第114話 黒 の 勇者 の 正体。
「…………………くそっ!
糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞!!」
タブロクはリラが見えなくなった後
これでもかと地面を拳で叩いていた。
「おや、何しとるんだね?」
「あんたか、見れば解るだろう!
ここまで虚仮にされたのは初めてだ!」
「なんだ、意外と効いてるじゃないか。
次、あの小娘に会ったら感謝すべきなのはお前さんじゃないか。」
「何を言ってる!
どこに感謝するような事があったっていうんだ!!」
「お前さんとあの小娘の馴れ初めなどあたしゃ知らんよ。
だが、潰す前に死んだ魚のような目が
今は思いのほか活き活きとしているではないか。
勇者だなんだと関係なく、冒険者にも必要なもんだ。」
受付嬢?(お婆さん)は懐からパイプを取り出し
火を付け煙を燻らせると、どこからともなく椅子を取り出し
タブロクの近くに座り込んだ。
「冒険者ってのは死んだ魚の様な目してりゃ
すぐに食われちまう。
魔物かもしれないし、人かもしれないし
時には同じ冒険者かもしれない。
だけどねぇ、あんたの場合はちと闇が深いんだよ。
まるで昔の親父さんを見ているようだよ。」
「………あんた、親父を知っているのか?」
「ああ、タブだろう?
名前からしてすぐに解ったよ。
それにタブイチとタブサンだったかい?
お前の兄2人にも会った事があるよ。」
「親父は!?兄ちゃん達は元気なのか!!」
「………死んだよ。
それとタブニにタブヨンとタブゴだったかい?
そいつらも死んだとタブから聞いてるよ。」
「兄ちゃんと姉ちゃんが……死んだ!?
そんな馬鹿な!!」
「何が馬鹿な事さね、戦って死んだやつを
馬鹿だのと侮辱するのは許さないよ?」
「戦って……死んだ?」
「そうさ、タブとタブイチとタブサンは
共に厄災を止める為に戦って死んだよ。
タブニは人族に捕まって殺され、タブヨンとタブゴは
戦争で亡くなったそうだ。
だが、誰も彼もが人を護る為だったそうだ。
タブニは唯一の女だったが、山賊に捕まった
仲間を助けに向かい、捕まって殺されたそうだ。
タブヨンとタブゴは地下迷宮に仲間と共に潜って
帰ってこなかったそうだ。
地下迷宮で死ねば、遺体も骨も
地下迷宮が取り込むから残りゃしない。
そしてタブとタブイチとタブサンはここで死んだんだよ。
ついてきな?」
タブロクは受付嬢?(お婆さん)についていくと
そこはとんでもなく広い墓地だった。
「ここはここで冬将軍と戦って死んだ者達の墓だ。」
「冬将軍?」
「毎年12月になると南下してくる厄災級の魔物だよ。
ただの厄災じゃないよ?
魔物ランク3Sランクの本当の化け物だ。
これを毎年、どこかのこうした海沿いで
国軍が、冒険者が倒しているからこそ
世界はこうして平和を甘受出来ているんだよ。
冬将軍は毎年南の果てまで突き進んでいく。
その行く手を遮り、出来る限り北で倒せば
そこから南には大雪に見舞われないのさ。」
「………もし南の果てまで行ったらどうなる?」
「この世界全てが冬の間、大雪に見舞われるのさ。
それが世界の南であろうとだ。
特に南側はこことは季節が真逆なんだ。
本来熱く、温かい気候であり農作物を育てるのに
良い環境があっという間に大雪で覆われるのさ。
つまり年2回、冬がやってきてしまうんさ。」
「それを……止める為に?」
受付嬢?(お婆さん)は少し頭をカリカリと掻いてから
タブロクに向き合った。
「これがあんたの親父さんのタブ。
こっちがタブイチでこっちがタブサンの墓だよ。」
「親父……、兄ちゃん……。」
「お前さんは多分知らないだろうから教えてやるよ。
もう教えられるのはあたししか居ないだろうからね。」
「何をだ?」
「あんたの親父を含め、兄姉達が揃いも揃って
冒険者だった理由だよ。」
それはタブロクにとっては初めて聞く内容で
非常に驚いていた。
オークビッツ族は人族に狙われやすい事から
人里からは離れた場所に暮らしている。
しかし生活をしていくにしても
獣は狩れる量にも限りがあり
天然の資源としては限られる資源であると共に
そもそも人とあまり係わり合いのない
オークビッツ族が何かを作ったとしても
それを売る際には安く見られる。
正直に言えば、オークビッツ族は
人里離れて暮らしている一方で、本来は
非常に貧乏な種族なのだと知らされた。
そこで父であるタブを始めとした
タブイチからタブゴまでの兄姉は
成人後には集落を離れ、そして冒険者として稼ぎ
長老にだけその稼ぎの多くを送る事で
オークビッツ族の生活が成り立っていたと知らされた。
「なんで………。」
「なんでだろうね、ただなんとなーく推察は出来る。」
「推察……どんなものなんだ?」
「なんとなくね。オークビッツ族ってのは
力が非常に弱い種族であると同時に
素早さに関してだけ言えばけた違いに速いもんだ。
だがあんたを見ていて思ったよ。
タブは疎か、タブイチからタブゴまでと比べて
あんたはとんでもなく遅いんだよ。」
「俺が……遅い?
俺は集落では最も強く、そして最も速かった!!」
「それはないね、最も遅かったタブニですら
あんたの3倍は速いよ。
最も速いタブなんて比べる方が馬鹿らしい位だよ……。」
「3倍……。」
「元々オークビッツ族ってのはね、古の時代に
王家に仕えた忍、未だと暗部と言う役割を担っていたんだよ。」
「忍?暗部??」
「そうだ、そしてある時オークビッツの1人が
その王族の娘さんと恋におちたんだよ。」
それは南の砂漠の国の第一王女だそうで
肌が黒くも綺麗な女性だったとか。
「……………まさか俺の肌が黒いのって……。」
「その名残だろうね。当然、オークビッツ族は
王家から狙われ、第一王女と北へと逃げたとされている。
ってのが古い話だよ。
そもそもその国はもう亡くなっていてね。
真偽の程も確かめようがないってもんさ。
かなーり昔の話だからね……。
多分だが、あんたはその血が色濃く継がれている。
だからこそ、あんたは遅いんだろうさ。
純粋なオークビッツ族の筋肉は特別だ。
それが素早さの根源でもあるんだからね。」
「なら……なら勇者ってのは!?」
「嘘だろうね。オークビッツ族の中でも
その血が色濃いなら、まず力がそこそこある筈だ。
その変わりに素早さにおいては少し劣るってもんだろう。
確かにあんたは集落、という狭い世界では強かったかもしれない。
だが、聞きたいのは1つだ。
タブ、そしてタブイチからタブゴまでと
戦った事はあるかい?」
「ある……勝てた事は無い……。」
「それが答えじゃ無いのかい?
お前さんは純粋なオークビッツ族の血族としては多分劣るだろう。
だが代わりに第一王女の血を色濃く継いでいるのであれば……。
あの小娘が置いていった短剣。
あれを用いて出来るのは、恐らく時空魔法だろうね。」
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