第119話 最終試験はトーナメント戦 前日譚
「それでは筆記成績順でこの木箱から
番号札を引いていただきます!」
Bランク昇格試験の最終試験。
トーナメント戦は20人の勝ち残り式。
準決勝まで進めば合格となりBランク冒険者へと昇級。
そしてその中から1名、トーナメントの優勝者はAランク冒険者へと昇級。
トーナメントの決定方法は先程、ギルド職員さんの言葉通り
番号札を筆記の成績順で引き、1~20の枠が決定する。
試合内容は基本、殺す事は禁止。
多少骨が折れようと、結果死ななければOK。
もしその後死んだ場合は失格。
そして試合の終了条件は2つのみ。
1つが降参による敗北。
もう1つが舞台の場外への落下による負け。
但し落下、つまり地面についていなければ問題なし。
例外として審判である冒険者ギルドの職員さんが
警告、注意といったものを出す事があるらしく
3つ累積すると失格なのだとか。
そんなルールなのもBランクへの昇級試験だからだそうで
登録試験のような甘いものでは無いとか。
まぁ真剣使用で魔法もOKならそうなるよね……。
そして1回でも負けたら終わり。
ただ異常に気になる点が2つあった。
1つは賭博が堂々と大っぴらに行われるという事。
これはBランク昇級試験は観客を入れて行うもので
胴元が冒険者ギルド、そして利益の半分を
開催している国と領へとそれぞれ支払う前提で
国から認められているものなのだとか。
冒険者ギルドの利益はまず観客から徴収する入場券代金。
それと賭けの半分。
ここは王都なので残りの半分は
全て国に納められるのだそうだ。
そしてもう1つがこの最終試験のルール。
全参加者がルール上は強固な魔法契約書に署名し
もし死んだとしても、その責を対戦相手や
冒険者ギルド、国が負わないというもの。
つまり死んでしまったとしても失格にはなれど
殺人罪などで罪になる事が無いのだとか。
これが普通のBランク昇級試験らしい。
真剣にやる以上は不慮の事故も起こり得る。
それが呑めない者は今すぐ最終試験を降参と言う形で
降りろ、という事らしい。
ま、それを気にしてたらこの先
どんな核心持ちや
母なる核心持ちと戦うかも解らない
私にとってはやっていけるものではない、と
特に気にしなかったのです。
「それでは3番目、リラさん。」
筆記試験の順位は3位、2人の力を合わせても
まだ上が居たんだね……。
っていうかここにダンスとかの成績も
含まれている筈だから………良かったのかな??
呼ばれ木箱に手を入れるとカラカラと音がし始めた。
私が混ぜている訳では無いのです。
どうやら勝手に混ざる仕組み?
多分魔導具の類、と思われる。
そして中から木札を1枚掴んで、抜き出した。
「リラさんは20番です。」
「うへっ……。」
逆シード席……。
17から20番までが逆シードになっていて
元々の1番から16番のトーナメントの
1番、8番、9番、16番にくっついているのです。
形としてはこうなります!!
優勝(Aランク昇級)
┌───────┴──────┐
┌──┴───┐ ┌──┴───┐ ←試験合格ライン(Bランク昇級)
┌┴─┐ ┌─┴┐ ┌┴─┐ ┌─┴┐
┌┴┐┌┴┐┌┴┐┌┴┐ ┌┴┐┌┴┐┌┴┐┌┴┐
┌┴┐││ ││ ││┌┴┐ ┌┴┐││ ││ ││┌┴┐
17 123 45 678 18 19 91011 1213 141516 20
『誰かの努力の跡がちょっとだけ見えますね……。
環境次第でずれたりしそうな予感しかしませんが……。
これで「勘弁してつかぁさい!」って泣いてる
作者の顔が見えそうなトーナメント表ですね……。』
「まぁ画像で貼れよ、って突っ込みたくなるよね……。」
つまり私は3勝しなければ合格に手が届かず
さらにそこから2勝しなければAランクにはならず
Bランクになる。
しかも受験者の風貌も様々。
筋肉質なお方から、スラッとした感じのお方まで
大小様々……。
『小はマスターだけでは?』
シャラップ!
小さいのは自覚しててもそれを言われるのは
別の問題だからね!?
