第113話 霊長類最弱 の 拳
ウォッチフォームはゴリラアーマー自体は
ゴリラ顔の蓋付の腕時計型に変わる。
但しそのままだと下着姿の私になるので
ゴリラコンテナから何かしら服を出して着なければ
ただの痴女と化すフォームなのです!!
「あんたにゃこのくらいのハンディキャップがあった方が良いでしょ?」
「は……?」
但しハンディなんて一切無い。
ゴリラアーマーがレベル2になった際、制約が無くなった為
実際この姿でもベーシックフォームと同じ力で、同じ能力。
違いと言えば腕と脚の長さがゴリラに寄らず
人間である私にの腕と脚のバランスに寄る事と………。
『折角の……折角のゴリラ姿がぁ!!』
ニクジュバンニが嫌がるくらいだ……。
どんだけゴリラ、っていうか自分大好きなんだかね……。
「獅子搏兎、獅子は兎のような弱い動物を狩る時も
全力で行うって意味だけどさ。
兎でも無い、やる気の欠片も無いあんたを死なない程度に
痛め付ける位、最早ゴリラアーマーすら必要ないね。
もうこんな高価そうなドレス1枚で十分って事なんだよね。」
目が開いてないから、タブロクの表情は
思った程見てとれなかった。
死んだ目をしているのか、それとも活きている目をしているのか。
「霊長類最弱パンチ!!」
人間はゴリラより、オランウータンより、チンパンジーより弱い。
そしてニホンザルのような猿同等、と言われたりはするも
人間がもしニホンザルと同じ体格であったならば。
人間とは霊長類最弱である。
え?メガネザルやアイアイはどうなんだって?
……………さぁ…。
とりあえず自称霊長類最弱って事でいいじゃない!!
パンチはタブロクの顔に簡単に入った。
『マスター、意志通りに大幅にパワーを下げてあります。』
それでよろしい。
そしてタブロクは吹き飛ぶ事も無く、その場に倒れ込んだ。
「装備1つ無くとも問題無いみたいだね。」
私はマウンティングポジション、馬乗りになって
タブロクを殴り続けた。
ムカつく。
この諦めたような姿、俺はやるだけやったみたいな
満足そうにも見える顔。
自分に酔いしれている顔にしか見えない……。
5分もすれば私の拳も赤く塗れ
タブロクは息も絶え絶えな状態だった。
顔1つ腫れてない癖に…………。
「じゃ、これ貰っていくね。
あんたにはもう不要だよね?」
オークビッツ族に伝わる宝剣。
最早こんなタブロクが持っていて良いものではない
とばかりに私はタブロクから奪い取った。
そして去ろうとした時、やっと私の足に
腕が伸びてきて、去るのを止めに来たのだった。
「何?その手は……。」
「それを……返せ……。」
「え?あんたに必要なくない?
少なくとも私はあのオークビッツの集落に居た
オーガを倒してるんだから
むしろ私が勇者じゃない??
これは勇者が持つなら、私が持つべきじゃ無いの?」
「勇者は………俺だ……。」
「ならこうするのが一番みたいだね」
私はとっさに2本の短剣を似たような
オークビッツ族の集落から持ってきたものを入れ替え
ニクジュバンニにフルパワーを出すように伝えた。
「ふんっ!!」
見えていないタブロクにはこれで十分だろう。
私は丸め潰した2本の短剣をこれでもかと丸くし
タブロクに投げつけた。
「これで宝剣とやらはただの金属の塊。
勇者とやらにもう捕らわれる必要も無くなった。
良かったね。」
「貴様………俺の………。
俺の形見を!なんてことしやがったんだ!!」
手を伸ばしたタブロクはその塊が
宝剣だと思い込んでいるようだった。
『残念なオークビッツですね……。
別の金属ですから重さで解りそうなものですが……。』
私もそう思う。
タブロクの宝剣は非常に軽い。
今投げた短剣なんかとは比重が違い過ぎて
重さですぐ解って良い筈なのに
それが解らない位なんだよ。
後ろ暗さがあるっていうか、前をまともに見られないと言うか。
「その宝剣もそうだけど、後ろをいくら振り返ったって
時間は巻き戻る事は無いし、死んだ人も生き返らない。
その宝剣はあんたにとって、所詮思い出で思い出を振り返る為の物で
決して遺品でも形見でも無かったって事だよ。
形見ってのはその人の死を受け入れた上で
その思いを継ぐ為のものであって、決して故人を死を
侮蔑するものじゃないんだよ。
だというのに今のあんたは酷い顔してるよ。
前も見ずに後ろばっかりを気にしている。
人の評価や亡くなった人達の評価ばっかり気にしててさ。
もしももしももしももしも……あんたは未来の世界の猫型ロボットでも
友達にいるのか!?一緒に住んでるのか!?」
『マスター、相変わらず話がズレにズレてます。』
「いいんだよ!こいつは出来ない事を悔やんで
出来るようになっても今更と悔やんで!
一生悔やんで悔やんで悔やんで生きていくんだろ!!
よかったね!亡くなったオークビッツ族を侮蔑しまくって
さぞかし良い気分だろうさ!!」
「侮蔑だと……?」
「恐らくあんたが最後のオークビッツ族なんだろ!
つまりこれからオークビッツ族ってのはあんたがした事が
全てオークビッツ族の評価なんだよ!
良かったじゃない、評価好きのあんたは今のあんたが評価されるんだ!
これまでどんなにオークビッツ族が築いて、護って、誇ってきたものが!
たったあんた1人によって簡単に崩れていくんだからね!
あんたは生き残りだろうが!それがどんな理由であろうとね!
ならオークビッツ族はこうだ!凄いだろう!ぐらいの事
してみなさいよ!前向いて生きなさいよ!
あんた勇者なんでしょ!?
勇者ってのはどんな困難にも立ち向かうから勇者なんでしょ!?
勇者なんてのは勝った負けたなんてのはどうでも良いんだよ!
勇気があって、物事を躊躇わずに思い切ってやりゃいいんだよ!
そうして生きてやっと勇者なんだよ!
あんたが何かを成し遂げて得られるのは勇者って呼ばれる事だけで
勇者である事とは関係ないんだよ!
治っている目ぇ1つ開ける勇気もないような奴に
勇者なんか名乗る資格があるか!
自分で自分の目を潰すような馬鹿につきあった私の方が馬鹿だったよ!」
私はタブロクを次に見かけたら
殺してしまいそうな感じに、その場から去った。
地面には2本の宝剣とやらを突き刺し
タブロクが何を言おうと、振り返る事は無くその場を去った。
ゴリラ鑑定で、タブロクの目は自ら潰し切ったものだと解った。
私は殴るのに合わせて「ゴリラ内癒」「ゴリラ外癒」
「ゴリラ再生」を叩き込んで治したけど
目、1つ開ける事すらなかった。
形見と言いながら、それを奪い返す気概1つ見せてこなかった。
前に遭遇した際にはまだ私はタブロクが元のように
戻る事を期待していたし、その可能性を見ていた。
だけど今はもう駄目だね。
あれ(タブロク)は心が折れてるのかもしれない。
少し前、私も心が折れかけた。
自暴自棄にもなりかけ、目を覚ます事を拒んだ。
だから私は半年も眠りについた。
だけど今は前を向く決心がついた。
タブロクもそうなれば、と思ったけど
もう期待は出来ない、諦めた。
ただ僅かな接点が出来ただけで
気を揉んだ私が馬鹿だった。
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