がった。
「騙そうと思ってるなら、徹底的にやらないと結構すぐに解るもんなんだよ?
あれがこのまま戻ってきたら、あんた多分盾に巻き込まれるんだろう?
それとも私が騙されてこの手を放すとでも思って笑ったの?
どっちにしても愚策だね。」
笑っていたデルトロの口角が下がった……。
「私にはあの盾が見えるんだよ。
見えなくても、回転する際の音が大きすぎて
まだ戻ってこないのが耳で聞こえるんだよ。
観客の声援で聞こえないと思った?
せめてオールドフレンチスタイルじゃなくて
オーバルかラウンデルにすべきだったね。」
ミニゴリラの視界共有もあるけど
一番はやっぱり音だ。
それも使っている盾が悪いんだと思う。
ミドルシールドでもラウンドシールドなら
多分もっと音は小さいと思う。
だけどデルトロの盾は円形ではなく
エスカッシャン、と呼ばれる紋章の後ろに掛かれる盾の形。
それで言うならばオールドフレンチと呼ばれる
ゲームなどにもそこそこ出てくる五角形のものだった。
この世界の冒険者ギルドのマークの盾も
もれなく五角形のオールドフレンチだ。
そんな音が無理に技能によって
回転しているのだから、五月蠅くない訳が無い。
通過する際も、かなり音は大きかった。
「さて、ここで問題です。
もし自分の攻撃を受ける際にリフレクトしたら
一体誰にダメージが戻るのかな?
やっぱり法則的には盾かな?それとも………あんたかな?」
私がここで狙うなら、やはりあの戻ってくる筈の
シールドブーメランをデルトロに当てるのが
最も私にとってリスクが小さくなる。
「手放した盾の回転を止めるなら今のうちだけど……。
果たして回転を止められるのかな?」
そこまでは流石に今は解っていない。
だけどそういう可能性も考慮する。
1手、2手先だけでなく何手も先まで
考えるべきだと思い、今度は私がデルトロを追い込む番だ。
1秒、2秒、3秒……。
次第にデルトロの顔が青くなり
脂汗がダラダラと流れ、困った表情をしていた。
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