そしてこの世界には無い、と思っていたものが
次に出てきたのです。
写真機……?
「これは肖像画用の静止撮影を行う魔導具です。」
……………カメラだね。
『カメラですね、形以外は……。』
しかしなんで、形が亀?
どこからどう見ても亀、今にも動きそうな亀……。
まぁ掌に乗って少々はみ出すかも位のサイズの亀。
番号順に受験者がその亀の前でポーズを取り
ギルド職員さんが背中の甲羅の真ん中を押すと
カシャっと音がした。
そのまま紙が出てくるのかと思ったけど
どうやら魔物の体内からとれる魔石、というものに
記録しているそうで、これを後々
紙のようなものに写し描く事が出来るのだとか。
つまりデジタルカメラにプリンターみたいな?
この世界は技術の進み具合が色々とおかしい。
空飛ぶ乗り物も飛行機、ではなく飛空艇だし……。
撮影が終わると3日間の休養期間を経て
いよいよトーナメント戦が始まるとか。
そして既に翌日からやっぱりこの世界の技術は
色々おかしいと思ったのです。
「超ハズいんですけど……。」
なんと空に画面のようなものが王都中に浮いていて
Bランク昇級試験の最終試験の案内がされていたのです。
画像、というよりは動画。
音声もついていて、それによってまず開催の知らせ。
そして観覧の為のチケット購入方法の案内。
そして多分こっちが本命なんだろうね。
現在の賭け状況などが伝えられていた。
但し情報、といっても伝えられるのは
あの亀型のカメラ魔導具でとった写真に
名前が書かれているだけ。
それだけで賭けなければならないらしい。
ちなみに参加者、その関係者が賭けるのは駄目なんだってさ。
『私ならマスターに1点張りしますが?』
ダメダメ、これは娯楽の少ないこの世界にとって
数少ない娯楽らしいのと賭けられる額にも制限があるとか。
どんなに多くても1試合に対し銀貨1枚。
それと準々決勝まで進むかどうかを賭ける方式も銀貨1枚。
また優勝者を当てる項目も銀貨1枚。
日本円にして上限が1万円と
それこそ日頃の父親が飲み代でも稼ぐようなレベル。
「これなら魔物倒しに行った方が良いよ……。」
ちなみにこの賭け事、裏ではもう1つの開催理由があるのです。
最終試験受験者には伝えられているのですが
これは捕り物の一環でもあるそうです。
賭けの受付所にはなんでも魔力を認識する魔導具や
登録証などを認識する魔導具が設置されていて
犯罪歴のある人や、犯罪を犯した人達が立ち寄ると
すぐに連絡が入り、衛兵さんが駆けつけるのだそうです。
「何か免許みたいな理由だよね……。」
『端金だとしても、そういう人物が
寄ってきやすいのではないでしょうか……。』
「なのかな……。」
そして翌日の映像にはもう顕著に賭けの差が出ていたのです。
いわゆる配当、と呼ばれる倍率。
その数字の差が1桁台と2桁台と分かれ始めたのです。
そしてそれは最終試験当日。
既に賭けは打ち切られていて、最終倍率だけが表示されていたのです。
「酷いもんだね……。」
『まぁ見た目だけですからね……。』
っていうか撮影の時に私だけさ。
当日の恰好で、って言われたから
ベーシックフォームで撮影したんだよ?
それってつまりゴリラだよね?
「1番人気……2.3倍……。」
私はバイザーを下ろして撮影した為
1番人気になっていたのです……。
『結構なバストアップですから身長も解り難いですよね。』
「あー、それもあるか……。」
確かに対比出来るようなものがないから
身長なんかも解らない。
つまりほぼ顔と肩当たりの筋肉が目印となるくらいで
それが完全なゴリラ写真、とくれば
1番人気でも仕方ないのかな……。
「一番不人気な人で247倍ねぇ……。」
『そもそも優勝するおつもりなのでしょうからどこに問題が?』
「賭けがつまらなそう……。」
『そこにどんな問題が?』
「……………多くのおっさんが小金をせしめて
酒場に集まる光景が気に入らない。」
ただ個人的に不本意な感じの絵面をイメージした事で
少々つまらなく感じていただけだったのです。
でも勝つよ?
星5点満点で「面白い」や「面白くない」と
つけていただけると、作者が一喜一憂します!